強くてニューゲーム
「私さ、いろいろ失敗しちゃったんだよね……“この先”で」
「でね、もう、心も体もボロボロでさ、死のうと思ったんだ。自殺、今どき珍しくもなんともないでしょ? 普通の若者と同じようにバカやって、普通の人と同じようにうまくやれなくて、失敗して、そんで、普通の人と同じように自殺しようとしたんだ」
「そしたらさ、“神様”……でいいのかな? まぁ、そんなような変なおっさんが急に私の目の前に現れてさ。あんたにも見せてあげたかったよ。ふわふわ浮いていてさ、『我は神なり』とか偉そうに言ってんの。でもさ、もうおっさんなわけ。顔は毛だらけで気持ち悪いし、来ている服もボロボロ。マジうけるって感じ?」
「でね、その神様がさ、私に言うわけ『お前はゲームをしたことがあるなりか?』って。はぁ? って感じでしょ? まぁ、私も死ぬ気だったし、もうどうでもいいやっていう感じで答えたわけ『あるよ』ってね」
「そしたら、神様が今度は『じゃあ、強くてニューゲームは知っているなりか?』っていうわけ。強くてニューゲームってあれでしょ? 全クリしたあと、そのまままた最初からやり直すってやつでしょ? まぁ、詳しくは知らなかったけど、なんとなく知ってたから『知ってるけど』って答えたわけ」
「そしたらそしたら、神様が言うわけ『お前もやり直してみるつもりはないなりか?』って。はぁ? って感じMAXでしょ? で、そんな私を無視して、神様が続けて言うわけ『一つだけ条件があるなり。お前に“暮石トオル”という名の幼馴染がいるだろう?』って。そう、あんたの名前を言ったわけよ」
「なんか、あんたの名前を聞いた瞬間『あぁ、あんなやつもいたなぁ』って、急に懐かしさ? みたいな感情が胸を襲ったわけ。不思議だよね。もう何年もあんたと会ってなかったし、あんたのことなんて神様に言われるまですっかり忘れていたのに、いたんだよ。あんた、私の心の奥底に、いたんだね」
「でね、神様は気にせず続けるわけ。『暮石トオルと一生結ばれることはない人生しか選べなくなる。それが条件なり』……私、別にあんたに一度も恋愛感情を抱いたことなかったし、それだけの条件で人生やり直せるなんて、ラッキージャンって思ったんだ。だから、私今、ここにいる。強くてニューゲームをしているんだ。はは、ズルイでしょ? あたし、何でも知っているんだよ。だから、全部正しい選択肢を選べるの」
「でもさ、もうゲームオーバーなんだよね。わたし……わたし、あんたのこと…………好きになっちゃった。あんたと結ばれない人生なんて、もういらないんだ。だから、あたし帰る。未来に帰る。強くてニューゲームのこの世界では、可能性はゼロだけど、未来の世界なら可能性はゼロじゃないから。未来の私はもう、ほんとダメ人間で、悪い男とも付き合ったし、薬にも手を出したし、人もたくさん傷つけて、もう、あんな未来に戻りたくない。今、何もかもが上手く行っていて、私はきっと、このまま行けば道を踏み外すことなく、幸せな人生を送れると思う」
「でもさ、そのとき隣に、あんたはいないんだよね。私はそれがすごく嫌。でもさ、未来の世界に戻れば、あんたが私の隣にいてくれる可能性があるんだよ。すごく、すごくわずかかもしれないけれどさ……。私は今、そのわずかな可能性にかけてみたいと思えるほど、あんたが好き。だから…………あんたとはここでサヨナラ……ってことで、バイバイ」
そう言い残して、彼女は僕の前から姿を消した。