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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION10: 善悪の彼岸より憎しみを込めて
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Extend3 害虫への目覚め

 もちろん、あれ倒して終了という訳ではありませんでした。

 紀絵視点です。


 ――カチッ、カチッ、カチッ。


 ……弾切れだ。

 私の目の前には、死体が横たわっている。

 処刑少女パニッシュ★アルカ……網走或華あばしり あるか

 それが世間を騒がせた謎の魔法少女の、本当の名前。


 いくらトリガーを引いても、弾は出ない。


「処刑完了だ。もういいだろう」


 ――カチッ、カチッ、カチッ。


「……やれやれ」


 銃を取り上げられて、腕を掴まれる。



 ああ、なんてことだろう。

 こんな事になるなんて思ってもいなかった。


 この子を撃ち殺す直前、私は全てを思い出していた。

 惨たらしく殺された続ヶ丘さんは、シナリオ変更のために私に指示を出した。

 そこでまず二割。


 祭りの会場、特設ブース。

 見知った顔。

 ……累計五割。


 最後に残りの五割はモニターを見て。

 何もかも、ダーティ・スー先生が探偵に調べさせていた情報と一緒だ。


 私は、ずっと無実を主張してきた。

 だけど、私を責め立てる人達は、私が反論するたびに、もっと苛烈になった。

 既に罪を裁かれていた人達に、私も参列する事になっていた。

 不倫騒動の政治家、はっきりしない発表をした研究者、私もその同類になっていた。


『疑われるような事をしたのが悪い』

『どうせ嘘だ』

『女だからって騙せると思ったのか』


 心無い言葉は、私を蝕んでいった。

 友人なんていなかった。

 みんな私を見捨てた。

 誰も助けてなんてくれなかった。


 いや、違う?

 違わない。


 そうだ。

 そうとも。

 私の作業スピードが遅すぎた。

 シナリオ変更を予想していなかった私が浅はかだった。

 この会社に入ったのが間違いだった。

 絵を描く仕事をしていながら、こうなる覚悟をしていなかった私が悪かった。

 この程度で諦める私が弱かった。

 疑われる私がいけなかったんだ。


『そうだよ。お前はあのダーティ・スーの嘘に甘えた。嘘に加担した』


 私は悪い奴だ。

 裁かれなきゃいけないんだ。


『そんな奴が、必死に無実を訴えた所で、信じてもらえる筈が無いだろ?』


 悪いやつは。

 さばかれなきゃ。

 ころさなきゃ。


『嘘つき。馬鹿女。よくも私を殺したな。人殺し。私はお前の一部だった。お前が私をこの世界に残していったんだろ?』


 たくさんたくさんいためつけて。

 ないてあやまってもゆるさない。


『罪を償え。私の代わりに悪人を裁け。今更もう、何人殺しても、同じだよ』


 なぐって、けって、ころしていいんだ。

 ソレコソガ、正義ナノダカラ。



 ……。



『貴女の怒りは正当よ。貴女が望むなら、私が力を貸してあげる』


 ――だからあの声に、私は応じた。



「っは、あは、アハァハハハ……」


 おかしくて仕方がない。

 アルカを生み出したのは、他でもなく私自身だ。

 私の封じられていた記憶を切り離して、それを具現化したのがアレだった。


 ……つまり、元凶は私だった。

 やっぱり私は、迷惑な害虫だ。

 いや、毒蟲なのかもしれない。

 人の生命を、安全を脅かす、グロテスクな毒蟲。


「紀絵さん? ねえ、大丈夫!? 紀絵さん!」


「残念ながら、大丈夫じゃなさそうですよ」


 景色が飛ぶ。

 気が付けば、私は私を掴む誰か(・・・・・・)から離れて、アルカの近くにいた。




 ああ、憎くて、苦しい。

 苦くて、甘い。

 おいで。

 おいで、本当の私。


 ああ、アルカ。

 ごめんね、アルカ。

 美味しいよ、アルカ。


「んぐ、じゅる、つぷ……」


 アスファルトを赤く染め上げた鮮血も!

 不幸にも飛び出てしまった脳漿も!

 無味乾燥な皮膚も脂肪も!

 筋張った筋肉も!

 内臓も!


 美味しい!

 私は、私自身を食べる!


「おえっ……ちょっと、何やってんですか」


「紀絵、拾い食いは腹を下すぜ。それ(・・)が大事なのは解るが、保存方法は他にもある」


「邪魔、しないで」


 掴んで、放り投げた。

 どうして?

 先生、こんなに軽い?

 どうして?

 先生、私の邪魔する?


「紀絵さん! 目を覚まして下さい!」


 目は覚めたよ……。

 もう、曖昧な夢から醒めてしまったんだよ。


「もう、ほっといて……私が、私が悪いの、私がいけなかったの、私が全てを初めてしまった、私が全てを壊してしまった、私が何もかもを奪ってしまった、私が、私が、私がッ!!」


 頭が痛い。

 割れそうだ。

 視界が幾つも、ヒビ割れた窓のように分割されて。


 ああ、気が狂ってしまう。

 私が私という輪郭を何もかも汚染して潰し合っている!



 私?

 ――わたしって、なんだ?



 お腹から腕が生えて、元々あった腕は、手首から先がハサミみたいになった。

 私はきっとサソリになってしまったのだろう。

 尻尾の毒針を見てしまった。


 ああ、悪い夢だ!

 こんなの悪い夢にきまっている!


 夢なら何をしてもいいの?

 そう!

 これは夢!

 私の邪魔をする奴はみんな殺して喰ってしまおう。

 だってこの夢では、僕らはサソリなのだから。


「せん、せぇ……わたし……」


 憎い。

 愛しくて、滅茶苦茶に壊したくて、嬉しくて、粉々に叩き潰したくて、楽しくて、ズタズタに切り裂きたくて、恋しくて。


「気をしっかり持てよ。お前さんのお友達が悲しむぜ」


 先生が指し示したその先にいるのは。


 紗綾?

 紗綾どうして?

 どうしてそこに?

 やめろよ、見るな私を私を私を見るな見るな見るな見るな。




加賀屋紀絵「ウンゲツィーファー☆メイクアーップ!」

ロナ「アウト……ポーズがアウトですって……」

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