Task6 クソッタレ魔法少女共とやり合え
遠くから「誰あの外人」「なんか痛い奴が来た」だのと聞こえてくるが、痛い思いをするのはこのクソッタレ魔法少女のほうさ。
今まさに成金趣味なマジカルステッキを構えている、そいつだよ。
「紀絵は裁かれなきゃいけない。道を開けて」
「やなこった」
「やらなきゃ駄目なんだね……パニッシュメント・ツール、みんなの祈りを、力に変えて!」
杖の宝石に光が集まったかと思えば、あちこちからマンホールくらいの大きさの魔法陣が出来上がる。
そして、その魔法陣の一つ一つから量産型の魔法少女が文字通り……、
――湧いて出た。
ざっと四十匹くらいかね。
こりゃあ楽しませてくれそうだぜ。
「すげえ、あの魔法少女! どういう仕掛けで出て来たんだ!?」
「本当に魔法を使ったみたい!」
「ツイート完了! 通知来た! ふぁぼかよ、リツイートしろよ……」
呑気なもんだ。
さっき何人か倒れただろう。
どう考えても、その倒れた連中が関係しているにきまっている。
幽体離脱と変身?
もっとおぞましい何かだぜ。
「みんな! あの黄色い浴衣の人、ダーティ・スーと、加賀屋紀絵を倒そう!」
「「「「うん!」」」」
「できない約束はするもんじゃないぜ、お前さん達」
人ならざるもの同士のドンパチは、別に犯罪じゃないよな?
何故なら俺も人でなしの亡霊みたいなもんだ。
つまり、罪に問われない。
俺は指と首をポキポキと鳴らしつつ、ロナに念話を送る。
『ロナ。どっちにした?』
『逃げるほうに』
『それでいい。お前さんはか弱い一般人を演じろ』
『能力禁止ですか』
『正当防衛なんてもんは、口のデカい奴らにゃ格好のエサだぜ』
『おえっ。身に覚えがあるだけに、やるせない気持ちになりますね』
さて、ウォーミングアップは終了だ。
大虐殺ショーを開始しようじゃないか。
「死ね、黄色い奴!」
「カスの信者はカスなんだよ!」
魔法少女が何匹か飛びかかってくる。
勇敢だねえ。
「言葉も動きも親切設計すぎるぜ」
ズドン!
指輪から取り出したバスタード・マグナムで、奴らのうち一匹の腹に風穴を開けてやる。
だが驚いた事に、奴らは怯みもせず殴り掛かってきた。
幾つもの魔法の杖が、俺の全身を打ち付ける。
だが俺は、この程度のカトンボにも劣るスイングを貰って動くほど軽くはない。
「何、お前……お前も、痛みを感じないの?」
「お揃いってか? 冗談キツいぜ! 俺は痛みを、覚えている」
身体に付けられた傷も、心にへばり付いた呪いも。
退屈しのぎで足蹴にされた奴のツラも。
……生前にしでかした、俺自身の過ちも。
全部、全部、覚えている。
「だからどこをどうやれば痛いのか、それを理解しているのさ」
メニューを呼び出してスキルを購入。
この新しいオモチャを使えば、もっと楽しめる。
「お待ちどおさま。ほら、順番なんて関係ないだろ。どうせみんな同じツラだ」
「ふざけるな!」
「死ね!」
判を押したみたいに同じような事を抜かしやがるぜ。
早速、この俺様の新能力をお披露目してやるかね。
もぬけの殻になった出店からパイプ椅子を拝借。
そいつを振りかぶって……くるぶしを直撃だ!
「くるぶし一丁! ヘイお待ち!」
「あ、痛ッ……!」
足を抑えてうずくまったら、後は仕上げにかましてやるだけさ。
ついでに用済みのパイプ椅子は、後ろから来た奴に放り投げて当てる。
ズドン、ズドン!
前と後ろに一発ずつだ。
「ぐあ!」
「あっ、ぐぅ……ど、どうして!? 前までは痛くなかったのに!」
なんだい、お前さん達。
痛くないから平気で近寄れたって事かね?
だったら、夢の中でも痛みを感じる気分はさぞかしビックリしただろう。
俺の仮説が正しけりゃ、ここでこいつらをぶっ殺せば幽体離脱タイムはお開きだ。
痛みとショックで飛び起きるって事さ。
「ほら、タネは既に把握済みだぜ。どうせやられても、元の体が目を覚ますだけだ」
逃げ惑う一匹の脚を引っ掴み、放置されていた出店の包丁で胴体を滅多刺し。
はい、サヨナラだ。
くたばった魔法少女は血溜まりと一緒に、霧になって消えていく。
遠くの天幕から、
「ぎゃあああああああッ!! 痛い、あ、お腹、ああああ!」
なんて、野太い叫び声が聞こえてきた。
そう、担架で運ばれた奴があの場所で眠っていた。
って事は、俺の仮説は正しかったわけだ。
「や、やばい……ひ、ひと、人殺しだ! 逃げろぉおお!」
「押さないで! 落ち着いて避難して下さい!」
「死にたくないぃいいい!」
殺してなんていないぜ。
何せ、生き物ですらないんだ。
「み、みんな! くそ……よくもショーを台無し――」
――ズドン!
