表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION11: ソドムとゴモラを呼んでこい
120/270

Extend5 こんな前哨戦は早く終わらせるに限る

 もはや、いつものやつです。


 俺、クレフ・マージェイトは、チャラ男ヤンキーホモ悪魔と一騎打ちする事になった。

 ダーティ・スーは一体、何を考えてるんだ……!


「戦う前に一つ訊かせてくれ、ダーティ・スー!」


「手短に頼むぜ」


 手短も何も、質問するのはたった一つだ。


「それだけの力を持ちながら、どうして遊んでいる?

 自らは戦わず。ゴブリン達をけしかけて、見殺しにして。そして、あまつさえ俺と悪魔を戦わせる理由は何だ?」


 ……たった一つだ(一つとは言ってない)。

 教えてくれよ、ダーティなんちゃらさんよ。

 それとも、格好付けているだけで何も考えていないのか?

 所詮“ぼくのかんがえたさいきょーのあくやく”を気取りたいだけか?


 ダーティ・スーは壁にもたれながら、気だるげに手を挙げる。


「答えをてめぇで言ったじゃないか。その通り、遊びだよ。

 お前さんの正義を検証する前に、こいつのリクエストに応えてやろうと思ったのさ」


「ほーん。人体を鈍器に使っておきながらひとさまの正義を検証とか草生えますわ」


 そういう手前勝手な理屈で犠牲になってきた人達の事、少しでも考えたことあるのかな。

 無いんだろうな。

 どうせ“お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?”とでも返してくるんだろ。

 まじ無いわー。


「もう少しだけ付き合ってもらおう。今にお前さんのツラから、一本残らず草を刈り取ってやるさ」


 とか気取った風で意味不明な事を言ってきたし。


「何だよ、その返し方。ガイジかよ? ちゃんと会話通じてる? 耳と頭のどっちに障害があるんだ? どっちもか?」


「クレフさん、ガイジとは何でしょうか?」


 エウリアが、ちょこんと首を傾げる。

 ああそっか、こっちじゃ広まってないよな。


「可哀想なおバカちゃんの事だよ。たとえばあの黄色いコートの人みたいな」


「なるほど……」


 とりあえず馬鹿にしとこう。

 なのに、スーは手を叩いて笑い始めた。


「……ふは、ははははははは! おい、紀絵、聞いたかよ!」


「ええ、しかと聞き届けましたわ」


 ゴスロリ美少女が、侮蔑混じりに肩を揺らす。

 なんなんだよ、一体……。


「よりにもよって、弱者を守って差し上げる(・・・・・・・・)立場の者が、そういう事(・・・・・)を口にするとは、些か自覚が足りないのではなくて?」


「どういう意味だよ」


「ご自身で考えて御覧なさいな」


「メンヘラっぽい二人組の片割れが何か言ってる件について」


 エウリアにジョークを飛ばす。

 ……あれ、やっぱり通じてない?


「ふはは! おい、猛英たけひでの坊や。気が向くなら、ぶっ飛ばしちまえ。

 あの野郎の正義を検証してやろうと思ったんだが、どうやらその価値は無いらしい」


「……うッス」


 だから、正義を検証する(笑)とかいう行為と、聖杯戦争のマスターとサーヴァントみたいな真似事に関係性が見いだせないんだよ。

 意味が何一つ繋がってない。

 俺には理解できない。

 この似非ヤンキーホモガキを差し向けて、高みの見物を決め込むその理由が。

 やっぱガイジだな。


 だが、これを倒さなきゃ……アレには辿り着けないのである。




 ゴウッ。


 ヤンキー悪魔の両手から、赤黒い炎が生まれる。

 背筋が凍るような、禍々しい炎。

 それは、まさしく悪魔的な力の具現。


「やめておけよ。あんな奴の茶番に乗る事は無いだろ?」


「……ぺっ」


 地面につばを吐くヤンキー悪魔。

 仕草がまるっきり不良のそれなんだよなぁ……。

 こいつは一真に、どういう魅了の力を使ったんだ?

 擬態を解くと、なんか凄い姿になったりするのか?


 そうでもなけりゃ、ちっとも心に響かない。

 精神攻撃スキルが俺には通用しないのかもしれないが。


 ていうか、足震えてるじゃん。

 何がしたいんだよ、お前は!


(一真とかいう奴も、こんな奴のどこがいいんだ。九呂苗のほうが絶対いいだろ。

 くっそ勿体無い。むしろ俺が九呂苗欲しいわ)


 まぁ、この悪魔が地面に唾を吐かない美少女だったら、倒して持ち帰っていたかもな。

 シカトなんて、生意気な真似しやがって。


「タケ! 無理を感じたらすぐに引けよ!」


 だが一真の言葉には、しっかりと振り向いた。


「カズ……俺さ、一度、この馬鹿野郎ボコらないと気が済まねーんだわ。完全にキレちまった」


「何かあったら、すぐ止めさせるからな……正直、俺が戦うべきだった」


「いやカズこそ戦っちゃ駄目だろ。仮にも大会控えたサッカー部なんだし。安全地帯でゆっくりしなよ」


「……そんな心配してる場合じゃないだろうがよ」


 何?

