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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION12: トゥルーエンドをその手に
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Task3 依頼主の拠点に殴り込め

 煙の槍さえあれば、桃○白よろしくひとっ飛びで次の場所へ!

 ダーティ・フライトツアーです。


 見下ろした景色は、白い壁やら彩り鮮やかな石畳、それによく手入れされた植え込みが俺を少しも楽しませて(・・・・・)くれなかった(・・・・・・)

 暴力を白壁で塗って隠すとは、くだらない真似しやがるぜ。

 ドップラー効果で聞こえてくる賛美歌も、殊更不愉快だ。

 いつか、滅茶苦茶にしてやる。



 ……さて。

 ここで俺様の置かれている状況を確認しておくか。


 この世界は元々、VRゲームだった。

 俺はそこで、ロナの依頼を受けたついでにプレイヤーキルをしまくった。


 どうやらこのゲームを作った企業が、俺を元に敵NPCを作りやがった。

 で、そのNPCは、このゲームが異世界になった時に何かの間違いで増えた。


 全部積み重なって、俺は晴れてプレイヤー共の敵だ。

(それと同時に、自尊心を満たす道具でもある)


 じゃあ俺がすべき事はなんだ?

 正面突破して、暴れまわってやるのさ。



 煙の槍に捕まって、両脚を突き出して大扉を蹴破る。

 この膝に来る感触が癖になりそうだ。


「城門を、蹴り破るなんて……!!」


「お楽しみはもうちょっと続くぜ。そら、立てよ、紀絵」


「は、はい!」


 城内の衛兵共を片っ端からなぎ倒す。

 蹴飛ばして、放り投げる。

 紀絵は魔法を使う。


「ひぃ、ひぃ……こ、殺さないように手加減するのも一苦労ですわね……!」


「だが、かといって、こいつらを悲劇役者としてシェイクスピアの事務所に送るのは怖かろう」


「えっとつまり、殺したくないって事をおっしゃりたいのですわね!? ええ、ええ、先生のおっしゃる通りでしてよ!」


 紀絵は胸を張って、したり顔だ。

 そりゃあそうだろうよ。

 さっきまでいっちょ前に口を利けた奴が蝿の餌になる(・・・・・・)のを見るのは、気分のいいものじゃない。


 少しばかり城内を歩き回る。


「ガンマンは北壁で食い止めるって話じゃなかったのかよ……話が違うぞ」


 などとぼやく衛兵を見つけた。

 話が早いのは助かるね。

 悪態をつく割には冷静で、そこが鼻に付くが。


「ロナって女を探しているんだが」


「あの女を? ここにはいない。他所を当たれ」


「じゃあ、どこかにはいるって事かい。ご親切にどうも」


 お礼に煙の槍を拳に纏ったパンチを腹に御見舞してやろう。

 鎧を意に介さない一撃の、そのお味は如何かな?


「ぐえぇッ!!」


「あばよ」




稲光を(ゲフローレン)纏う水(メルクール・)銀の氷柱(ウント・ブリッツ)!」


 紀絵の手を借りて廊下の床やら天井やらに大穴を開けて時間稼ぎなんてしてみたが、それを差っ引いても追っ手が来るまでに随分と時間が掛かっている。


「まさか瓦礫の撤去に業者を呼ぶからって、ひとまず電化製品店で黒電話を買いに行ったのかね」


「そ、それにしても……些か、壊しすぎではありませんこと?」


「さあね。事情がどうであれ、俺の城じゃないから知った事じゃあない」

 そのついでに、盗める物は盗んでおく。

 出来る限りの嫌がらせをしまくってなお、依頼主サマが寛大な心を見せてくれるなら、俺は指示通りに動いてやらんでもない。

 何せ、依頼主サマはロナと因縁がある。


「よいせっと」


「……ほ、本当に、大丈夫でして?」


 金庫に煙の槍を突き刺してこじ開ける。

 そして指輪の収納スペースに金銀財宝の一切合切を放り込む。


「大丈夫かどうかは、依頼主サマが判断するさ」


 国庫の全ては俺の物。

 もうビヨンドを呼び直す為のカネは無い。

 それこそ、ポケットマネーでも出さない限りは。



 ついでに同僚(・・)の痕跡が無いか見ておこう。

 サーマルセンサーグラスのスイッチを入れる。

 ……特にめぼしいものは無さそうだ。


 とにかくあちこちの部屋を荒らし回った。

 コンマ数秒で眼球に景色を焼き付ける。


 そして煙の槍で家具を放り投げる。

 例えばクローゼットなんかは宝箱みたいなもんさ。

 ティアラ、チョーカー、ネックレスにブレスレット、それから指輪に靴に服のボタン!

 金目のものは幾らでもある。



 さて、この階の部屋はあらかた探し終わったか。

 残すは目の前の、この部屋だけだ。

 途中で面白いもの(・・・・・)を見つけたが、それは後の楽しみに取っておくとしよう。

 証拠品は、既に指輪の中だ。


 ズドン!

 解錠オーケー。

 ドアを蹴り破る。


「「ひっ!?」」


 声を揃えて抱き合うカップル……かね。

 見た目の割に、声は歳を感じさせる。


「おっと失礼。告別式でもするつもりだったのかい」


「は、はい……?」


 部屋を物色しよう。

 定期的に奴らを見てやると、そのたんびに肩をビクリと震わせて目を逸らすのが何とも面白い。

 やれやれまったく、そんなに俺が恐ろしいのかね!


