兄弟
なあ。
うちに貰われてきた時、お前まだ全然小さかったよな。小学生の俺でも抱き上げるのに苦労がなくてさ。ふざけて車のボンネットの上に乗せたら、それだけの高さに竦んじまって、きