表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION11: ソドムとゴモラを呼んでこい
119/270

Task5 片手間に少し遊んでやれ

 色々あってお待たせ致しました。


 緑んぼ共は最終的に、半分くらいくたばった。

 残り半分は逃げた。

 同族のリーダー格に脅されて仕方なく参加した奴や、犠牲が出たからには一矢報いたい奴もいたようだが、俺からすれば皆平等に無駄死にでしかない。


「残るはお前だけだぞ、ダーティ・スー! 弱者に戦いを強い、自分は高みの見物か!?」


 喚くなよ、みっともない。

 ここまで息切れ一つ無いのは褒めてやるがね。

 さて、どう返してやろうかね。


「だんまりか……」


「クレフ。あの男は、私達の出方を伺っているのかもしれません」


 そうでもない。

 どう遊んでやろうかとは考えていたが。


「ふはは! まったく、せっかちな野郎ですこと」


「ホントですね」


 俺は高台から、ロナを抱えたまま飛び降りる。

 ロナもいい加減、慣れっこだ。

 俺の腕の中でおとなしくしていた。


「あたし、今回どうしたらいいですか? 前回は見学でしたけど」


 着地するなりロナが俺の尻を撫でながら訊いてきたもんだから、俺はその背を叩く。


「女同士で戦いたきゃ好きにしな」


「そうしますね。スーさんも頑張って。どうせ消化試合でしょうけど」


「程々に楽しむさ」


 俺も、ロナの尻を軽く撫でた。

 それから、指輪からバーボンのビンを取り出して喉を潤す。

 そう、この味だよ。

 染み渡るね。


 さて――



「「「「――ふれーふれー、ダーティ・スー! 頑張れ頑張れダーティ・スー! 侵入者をブッ飛ばせ~! フゥ~!」」」」


 ……!?

 声のするほうを振り向けば、チアガール共が俺を応援してやがった。

 いつの間にか、サイアンもその列に加わっていた。


 連れてこられたらしい一真(カズ)猛英(タケ)も、馬車の座席に座らされつつ死んだ魚のような目でそれを眺めている。

(ちなみに馬車の屋根に座っていた紀絵は、てめぇの胸とチアガール共を見比べていた)

 その一つのシュールを極めた景色は、正直効いた。


「――ん、ぶほッ!!」


 俺は、むせた。

 とにかく、むせた。


「如何でしたかな! 渾身のエンターテインメント!」


 なんて抜かしながら、伸び縮みする杖をフックショットみたいに使って、ナターリヤがやってきた。

 このエンターテイナーは、何を考えてやがる。

 せっかく口に入れていたバーボンを、全部吐き出しちまっただろう。


「ゲホッゲホッ――おい、あれは些か演出過剰じゃあないのかい」


 せいぜい今の俺にできるのは、チアガールを指差してナターリヤに抗議するくらいのもんだ。


「お気に召されませんでしたかな? それは残念! この日のために一ヶ月も特訓を重ねたというのに……」


「最近よく姿をくらませると思ったら、そんな事をしてやがったのか」


「オー! “そんな事”とはご無体なッ!! さめざめ、めそめそ、おいおい、よよよ!」


 ナターリヤは白々しくも、赤いハンカチを目に当てて泣き真似をしやがる。

 それに合わせて、チアガール共もしょんぼり気味だ。

 まったく、世話の焼けるお嬢ちゃん達だぜ。


「……あー、お陰で元気が出た! 今度、飯でも酒でも奢ってやる!」


「まぁじで!? ごちそうさまでーす♪」


 チアガールの中でもとびきりちゃっかりしている奴が、前に出て投げキッスまでくれやがる。

 ……この人数分を俺が奢るのか。

 こりゃあ今回は赤字だな。

 香料入りのゴブリンのクソを戦利品にする事も、考えておくべきかね。

 じゃあ伝言をさりげなくメモに書くとしよう。


「飯を楽しみたきゃ下がってな」


 パチンッ。

 指を鳴らして、チアガール共を煙の壁で押し出す。

 この世界じゃあ銃や爆弾より危ない代物がそこかしこに散らばってやがるのさ。

 ついでにメモ書きをナターリヤに押し付ける。

 あいつなら俺の遊びに乗ってくれるだろう。



「……よ、余興は済んだか? ダーティ・スー!」


 おいおい。

 前かがみになりながら言う台詞かよ。

 確かにこいつらは胸も揺れていたし、ミニスカートから伸びる白くて健康的な脚は男を魅了してやまないだろうがね。


「クレフさん! 一真君を誑かした悪魔も、すぐ近くにいます!」


 クロエだか何だかと呼ばれていた黒髪のガキ……その見た目はどの角度から見ても日本人だが、そこは置いておこう。

 目の前で悪魔呼ばわりとは、馬脚を現すのが早すぎるぜ。


「はァ!? ざっけんなし、誰が悪魔だっつーの!」


「抑えろ、タケ! あいつの本性は……俺も知ってるから」


 猛英の坊やは、相変わらず元気だ。

 恋路を邪魔する奴には容赦しないらしい。

 頼むからしゃしゃり出てきて足手まといにはならないでくれよ。

 場合によっちゃ俺一人で戦うほうが楽でいい。


「ああ、駄目だよ、一真君! そいつの話に、耳を傾けちゃ駄目!」


「チッ……軒田ァ! オメーマジでぶっ殺すからな!」


 あのクロエとやらの苗字(ファミリーネーム)は軒田というのか。

 一応、覚えておこう。


「悪魔が私の名前を……! クレフさん、どっちから狙いますか?」


「え? あの人、悪魔なの? どう見ても普通の……ちょっとDQNっぽい人にしか見えないけど……」


「それこそが、悪魔の狙いです。あいつは一真君をそそのかして!

