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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION10: 善悪の彼岸より憎しみを込めて
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Task7 徹底的に追い詰めろ

 煙の槍を足場に、空中から探す。

 どこに逃げたかは見当がつく。

 大方、あのクソ魔法少女は紀絵をボコりに行っているだろうよ。

 つまりはその護衛であるロナに訊けば解決だ。

 地下鉄に乗ってなけりゃ念話は届く。


『ロナ、俺の声は届くかい』


『正当防衛万歳! スーさんの馬鹿! 本体殺せよ!』


 お、届いた。


『そりゃ無理な相談だぜ。てめぇが痛い目を見なきゃ、罪人に石を投げる馬鹿共は気付けないのさ』


『その尻拭いをするあたしの身にもなって欲しいですね、まったく……最寄り駅のほうにいますから、早く来てくれませんか』


 オーケー、すぐ近くだ。

 交差点は阿鼻叫喚の地獄絵図……なんて事は全く無い。

 こっちにゃ機動隊はまだらしいが……通行人共はとっくに逃げて遠巻きから眺めているだけらしいな。

 紀絵とるきなは、ロナが守っている。

 そこにクソッタレ魔法少女が執拗に狙ってやがる。


 大型ビジョン、つまり馬鹿デカい液晶テレビでロナとクソッタレ魔法少女の戦いが生中継されている。

 観客共の何割かはスタジアム気取りなのか、食い物片手に応援と来たもんだ。


 マルチメディアというもんは、もっと文明的に使うべきだぜ。

 技術は進歩しているのに、この世界の善良な市民共と来たらまるきり中世止まりだ。

 だが、それも今夜限りの話さ。



 煙の槍を解除して、豪快に着地!

 アスファルトに右手右足がめり込んでヒビが入ったが、あんな怪奇現象の塊みたいな魔法少女を放置した奴が悪い。


 上目遣いにキュートなスマイルでお前さんの心臓を捻り潰してやろうか。

 ニッコリ。



「――ごきげんよう、俺だ」



「ひっ!? く、来るのが、早すぎる……!」


 そんなに驚く事は無いだろう。

 俺のとっておきのダーティ・スカイウォーキングに掛かれば、こんなのはスコーンを四つに切り分けるより簡単だ。


「増援に駆け付けて相手を絶望に追いやる……些かヒロイックに過ぎる気はするが」


「す、スー先生……!」


「ゴタゴタ抜かしてないでさっさと片付けてくれませんかね」


 何やら感極まった様子の紀絵と、対照的に冷ややかなロナ。


「やなこった。たっぷりいたぶって、ケツの穴に花火をブチ込んでやるぜ」


 煙の槍を上空から300本。

 さあ、小手調べと決め込もうじゃないか。


 リーダーの魔法少女の周りに赤黒いバリアーが張られて、煙の槍が次々とぶつかって消えていく。

 素手がお望みかい。


「どうして、あんな酷い真似を? 私はみんなと協力しあって、悪い奴を裁いているだけなのに」


 物は言いようだね、まったく。


「その“悪い奴”ってのは誰が決めたんだ?」


 光の柱が、奴の周りの地面から飛び出してくる。

 地面と垂直じゃなくて微妙に斜めなのが、奴の性格を表しているようだ。

(つまり、へそ曲がりで雑)


「火のないところに煙は立たないんだよ」


「煙を立たせる方法なんざ幾らでもある。盗んだ発煙筒を放り込めばそれだけでコトは始まるぜ。獲物に発煙筒を拾わせて指紋を付けさせりゃ、丸儲けだ」


 近付いて、腹に蹴りを一発。

 勢いをつけてもう一発。

 だが、なかなか丈夫な腹筋をしてやがるらしい。

 火花を散らしながら地面を滑るクソッタレ魔法少女。


「お前さんの正義は検証に値しないな」


「小難しい言葉をそれっぽく並べ立てて頭よさげに振舞っているけど、それ、かっこいいとでも思ってるの?

 結局、後先を全然考えてない、ただの馬鹿じゃん。みんなと違う事をして注目されたいだけでしょ? 正義を検証? 馬鹿じゃないの?」


 三日月型の光の刃が飛んでくる。

 幾つかは狙いを外して哀れな観客共のほうに向かったが、そっちはロナがはたき落としてくれた。


『頑張ったので、お小遣い下さいよ』


『後でな』


 ズドン!

 ズドン!


 銃声が鳴り響くたびに、観客共がざわめく。

 現実的な武器が出て来た事で、奴らはようやくてめぇらがマジで危ないって事を認識できたのかね。

 牽制で撃ち込んだから命中には期待しない。


「今時のヒーローは歯に衣着せぬ物言いが尊ばれるらしいが、お前さんはヒーローってガラじゃあないな。

 どっちかと言えば、本物のヒーローに蹴散らされる側だ」


「……はあ。お前さあ、子供の頃、いじめられてたんじゃない? 早く死ねよ。ゴキブリみたいに、見るだけで不愉快。この場で自殺したら? そしたら思い切り笑ってあげるからさ。写メをばら撒いてネタにしてやるよ! 三日ぐらい」


