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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION12: トゥルーエンドをその手に
129/270

Intro 激動に至る邂逅と悔恨

 日頃からご愛読頂きまして、誠にありがとうございます。

 これよりMISSION12です。

 よろしくお願い申し上げます。


 MISSION02から随分経ちますね。

 我ながら、感慨深いです。


(※章タイトルがアレですが、別に最終章ではないです)


 朽ち果てた城塞の苔むした武器庫に、その集団は陣取っていた。

 つい数週間前までは生活の気配すら無かったようなテーブルに、書類が散らばる。

 更にその上から、酒瓶が叩き付けられて破片と内容物が飛び散った。


「まったく、どうなってやがる゛んだァ、この世界はよォ! 多額の報酬に二つ返事でオーケーしてやったら、ゲェ゛ーム内通貨だっただあ゛ァ?

 しかも、暇つぶしに読むものがほしいと俺が言ったら、あいつら何を寄越したと思う? そこに散らばってる紙屑がそうなんだけどさァ゛~」


 頭頂部に拳大の髪を残し、それ以外は刈り上げている。

 それだけならば単なる柄の悪い大男だが、彼は自身の風貌に更なる異様さを与えていた。

 彼の顔は、まるでモダンテイストな床のように、白と黒のチェック柄の入れ墨によって彩られていたのだ。


 そのような奇々怪々な大男が当たり散らしているのだから、配下の者達も萎縮せざるを得ない。


「は、はあ……さあ? 何を貰ったんですかい?」


 遠慮がちに、おずおずと配下の一人が尋ねる。


「推理小説だよ、推゛・理・小・説! ああ、まどろっこしい! オチまでに時間が掛かりすぎなんじゃ!」


 その宣言通り、小説は先刻テーブルに叩き付けられていた。

 無残に引き千切られた状態であり、顔面チェック柄の男はその残骸にナイフを何度も突き立てた。


「だいたい、なァ゛~にがダーティ・スーだ! 粋がってるだけの、ぽっと出の新米ビヨンドの分際で分身なんざ作りやがって!

 あのヒヨコちゃんが世界のあちこちに湧いて出てるとか、雑魚もついに雑魚を極めたかって! もォ゛~、笑いが止まらんね! ギャ゛ハ、ハハハハハ!」


 などと椅子の残骸に腰掛けて哄笑を響かせるこの男も、ビヨンドだ。

 彼が今回引き受けた依頼は、二つ。

 アルヴァント帰参者連合に仇をなす“初夏の旅団”を洗い出す事。

 そして“この世界”からダーティ・スーを一掃する(・・・・)事だ。


 ビヨンド歴の長いこの男にとって、購入スキルのみに頼る戦い方など片手落ちも良いところだった。

 ましてダーティ・スーといえば“行き当たりばったりの小細工を弄して雑魚を相手に弱い者いじめをして小遣いを稼ぐだけの小者”というのが、この男と仕事仲間達に共通する見解だ。


 まして、そのコピーなど。

 本物ですら雑魚だろう。

 大量生産品のコピーならば、よりいっそう弱かろう。



 それに比べれば、この男は己の戦略に絶対の自信がある。


 まずは現地で危機が迫っている事を伝え、協力者を確実に増やす。

 充分に対策を練って、その傍らで裏工作を行う。

 場合によっては追加でビヨンドを呼ぶ。

 これによって彼は、成功率99.95%の実績を叩き出し、文句なしのAランク・ビヨンドとして名を馳せた。


 人呼んで――“戦略王”グリッド・ライナー。


 任務遂行に伴う些事など、いちいち雇い主が詮索する筈もない。

 如何なる不備も、素行不良も、完璧に近い成功率の前には何もかもが霞む。




「せ、先生! 先生!」


「あ゛あ゛ッ!? セーフティーゾーンで何を騒がしい! 燃やしちゃうよォ゛~ン!?」


 ゲーム世界だった頃の名残なのか、この付近に魔物に類する存在は現れない。

 また狙撃などもされない。

 敵対者は絶対に現れない。


「あの、後ろです!」


「後ろォ゛~? 後ろを向けば何かあるってか!? 例えば――」


 ――例えばダーティ・スーとか。

 それを、グリッド・ライナーは言えなかった。



「ごきげんよう、俺だ。ちょいとお邪魔するぜ」



 グリッドの視界に入った、窓枠の残骸に寄り掛かるその男こそが、当の本人……ダーティ・スーだからだ。

 これが出て来るのは想定内だったが、出くわす場所が想定の範囲外だった。


「んぎゃあああああァ゛~!?」


 セーフティーゾーンを乗り越えてやってくるという事は、亡霊じみたNPCの量産品などではない。

 ましてや、侵入者対策は万全だった筈だ。

 拠点はこまめに移動していたし、撹乱の為に用意した人員だって数千人はくだらない。



 だからこそ、彼にとっては不可解だった。


 ――逆光に照らされながら、ダーティ・スーの隣に並び立つ者達の顔ぶれが。




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