 ホモの道に引き込み!! 世界に同性愛を広めて人類を滅ぼそうとしているんです!!!」


「ゲェー! 周りにホモを感染させるとか悪魔そのものじゃん……頼むから俺のケツは狙うなよ」


 おや。

 こいつらの世界を否定する、その言葉を口にしちまったね。

 当然、猛英少年は目を剥いて拳を握る。


「ンだとテメーッ!!」


「タケ、気持ちはわかるが落ち着け!」


 そして一真少年がそれを羽交い締めにする。


「どいつもこいつも、どいつもこいつも! だから俺は帰宅部で誤魔化してきたのに! 誰がどういう理由で俺達をこの世界に呼びやがったんだよ、マジで! ぶっ殺す、マジでぶっ殺すからな!」


「他のホモも次々と更生して、普通の恋人を探すようになったよ。もう、諦めようよ……」


 クロエは、何を調子ぶっこいてやがる。

 一真が猛英を羽交い締めにしたのはお前さんを手伝う為じゃないぜ。


「軒田、てめぇマジで……」


「だから、おとなしく一真君を解放して! 彼を正気に戻してあげて!」


 なるほど。

 だいたい見えてきたぜ。

 つまり泥棒猫にもなれなかった子猫ちゃんが、つがいの片割れを奪いたくて神童クレフ君に頼み込んだと。

 それも、既に根回しした時に触れ回っていたんだろう有る事無い事を、奴に吹き込んだ上で!

 なんという悲恋!


 本性がどうとかって話は、つまり……あの子猫ちゃんは独占欲が強すぎて、裏で手を回す厄介な奴という事じゃないかい。

 神童君も可哀想に!

 とんでもない奴に利用されようとしてやがる!


『メッキが剥がれるのも、時間の問題って感じですね』


 ロナ、お前さんもお気付きかい。


『クレフ君はどこまで本気で信じているのかね。やれやれ、面白くなってきやがった』


 どうしちまっているんだ、この事情は。

 俺が思っている以上に、こじれて、ねじれて、歪んでやがる!

 ふは、はははは!


「ふははははは! はーはははははは!」


「なーにがおかしいんだか」


 可哀想なクレフ君が首をかしげる。

 今まさにお前さんを哀れんで、嘲っている所だというのに。

 呑気な野郎だぜ。


「やめとけよ。それとも、また屈辱的に倒れたいのかい」


「はっ、抜かしとけ!」


 剣を地面に刺したと思えば、鎖が足元から。

 だが、こんなのは蓋をしちまえばマッサージ器具にすらならない。


「遅い」


「え……――」


 おいおい、そこまで驚く事かね。

 まさか今のが隠し玉だなんて抜かすなよ。


 だが、きっとお前さんの事だ。

 それは演技で、次は後ろから狙ってきたりするんじゃあないかね。


「やらせないぜ」


「くっ!?」


 魔法を無尽蔵に使えるのは、お前さんだけじゃない。

 死角から放ったつもりだろう鎖は、今や俺が完全に握りしめている。

 じりじりと手のひらを焼く電流も、俺には無力だ。


「せっかく雑魚共が舞台袖に行くまで待ってやったんだ……」


 ぐいっと力を込めて引っ張れば、瞬く間に千切れ飛んだ。


「……誰でも思いつくような安いパフォーマンスで、対価を支払えるとでも?」


「……!」


「今までどれだけの戦いを、足元を見下ろしもせず一息で進んできた?」


 俺に恐怖しろ。

 俺という挫折を、その胸に刻みつけろ。


 煙の槍を左手に。

 バスタード・マグナムを右手に。

 凱旋の機会は二度と訪れないという事を、教えてやる。


「――にーさん、ちょい待って!」


 振り向けば、猛英少年が袖をまくって、指を鳴らしていた。


「どうした、字見猛英? まさか暴力反対かい」


「そいつ、俺が戦ってもいいっすかね?」


 こりゃあ驚いた。

 強いと認識した奴の背中に隠れることでしか怒りを表現できなかった、弱虫タケ君が自ら前に出るとはね。


「タケ! 何を!」


「カズ……俺、拳で語らうとかそういうの、よくわかんねーけどさ、今、やらなきゃって思ったんだ」


 は!

 こりゃいい!

 俺の諦観を飛び越えやがった!


「好きにしてみな。ただし、死ぬ前にてめぇのケツは拭け」


「……あざっす」


 じゃあ、肩を軽く小突いて前に進ませるしかないだろう。

 コテンパンに伸されて恥を晒すも良し。

 本当にやり遂げて調子ぶっこくのも良し。

 もちろん、それ以外でも構わん。


「“おれ、たから、まもる”……だったね。ダンドゥーロ」


 猛英少年が死体の一匹にそっと語りかけたのを、俺は見なかったふりをした。

 そこに共感してやるのは、俺の役目じゃない。




 いつの間にタケがゴブリンの一匹と親交を深めていたように見えるのは、ダーティ・スーがそこに興味を持っていなかったせいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