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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION11: ソドムとゴモラを呼んでこい
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Task3 勇者御一行を待ち受けろ

 彼らのビ○ーズブートキャンプは相変わらず継続中です。

 きっとゴブリンの生態的に、タンパク質を手っ取り早く取れるプロテインはご馳走かつ万能薬に違いない。


 ここ数日間、緑んぼ共を鍛えさせながら飼育する生活は快適そのものだった。

 マッチョ君も、流れ者の二人組も、文句一つ言わずに作業をしてくれた。


 順調すぎて恐ろしいくらいだった。


 ……あのド腐れハイブリッドのサイアンを引き連れて、クソッタレのハラショーエルフがちょっかいを出しに来るまでは。

 あのアマ、何をトチ狂ったか突然「サイアンがもう限界なので精気を提供して頂きたく馳せ参じましたぞ~!」などと抜かしやがった。


 マッチョ君やサイアンの話によれば、緑んぼ共もといゴブリンの性欲は底なしらしい。

 女を見たら襲って犯すのが普通なんだと。

 しかも男や馬、魔獣のたぐいは奇妙な調味料をかけて喰うらしい。


 ……どうだかね。

 そこらの人間と、大して変わらんと思うが。

 奴らにだって、脳ミソはある。

 その証拠に、俺の女には手を出さなかったぜ。


 ただ、据え膳を寄越されりゃ話は別だろう。

 荒んだ環境に住んでいりゃあ、その心もまた同じくって奴さ。

 まかり間違ってパーティ・スウィングが始まったら、どう落とし前を付けてくれるんだ。



 そしてお互いの陣営の紹介もそこそこに、俺はサイアンと一夜を共にした。

 しかも場所は、掘っ立て小屋に鎧を積み上げただけのモーテルと呼ぶのも憚られるトンデモ(・・・・)スイートルームときたもんだ!

 あの淫獣め、まさか七回戦もやるとは恐れ入るね。




「「ゆうべはお楽しみでしたね」」


 ……ロナと紀絵は楽しんでやがった。

 紀絵のビヨンドデビュー記念に、ロナの宣言通り3Pをしておいたのが効いたのかね。

 作った弁当を交換しあうかのような気軽さはどうかと思うが、さておこう。

 紀絵の生前の性格がどうだったにせよ、二度もくたばればヤケにもなるってもんさ。


 問題はマッチョ君だ。

 ロナの進言で見張りを頼まれたマッチョ君は、俺とサイアンの情事を掘っ立て小屋の外から聞いていたそうだ。

 そのせいで、随分とブルーになっちまった。


「帰りたい……」


 さっきから、こいつはこれしか言わない。

 やれやれ、ちょいと新しい経験をさせてやろうという俺の好意を無碍にしやがって。


「まだフォルメーテにお熱なのかい」


「うッ……」


 図星かね。

 まったく、退屈な野郎だ。


「悔しかったら俺を出し抜いて、反旗を翻してみる事さ」


「ンな事ァ出来るわけないでしょうや、ダンナ……どんだけ実力差があると思ってるんで――」


「――腕っ節だけが能じゃないだろう? それとも、あの神童の坊やに土下座して頼み込んで見るかい。“助けてくれ”ってね」


 そんな俺の会心の提案を、あろうことかマッチョ君はあからさまに浮かないツラで首を振った。


「真っ先に考えやした。だがよ、ダンナがそれを言うって事ァもう手の内が読まれちまってるって事じゃねぇですか」


「そうとも限らないぜ。問題は、どうやって出し抜くかだよ」


「なるほど……どうやって(・・・・・)ねェ」


 まあ、頑張れよ。

 俺だけは、俺なりに応援してやるさ。


「うぷぷ……! ご主人様を出し抜くだって! ロナ、そんなこと無理に決まってるよね! あははは!」


 そこのサイアンが腹を抱えて肩を震わせていても、


「気安く話しかけないでくれませんかね……イカ臭いのが移る」


 ロナが話しかけられて邪険にしても、


「んっ……あ、あぁ――今日も素敵だよ、ロナ……」


 そして、サイアンがそれに欲情していてもだ!

 てめぇの醜い性分を愛しちまった時点で、人は怪物になっちまうというのに。


「はぁ……どうしてこんな奴らに目を付けられちまったんだ、やっぱり日頃の行いが悪かったのか……?

 こんな事になるなら、あのガキに喧嘩なんて売るんじゃなかった……うぅ……」


 しまいにゃ泣き出すマッチョ君。

 オー!

