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第3話

‡第三話‡




トンナムが駆け込んだのは、王宮の裏手に続く寺院の中庭だった。




「ぁんのクソ親父!!!」




親近感を覚える顔立ちの神像に近付き、その巨大な足を蹴とばす。



「いって!!」




自分の足が痛くなっただけだった。




父の冷たい態度は、何も今に始まった事ではない。




なのに、今日はやたらと頭にくる。その怒りの矛先は父だけではない。




「なんであんなに期待しちまったんだ俺……」



部隊を任せる、といわれた瞬間、今までの確執も忘れて素直に喜んでしまった自分が、未だに信じられない。



父が自分を信頼することなどあろうはずもないのに……



トンナムだって、親としては嫌っていても、国王である父のことは尊敬していた。大王と讃えられる偉人を父に持ったことを、誇りに思う。そしてその息子である自分のことも……




さっきあんなにムカついたのはきっと、プライドを傷つけられたからに違いない。きっとそうだ……そうじゃなければどうして……




「そう落ち込むなって!」




この深刻さの欠けらもない声は。




「落ち込んでなんかねーよ、チャプラ……」




親友を安心させるには、トンナムの声は沈みすぎていた。




「あんな冷血漢、どーも思うわけねぇだろ」




「またまたあ、そんなこと言っちゃって〜」



にやつくチャプラ。なんだか全て見透かされているようで、無性にイラつく。




「父上は、俺が前線に出て失敗するのが嫌だから……恥をかかされるのがいやだから、そんなどうでもいいような部隊に配属したんだ」



「お前……」




「もしもっとデキのいい息子がもう一人いたなら、きっと俺を一番危険なとこに送ったんだろうけどな!」



「トンナム!!」



いきなり、チャプラに肩を掴まれた。



「そう言う風に言うのはやめろ……いくらお前に冷たくあたってるからって、息子を死なせたがるような男じゃねえだろがあいつは!」


「でも」



「後方部隊だって、戦争において重要なことに変わりはねえ。その部隊が国境にいてくれるから、前線のやつらは心置きなく戦えるんだ。それに、そこでガンバりゃぁ、認めてもらえんだろ、きっと」




「チャプラ……」




確かに彼の言うことにも一理ある。

もしそこでの功績が認められれば……




「よし……そうと決まったら、戦に備えるぜ! かならず功績をあげて、俺を見下してたことを後悔させてやる!!」



基本的に物事を深刻に考えることのないトンナム。さっそく新たな目標に向けて意気込む。




「よっしゃ! じゃぁさっそく剣の稽古をつけてやる!」



「おぅ、頼む!」






意気揚揚と先を歩くトンナムの背を見つめ、チャプラはひそかにため息をついた。




トンナムは否定するだろうが、チャプラには分かる。



彼もまた、父を愛している……




トンマニュの決断が間違っていたとは思わない。




その証拠に、トンナムは父になんとか一矢報いようと言う妙な反骨精神もあいまって、強い少年に育った。




だが……



ときどき気付く。



それは、剣術の稽古のあと、新しい技を身につけたとき。



蹴球の御前試合で活躍したとき。


トンナムは、父の姿を目で追い、なにか言いたそうな素振りを見せる。




普通の親を持ったならきっと貰うであろう誉め言葉を、彼が父にもらうことはない。




代わりにチャプラが誉めてやっても、嬉しそうな顔はするが、その笑顔の奥の一抹の淋しさは拭い去れない。




「やっぱ俺じゃぁだめかもな……」




ひとりごちたチャプラの声は、季節風の音にかき消された。




[続く]

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