 ……特に何もないか。

 この近辺にゃあ同僚サマの気配が無いようだ。


 さて、これだけ暴れれば、少しは尾ひれ背びれも付けやすいだろう。

 俺に負けて仕方なくそうしたと嘯いてもいい。

 この俺を見事に屈服させて従えたと喚いてもいい。


「邪魔したぜ。あばよ」


 背中の気配が変わって、空気も変わった。

 三十分は待たせたか。


「オイタはぁ、そこまでですぅ」


 聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。


「これだけ手こずれば、言い訳するには充分だろう」


 などと俺がほんのちょっとの親切心を片手に振り向けば、こりゃまた懐かしいツラの女だ。

 水色のロリータファッションに身を包み、ピンクの髪を左右に結っている。

 依頼書にあった名前は、こいつのもので間違いない。


 “ゆぅい”……恐らく、ロナにとって人生で一番嫌いな女だ。


 その周りには、簡単な金属の部分鎧をしたメイドと執事が何人も、ずらりと並んでいた。

 胸当て肩当て脛当てと、どれもアラベスク模様に掘られている。

 胸元の、金の刺繍をした赤いスカーフがキザったらしくていけねぇ。

 さて、そんな連中が一斉に武器を構えるのを、ピンキービッチちゃんは手で制する。


「まずはぁ、オイゲンさんとメヒローさんを避難させますぅ。黄衣のガンマンが暴れたら、タダでは済まされませんからねぇ?」


 いいツラじゃないか、依頼主サマ。

 メイドと執事のうち何人かがカップルのところへ駆け寄って、背中を押しながらそそくさと退散していく。

 うち一人がスカーフを外して壁に掲げると、隠し通路への出入り口が動いた。

 なるほど、からくり屋敷とはよく考えたもんだ。


「聖女様、ありがとうございます! どうか、ご無事で!」


「だいじょ~ぶ。最高の仲間達が負ける筈ないですぅ」


 間延びした口調で、手をひらひらと振る。

 それにしても“聖女”とは大袈裟な異名を持ちやがる。


「――で? そのもう片方、ゆぅいの劣化版みたいな格好の子は誰ですぅ?」


 俺の影に隠れていた紀絵は、扇子を畳んでスカートの端っこを摘み、淑女の一礼(カーテシー)をした。


「臥龍寺紀絵と申しますわ。以後、よしなに」


「そうなんですかぁ~。まぁ、名前はぁ、別にぃ、いいですけどぉ。ロナの代わりがパッとしない子なんて可哀想ですねぇ」


「ええぇ……!?」


 ツラを上げた紀絵と来たら、返事に困ってやがる。

 随分とバカにされたもんだ。

 だが……。


『挑発に乗ってやる必要もあるまいよ』


『ええ』


 一瞬で持ち直し、紀絵は依頼主サマを睨む。


「それはいいとして、ロナさんがどこにいるか、ご存じですのね?」


「もちろんですぅ。素直に言うこと聞けば――」


「――ああ、さんざっぱら引き伸ばした挙句、偽物掴ませてさようなら……なんて真似は勘弁してくれよ。ちゃんといい子にお利口さんしてやるから」


「黄衣のガンマンがですかぁ? キャラじゃない事するの、身体に悪いですよぉ?」


 がやがやと、周りの取り巻き共が騒がしいぜ。

 以前、ここがゲームだった頃には見掛けなかったツラだが、残りの連中はどこにやりやがったのか。


「周りに控えてやがるのは、親衛隊って奴かい」


「違いますぅ。ゆぅいのお友達ですよぅ」


 お友達だと!

 こりゃあ傑作だ。


「笑わせてくれやがるぜ。これがお友達って風情かよ。

 さてはお前さんの学校じゃあ、道徳の授業で人を自殺に追い込む方法でも教えていたんだろう」


「ぷー! なーんも立場を理解してないですねぇ。ほぉんとに、お馬鹿さんですぅ。ねー?」


 なんて呼びかけりゃあ、あちこちから声を殺した笑いが滲み出ると来た。

 ちなみにカップルは困惑していた。


「くすくすくす」

「ふふふ」

「何かっこつけてんのアイツ」

「だっせ」

「人殺しのくせに」

「死んどけよ、ザコがよ」


 いや、笑いが止まらんだろう。

 お前さん達が笑顔だと、俺まで笑えてくるぜ!


「ふはは、ははははは! 立場だと! 立場と来やがったか! ふはははははは!

 ……勘弁してほしいね。悪い女は食傷気味なんだ」


 そのうちの半分以上が、世に蔓延るクソッタレな因習のせいでそうならざるを(・・・・・・・)得なかった(・・・・・)と想像してみよう。

 仮定する、じゃなくて想像だ。


 ……なるほど、ミソジニーの連中が吐き気を催しそうな展開だ。

 こと暴力的なマッチョイズムの信奉者共は“自己責任”って言葉を、むやみやたらに使いたがる。

 だが、大概の場合てめぇで責任を負いたくない言い訳でしかないのさ。


 ここにいる猛毒の塊も自己責任で、ロナの自殺も自己責任ってか。

 つまり「社会が悪い」は言い逃れ?


 オー、やだねえ!

 是非ともそういう連中には、全身の筋肉をナイフで削ぎ落とした上で「お前さんのせいで、俺はお前さん達の肉を削ぎ落とす必要がある」とでも言ってやるべきだ。

 そうしなくちゃ責任が果たせない。


 さておき“ゆぅい”とやら。

 お前さんに、このゲームの手綱を握らせはしない。

 親が教育しなかったツケは、子供の不幸を以て支払って貰おう。


 ……そういうのは、得意だ。


「ゆぅいは、悪い女なんかじゃないですよぅ?」


「じゃ、物分りの悪い俺様に、その立場って奴を教えてやってはくれないかい。俺の予想は、こうだ!」


 パチン!

 ……さて。

 どこかの誰かさんと違って、手短に説明してやろうじゃないか。




(正直、ピンク髪のゴスロリが悪役というのも大概お約束じみていますよね……)

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