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畜生Impossible part.2

 

 中門──『裸生門』。

 剣戟と銃火が飛び交い、怒号と悲鳴が渦を巻く。その中心、暴威と化すのは畜生僧兵イヌーとヤギィ。夜陰に乗じて強襲敢行──瞬殺/鏖殺/鎧袖一触。

 だが依然として門扉は開かず、飛び越えようにも高過ぎる。

 死屍累々の遺体の中、イヌーが周囲を見渡し鼻を動かす──かろうじて生き残りを発見。


「おう、この門を開けかたを教えな」──問答無用のヤギィの恫喝。怯えた餓鬼は死んだ浅蜊よりも簡単に口を割る。

「そ、そこの天狗だ……! そいつの鼻を鍵穴に……!」


 指差す先に二匹の天狗──直ちに捕獲。鼻先を鍵穴に差し込み大きく捻れば、ガチリと何かが噛みあう音。だがそれこそが周到な罠。


 轟音/爆発/鬨の声──「DOS-KOI!」

 雪崩のように迫るマシュマロボディ、オイリッシュに飛び散る汗、むせ返るほどの酸性スメル──その全てをまともに浴びた畜生二人を、肌色津波が飲み込んだ。


 残響、そして静寂。ハァハァと荒い呼吸が境内に響く。


 現れたのは延暦寺相撲部のサイボーグRIKISHI──『オスモニアン』。罠にかかった新弟子二人をぐるりと巨体で取り囲む。

 そして始まるぶつかり稽古──はじけて震える肉と肉、迸る汗と汗。そんな彼らの体温が、叡山の夜を白く酸っぱく塗り替えた。熱気と臭気が畜生二人を責め苛む。


「チィッ……!」「ぬかった……!」


 呻いた途端、少し肺に入ったか、イヌーが激しく咳き込んだ。ヤギィもまた得物を落として膝をつく。このまま蒸し殺されるのが先か、臭死するのが先か──朦朧とする意識を抱え、それでも二人は立ち上がる。かたや任務の遂行のため、かたやGF(仮)のため。


 圧倒的窮地の中、不敵なまでのHAKKEYOI──かくして始まるKAWAIGARI。手負いの畜生を夜食にせんと眼の色変えるRIKISHIの群れを、真っ向正面受けて立つ──ぶつかる/うっちゃる/はたき落とす。

 横綱相撲で怒涛の連勝。だが行司が不在──故に稽古が終わらない。何より空気は暑く苦しく臭いまま──まさしく肉のスチームパンク。二人の身体はますますしっとり蒸れていき、意識と視界が遠のいていく。

 絶体絶命、視界の隅でCHANG-KO番の姿が見えた。熱々の鍋に浮かぶもの──昆布/鰹節/天狗の鼻/万全の出汁取り体制。メインディッシュの悪夢がよぎった、その時だった。


「……やれやれ、いつまでムネ貸してやがる」


 上空からのニヒルな囀り。ハッとなって空を仰ぐ。汗で出来た雲の上、かすかに聞こえる鋭い羽ばたき。


「「ペーチュン!」」


 その叫びに応えるように、汗を突っ切り降り来た増援──完全装備の鳥畜生。


「来たぜ、のたりと──!」


 頼もしく見栄を切り、鳥畜生は手持ちの銃器をありったけ掃射。

「GOTCHAN!」──たまらず上がるRIKISHIの悲鳴。力尽くの水入りが起死回生の活路を開く。


「包囲が緩んだ! 突っ込め!」


 かすかに開けた肉の細道──無我夢中で駆け抜ける。やっとの事で門扉に到達。息も絶え絶え振り返り、そして愕然とした。

 地響き──銃創だらけのオスモニアンが元気いっぱい四股を踏む。


「くそっ、不死身かあいつら!?」

「……違う、連中痛みを感じてないんだ。恐らく喰苦の効果だろう」


 イヌーの指摘を裏付けるように、先頭のRIKISHIが穴だらけの腹をボリボリと掻いた。はみ出した臓物など意に介さず、その目はどこか恍惚として虚ろを彷徨う。なるほど、道理でしぶといはずだ。

 だがそうと分かれば話は早い。因業力(ソドム)を全開──全力でミンチにする。消耗は免れないが、背に腹は代えられない。だがそんな二人に先んじて前に出たのは茶色い羽毛の小さな背中──ペーチュンだった。


「ここは俺が食い止める。行けよ、畜生僧兵」


 馬鹿な事を──そう言いかけ、しかし言葉は続かない。為すべき事を知る背中が、二人に覚悟を促した。逡巡は一秒あまり。


「……すぐに戻る! 死ぬなよ、兄弟!」


 かくして二人は虎口へ消える。遠のく足音。その背を見送る暇もあらばこそ──肉の孤島の土俵際、鳥畜生はニヒルに微笑む。相対する肌色兵器、その面にありありと浮かぶもの──怒りと食欲。これだけ動いてMEATLESSなど、プライドと胃袋が許さない。

 立ち会いの空気はもはや死闘の匂いをはらむ。膨張する殺意の中、時間いっぱい、待ったなし。


「DOS-KOI!!」──先手必勝、オスモニアンのぶちかまし。文字通りの肉弾が音も超えよと迫り来る。

 だがペーチュンは慌てない。無明の中で鳥目を光らせ、取り出したのは小さな仏像。握りしめて全身全霊、因業力を注ぎ込む。


「ちっと早ェが、出番だぜ──!」


 突如の閃光──迸って夜闇を暴く。白夜の如き世界の中で、RIKISHI達は立ち会いのさなかで瞠目した。

 苛烈なまでの光の中、仏像が軋みを上げて何倍にも大きく膨らむ。ちっぽけだった依代が、育ちきって一丈六尺──まさしく奇跡。

 降臨したのは創造科学の技術の結晶、決戦兵器『釈尊』──その威容と神々しさに胸打たれ、RIKISHIの一人が思わず叫ぶ。


「ARIGATAI!」


 そう思わせるのも無理はない、見事な出来栄えの釈尊だった。

 仏師チンパがジョバンニ的手腕で仕上げた珠玉の一作、そのコンセプトは『太く固く逞しく』。その御姿──半裸/黒人/筋骨隆々/そこはかとなくウホリッシュ(ゴリラっぽい)

 開祖的ありがたみと森の賢者的野生が完全なる調和を遂げた、最新鋭白兵戦特化型黒釈尊──名づけて。


「──クイントン・ランペイジ・釈尊。丁度いい、テメェら相手に試運転と行くか」


 三度目のニヒルな笑みは神仏兵器の肩の上から──主の意を汲み、黒いブッダが動き出す。


「ウホッ──」


 いいパンチ──尊い拳が仏敵めがけてゴリラティックに炸裂/爆裂。マシュマロボディをミンチに変える。無敵に思えたタフネスぶりも、仏罰の前には全くの無意味。

 月なき夜、暴れ仏の独壇場──ありがたみ溢れる圧倒的な暴力の前に、残ったRIKISHIはゼリーのごとく震え上がった。


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