これでまた一匹。
「女の子に暴力とか最低だね」
「ゲームのアバターだろ?」
「……この!」
「またお得意のカミカゼかい? 先代に学ぶ事は無かったのかね」
まだ熱い焼きそば用の鉄板に、一匹の腕を押し付ける。
そのまま、銃を胸に突きつけた。
「自由と博愛の精神をそのハートに詰め込んでやろう。鉛弾とセットでな!」
ズドン!
そいつは崩れ去った。
「お前さんにとって、これがいい目覚めである事を祈るよ」
「ハートでものを考えるとか超絶非科学的なんだよハゲ」
背中からの風圧に、俺は振り向かず左手で受ける。
リレー競走でバトンを受け取るように。
「――!」
「近年の研究では、心臓移植でドナーしか知り得ない情報を患者が何故か知っているという話もある」
こいつには鉄製ファンの扇風機の蓋を外し、ツラをたっぷり洗ってやる。
「ぎぃやああああああああ鼻、あ、あっ、あ! あ、ばッ……――! ――ッ!!」
オー!
痛みを想像するだけでキンタマ縮み上がっちまうね!
顔から血を吹き出してくたばる魔法少女!
「まあ、頭に詰め込まれるのがお好みなら、そうしてやるが」
後頭部、脊髄の付け根。
その柔らかい所に銃を突き付け、ズドン!
弾切れだ。
アツアツの薬莢を手向けの花にくれてやろう。
「くれぐれも心臓のドナーにはならないでくれ。偏った知識まで移植されるなんざ、患者が可哀想だ」
リロード、オーケー。
ぐったりとした死骸を蹴飛ばし、次の奴に狙いを定める。
骨の無い連中だ。
「あー、ところでこの手のショーにありがちなんだが、どうせ誰か生中継してるんだろ?
視聴者の反応が知りたいね! おい、そこのお嬢さん」
逃げ遅れた浴衣姿の女は、スマートフォンを片手に座り込んでいた。
呆然と眺めているそいつの両肩を掴む。
もちろん、煙の槍は俺の背中にたっぷりと展開してある。
「これは映画の撮影だ。安心していい。今すぐロックを解除して俺にそのスマートフォンを寄越しな!」
「ひっ!? あ、は、はい!」
「ご協力どうも」
検索、そしてアクセス!
なになに、断罪ショーの生中継?
おお、コメント来てるねえ。
――“マジグロすぎ、もう無理”
――“黄色いクソ野郎を早く殺せよ”
――“何ビビってんの? 前の怪人には圧勝だっただろ”
――“これ俺が出れば余裕の予感”
ログを辿れば応援コメントが一杯あったというのに、形勢が不利だとこれだぜ。
ユーザー全員がこれを観ているわけじゃあないだろうがね。
可哀想な魔法少女ちゃん!
あまりに哀れで目も当てられないね。
「はい、どうも。前売りチケットは格安で融通してやるよ。とっとと失せな」
スマートフォンを放り投げれば、女はキャッチしてくれた。
隙を見て攻撃を仕掛けようとしていた奴は、煙の槍で皆殺しにしてやった。
浅知恵ぶっこきやがって、間抜けめ!
「残るはお前さんだけだぜ、本体」
「……! くっ!」
「逃げるのかい。あんなに余裕たっぷりだったくせに」
ふわふわ浮きやがって。
どこまでも冒涜的な奴だぜ。
追いかけようとして、また邪魔が入る。
「そこまでだ! そこの黄色い浴衣の男! 直ちに投降しなさい!」
次のゲストはどなたかね?
……なんだ、機動隊か。
こりゃあ随分とお早いご登場で。
何人かは魔法少女にお熱らしいが、あくまで俺がターゲットのようだ。
「独房で冷や飯でも食べて、ゆっくりしなよ」
なんて、クソッタレ魔法少女はほざく。
私刑を掲げる奴が権力の後ろに隠れるのかい。
情けない野郎だ。
「付き合ってられるかよ」
俺は煙の槍に足を乗せて、空中を走った。
間抜け面を晒して見上げる機動隊員の連中ときたら、愉快ったらないぜ。
俺は暴走族じゃないんだ。
妖怪退治の専門家でも連れて来やがれ。
某ゲームで例えると出待ち専門ホストさんが延々とフレンド白霊を召喚するような感じのアレですね。
(デンデン)アーアー(デンデン)アーアー