 付き合っちゃってるの?

 君ら、デキちゃってんの!?

 Weekend Loverなの!?


 ……性の悦びを知りやがって!

 許さんぞ!


 じゃなかった。


「俺が勝ったら、一真は返してもらうぞ」



 ザァァァ……


 ザァアアアアァァァ……


 肉薄、身に受ける風。

 空気抵抗はそのまま神経を冷やして研ぎ澄まさせ。

 右手に纏った鎖。

 それを今、振りかぶる。


「お前も、自分の選択を後悔するなよ!」


 ――ビュォッ――バキィッ!


 黄金に輝く鎖を、こいつは片手で受け止めた。

 雷電を纏っているそれを、痛そうにもしていない。


「……」


 なんだよ。

 なんで、そんな顔をするんだよ。

 悲しそうな、憐れむような顔をするなよ。


「――でやぁぁぁ!」


 俺は腕を振りかぶり。


「うるぁ!」


 悪魔はケンカキックで応じる。

 交差する腕と足。


 ――ゴッ!


 奴のみぞおちに俺の拳。

 俺の顔面に奴の足裏。


「残念だったな、悪魔。俺はゴブリンよりタフだぞ?」


 俺は鎖で防御したから大した痛みじゃない。


(奴は、どうだ!?)



 鎖を絡めて、動きを止める。

 頼むから諦めてくれ。


「言うて、ステータスは俺と変わんねーじゃん。セ・ン・パ・イ!」


「あ、てめ!」


 諦めない心は大事だが、こういう所でそれを発揮されるのは正直すごく困るんだが!?

 あと、こいつ俺よりタフだな!?

 ポーションの在庫にも限りがあるんだ。

 早めにケリを付けて、ダーティ・スーを叩かなきゃ。

 こんな茶番に付き合う必要なんて無いんだ。


「でやぁあああ!」


「死ねぇぇえええ!」


 次々と繰り出す拳。

 俺は連続してポーズ状態に切り替える。


 一昔前に流行していたらしい歌にも、確かタイム連打なんて単語があったよな。

 あれだ。

 パンチの軌道は、これで読める。

 迎撃、それも格闘においては最強のスキルだ。


 片っ端から防げば、悪魔は目を見開いて。


「な、なんだよ、それ……動体視力ヤバくね……?」


 なんてつぶやき。

 俺は、微笑みを返してやる。


熱鎖(ユグドラシルバースト)黄金樹(エミュレーション)!」


 ズォ、ズォ、ズォ――バキィィィィッ!


 次々と飛び出す黄金の鎖を、悪魔は避けきれずに命中して転がる。

 命中箇所は……右腕、か。


「ぐおぉ!? ッ痛ェ!」


 言っちゃ悪いんだが、この程度で悪魔と呼ばれる事に違和感を感じるんだが?

 それとも、弱いふりをしてるだけか?


「早く一真を九呂苗ちゃんに返してやれよ」


 俺は、のたうち回る悪魔を見下ろしながら最後通告をする。

 殺したりはしない。


 ただし、返答次第な。

 もしもすっとぼけた事を抜かして来やがったら、その時は殺す。

 新しい犠牲者が出る前に。

 どっちにしたって、一真は正気に戻さないと。


「うっせ、バーカ。俺達の事、なーんも知らねークセによォ」


「だって教えてくれないだろ、どうせ」


「“馬の耳に”ィ?」


「“念仏”……ってか?」


 歩み寄りの姿勢を見せないなら、敵対するしかないじゃないか。

 だったら、交渉決裂だ。


「だったら、人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえって奴だ。一真の目をさましてやれよ」


 もういいだろ。

 こんな辺鄙で汚い所で逃避行なんて。

 もう、解放してやれよ。


「じゃあな」



 パァン!



 俺は、背中から何かよくわからない衝撃を感じた。

 なんだ?

 一体、何が……?


「いいザマじゃん、センパイ。よく似合ってると思うよ」


「……え?」


 なんで、お前は笑ってる?

 似合ってるって、何が?


「俺ァ馬鹿だから、センパイが何を着てるのかわかんねーけど!」


 何を言ってるんだ?


「う、うわぁ……ちっちゃい」


 なんて、ダーティ・スーの仲間の金髪の子が言っている。

 ちっちゃい……とは?


 あっ……(察し)

 まさか!


 俺は下を見る。


 うわ、わぁ!?

 ……うわああああああああッ!?


 裸!?

 ネイキッド!?

 アイエエエエエ!!

 ネイキッドナンデ!?


 俺は、股間を両手で隠した。

 そして、そこの隙を突かれて肥溜めに叩き込まれたのだった。



 ……もう体中に糞まみれや。




「クソ野郎には、クソ野郎に相応しい末路を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