 わきまえねぇ野郎だ。

 俺は俺よりおしゃべりな奴が嫌いなんだがね。


「せめて考えようぜ。ブッ殺してきた奴の何割かは、本当に罪を犯したのかもしれない。

 だが、どれくらいの証拠を集めた? 妥当性は? 与えられた情報を鵜呑みにしちゃあいないかい?」


「何それ、警察気取り? ていうか罪を犯したのが明白なんだから、早く殺さなきゃ逃げられちゃうでしょ? 馬鹿なの?」



 この世界じゃあ女子高校生コンクリート詰め殺人事件も存在しなけりゃ、その犯人として槍玉に挙げられた某芸能人もいないのかね。

 面白半分に誰かが吹いて回ったホラで、色んな奴がハーメルンの笛吹き男の話みたいに便乗していった。

 成り行きは違うかもしれんが、本質は同じさ。


 誰かが「こいつは悪い奴」と決め付けて、それらしい証拠とやらを信じきって、無実の奴を追い込んでいく。

 どこかの学級裁判でも、通勤ラッシュの電車でも、あらゆる所で日常茶飯事だ。

 歴史的な事件だってあるんだぜ。


 俺は、知っている。



「お前さんはご存知かい。民主主義的で公平な選挙で国民に選ばれて、それまで誰も裁けなかった奴を片っ端から捌いて、タバコは吸わない素敵な奴を」


「それは素敵だね。誰?」


「……アドルフ・ヒトラー」


「あっ……」


 知らなかったのかい。

 他人事だとでも?

 いつだって歴史は、何者でもなかった奴が繰り返すというのに。


「そんなだからお前さんは三流なのさ」


「あ、う……」


「お前さんも、紛れも無い“悪”だ。くたばった所で砂利の一粒ほども惜しくない“大悪党”だよ」


「わ、私が、悪……!? いや、違う、そんな筈ない!」


「素直に認めようぜ」


 さて。

 もうカメラの場所は読めた。

 煙の槍をそいつの背後から呼び出して、そして俺は手繰り寄せて引っ掴む。


 天使みたいな羽を生やした、フェネックギツネみたいなマスコットを。

 奴の手元にはハンディカメラが握られていた。


「うう……つ、捕まっちゃったラズぅ……アルカ、ごめんラズ……」


「トラズ! そんな……どうして、ステルスを見破るなんて!」


「可愛らしい名前だな。アウシュヴィッツとビルケナウに改名したらどうだ」


「その子を離して!」


「やなこった」


 煙の槍で串刺しにして、生ぬるいアスファルトに固定してやった。

 ついでにクソッタレ魔法少女も首根っこを掴んでから仰向けに叩き付けて、俺のマットにしてやった。

 リーダー格だから多少は強いかと思ったが、そうでもないらしい。


「さあ、この魔法のカメラで生中継だ!」


 足元の魔法少女を映してやる。

 それからこの俺様のご尊顔を映す。



「今お前さん達の、ああ、全部(・・)とは言わないさ。あくまでごく一部(・・・・)が応援している、かわいいかわいい魔法少女だがね。

 こいつは真相には目もくれず、いかにも潰しやすい奴ばかり狙ってやがる。真偽も定かじゃないうちに」


 痴漢冤罪はそもそも痴漢するクソ野郎が悪い。

 だからこそ冤罪が生まれる。

 それを差し置いて痴漢そのものの被害者に「お前みたいなブスが痴漢されるわけがない」などと言う奴がいるらしい。


 俺にとっちゃあ、格好の餌だぜ。

 そこをあげつらって、それを口実に攻撃ができる。

 世間様の文脈で言えばツッコミ(・・・・)喰らう奴が悪い(・・・・・・・)のさ。


「今の法律じゃ裁きようのない連中に鉄槌を下すのは結構だが、それならこんな事態を矮ショー(・・・)化させて面白おかしく笑い飛ばす必要は無いだろう?

 まるでローマ時代の剣闘奴隷じゃないか。紀元前の真似事とは、実に無教養極まる馬鹿げた娯楽だと思わないかい。もう21世紀だぜ」


「誰もお前の説教なんて聞きたくないんだよ、面白くないよ、空気読――ぐえぇ!」


 面白くない暴言には、内臓ストライクだ!

 大腸を踏まれる痛みはどうだい?


 ズドン!

 ついでにマスコットの額をぶち抜いて黙らせる。


「さて、件の加賀屋紀絵に関する真実を、確かな筋から入手した。探偵事務所のリストはこちら。文句があるならそっちに言ってくれ」


 三日前、俺は名だたる探偵事務所に片っ端から声を掛けた。

 金塊を換金して口座にブチ込んでから依頼すりゃ、殆どが首を縦に振った。


 そりゃそうさ。

 俺が連中に頼んだのは“俺に都合のいい答え”じゃなくて、ただ単に“加賀屋紀絵がくたばる前にどういう事件があったのか”って話だ。

 そこに紀絵がくたばった件について嗅ぎまわっていた雑誌のライター共とタッグを組めば、カネになるネタが転がってくる。


 他にも、大勢のお友達(・・・)が協力してくれる。




 “大勢のお友達”の正体は、次回にて判明します。

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