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第6話

‡第六話‡




ミラ平野――




皇都の南東に広がる大平原は今や、皇国軍戦士の屍の海と化していた。




最初は意気込んで戦いに臨んだエルナンの兵士たちも、あまりにもあっけなく奇襲が成功したために、物足りない表情を浮かべている。




大王自ら率いる突攻隊は現在、皇都ポロッサに向けて進軍していた。




(……いつの間にか、あんなに成長していたのだな……)




サイに揺られながら、トンマニュは今朝の事を思い出していた。




結局自分は、意志の弱い男なのかもしれない。



愛する息子の初陣……危険は少ないとは言え、やはり心配だった。



それに、今回の奇襲がもし失敗したら、自分は命尽きるまで戦わねばならぬ。




そんな事を考えると今朝はいてもたってもいられず、息子を呼んだのだった。




(私が見ていなくとも、立派に育ってくれた……)




自分の代わりに息子に愛情を注いでくれた、あのお気楽な友には、感謝してもしたりない……




「陛下ぁぁぁっ!!」




息子の成長に思いを馳せていた王のもとに、早駆けの伝令が血相を変えてやってきた。



「どうした!」



敵は全て殲滅したはずだが?



「国境近くにミラ皇国の精鋭軍が潜伏! ……現在、王子殿下の部隊と交戦中です!!」







「畜生っ! 数が多すぎるっ!!」



全身タイツをまとめて三人切り飛ばしながら、チャプラは苦々しく叫んだ。



どうやら向こうにも、相当な切れ者がいるらしい。戦力の少ない所を狙って、国境を突破しようという作戦か……




「じゃぁ、父上の隊を迎え撃ったのは……」



「ダミーだ! あいつら、奇襲を完璧に読んでやがった……この銀の全身タイツ、ミラ皇国の精鋭軍だ!!」




トンナム率いるこの部隊は、国境部隊の中でも一番戦力が少ない。背後に聳えるトンクィン山は、エルナン軍でさえも手を焼く難所だからだ。




そして、相手はよりにもよって、そこを突いてきた。




「はぁぁっ!!」




全身ギンギラのミラ戦士が繰り出すナルスィ流剣術……初めて目の当たりにしてしまったトンナムは、必死で嘔吐感を堪えた。




「はぁっ、はぁっ……とぉっ!!」




なんとか剣を振るうが、激しい目眩に手元が狂う。




「ふはははっ! どこを狙っている?!」




奇怪な角度に腰をねじ曲げた全身タイツは、ふらつくトンナムに容赦なく手刀を食らわせる。




「この美技を見ろぉぉっ!!」




「がはっ!!」




なんとかかんとか攻撃を躱すも、陶酔しきった叫びとともに放たれた一撃が鳩尾にクリティカルヒット。血を吐きながら数メートルの距離を飛ばされる。




「トンナム!!」



「くっ……」



トンナムだけでなくチャプラも、そして数少ない戦士達もまた、満身創痍だった。




(俺たちは……負けるのか……? 俺は、ここで死ぬのか……)




意識が朦朧とする。どうやら骨だけにととまらず、内臓までやられたようだ。



仮にこの部隊が破られたとしても、まだ国境部隊はあちこちに駐屯しているし、トンクィン山を越えられた所で、本国にも強力な部隊が残っている。それに、父の部隊が戻ってくれば……




(あぁ、もう、父親じゃないんだった……)




「立て、トンナム! 諦めるな!!」




チャプラの声を遠くにぼんやりと聞きながらも、トンナムはもう立ち上がる気力も体力もなかった。



「ジ・エンドかな? んふっ」



なんとも形容しがたい笑顔をうかべたミラ戦士が、無駄に装飾の多い長剣を掲げながら近づいてくる。




(……もう、疲れた……)




自分は本当の王子ではないとわかった今、これ以上生きることになんの意味がある?




「死になさぃぃぃ!!」



「トンナムーッ!!」




音速で迫ってくる刄を、トンナムは静かな気持ちで眺めた。




これでいい。これで楽になれる。




『……死ぬなよ』




最期に思い出したのは、今朝の父の言葉。




父よ。




何故あんなことを言ったのか。




あんたのせいで、俺はこんなにも苦しい――




「トンナム!!!」




ズブリ、と、鉄が肉を抉る音が聞こえた。










「なっ……」




顔にあたった雨の冷たさに驚き、目を開けたトンナムの前に、一人の男が背を向けている。




見慣れた背中。




憧れ続けた背中。




そして、追い付くことが叶わなかった背中。




その背から突き出る、自分を貫くはずだった刄。






「ち……父上ぇぇっ!!!」




トンナムを庇って胸を刺し貫かれていたのは、ラプオ5世――大好きな、父だった。




[続く]

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