 こりゃ重症だ。

 慣れない環境じゃあ色々と気苦労も絶えないだろう。

 せいぜい、有意義な休暇の過ごし方でも考えておけよ。


「大丈夫だよ、マッチョ君!」


 おや、サイアンの奴、随分と殊勝な真似をするじゃないか。

 白々しく励ます姿も堂々たるもんだ。

 ……行き当たりばったりの阿呆同士、惹かれ合う何かがあるんだろうよ。

 尤も、マッチョ君はお気に召さなかったようだがね。


「うわぁあん! オレをその名で呼ぶんじゃねぇ!」


 だからって、大泣きするこた無いだろうに。


「ご主人様、奴隷が反抗的です!」


「好きにさせてやりな。それにこいつは奴隷じゃなくて、冒険者だ」


「この人が? ゴロツキじゃなくて? あ、でも、そういえば、ボクが冒険者をやっていた頃にも、似たような人がいたなぁ……」


 そりゃあ人間なんだぜ。

 似たような奴は幾らでもいるだろうよ。

 ナターリヤの右腕やってる野郎も、確かスキンヘッドのマッチョだったな。


 まあそれはそうとして、冒険者という単語がマッチョ君の琴線に触れたらしい。

 ガバッとツラを上げて、食い入るようにサイアンを見る。


「……魔物のお嬢ちゃんも、冒険者だったのか?」


「そうだよ! “風の解放者”って聞いたことない? 奴隷を考えなしに主人から引き離して回った大馬鹿者なんだけど」


「オレの周りでも噂になってたぜ。確か、金髪碧眼のガキという話だったが……それがお嬢さんだって?」


「うん。あれは仮の姿。こっちが本来の姿」


「そうか……大変だな」


「ううん。後悔は無いよ。ご主人様のお陰で、ボクは目が覚めた(・・・・・)のだから」


 マッチョ君は、今度は顔面蒼白といった様相だ。

 本当にお前さんは忙しい野郎だな!

 疲れないのかい、まったく。


「ダンナ……まさかオレの事も、みっちり調教するつもりですかい? こんな風に(・・・・・)


 サイアンを指差すその右手は、沸騰したヤカンの蓋のように震えてやがる。

 俺に、誰も彼も張り倒して言う事を聞かせる趣味はない。


「その意味があるとでも? お前さんは、そのナリでガキ一人倒せなかっただろう?」


「返す言葉もありやせんでさァ……ま、雑魚なんでしょうや、奴ら神童共にとってオレみたいなのは」


「それが答えだぜ。まかり間違って危ない力を手にして、世界の命運を握ると勘違いしている奴こそが、俺の本当のターゲットなのさ」


 放っておけば何を仕出かすか解ったもんじゃないからね。

 どんなに力が強くても、ガキはガキだ。

 幸運に逃げられて思い詰めたら、短絡的で暴力的な結論を見出す事だってある。


 どういう理屈か、奴らの周りにいる女共はどいつもこいつも持ち上げるだけ持ち上げて、真正面からブレーキになろうって気概を全く感じない。

 フレンにくっつくドリィやギーラがいい例だ。

 ……あのマキトの坊やに付いていたイスティだって、結局は太鼓持ち(イエスガール)の軛を脱しちゃいない。


 奴らが神輿と思って担いでいるのが実は棺桶だったと知ったら……どんなツラをしやがるんだろうね。

 抗おうとしない奴らの浅ましさときたら、全く見るに堪えないね。


 そういう意味では、マッチョ君は良心的なもんさ。

 もしもこいつが根っからのクソ野郎だったとしても、誰かが殺すだけだ。

 こいつは、その範疇にいる(・・・・・・・)

 俺のコントロール下に置ける。




「いやあ、それにしても自然の情緒あふれる、いい景色ですな! 開拓したくてウズウズして参りますぞ~!」


 勝手に疼いてやがれ、ナターリヤ。

 事あるごとにしゃしゃり出てきやがって。


「今回は“手形付き”の依頼を受けているから、お手伝いサービスはできないぜ」


「勝手にやるから大丈夫ですぞ。それに、サイアンがサンプルを収集したから問題ありませんな」


「でも、意味あります? ビヨンドのアレって種なしですよ?」


 俺やロナの指摘も、奴はお構いなしだ。


「無から有を創り出すのが錬金術士ですぞ。我輩の手にかかれば万事が順調! 何ら問題はありませんな!」


「わたくし、ロシアかぶれのエルフなんて初めてお目にかかりましたけど、やはり、その……随分と、変わったお方ですのね」


 この中じゃあ割と常識的な紀絵も、流石に言葉を詰まらせる。


「今日までさんざん味わっただろう。ウォッカで茶を沸かす変人だぜ、こいつは」


「ヤベェよマジでやべー……ここにずっといたらマジで常識崩壊だよ……」


「タケ。ひとまず、俺達の安全はここなら保証されてる……今は、耐えよう」


 常識人はここにもいた。

 こいつらには、緑んぼ共のスパーリングを手伝って貰った。

 土地を貸してやってるんだ。

 それくらいはして貰わないとな。


 ここで都合よく、勇者様が現れてくれりゃあ最高だね。

 そう、冒険者の店で教育してやった、栗色の髪のあいつが現れてくれりゃあ。


 あの野郎の事だ。

 どうせトントン拍子で準備を進めて、やってくるんだろう。

 ……大して役に立たない、飾り物の女共を引き連れて。




「――テキ! テキ、きた!」


 よし、タイミングはバッチリだ。

 遊んでやろう。


「ところでナターリヤ?」


「何かありましたかな? 同志」


「お前さんが連れてきた馬車の集団は、ありゃ何を企んでいるんだい」


「クックックッ……とっておきのサプライズですぞ」


 素晴らしいね!

 嫌な予感しかしないぜ!




 同じ環境に暮らしていた所で、根っからのゲイフォビア&マッチョイズムな人の性根がそう簡単に軟化する事は無いと愚考する次第でございます。

 ところで、噛ませと言われる役柄の人達が、第三者から噛ませを自覚させられた場合って、おおよそこんな反応で良いのでしょうか。

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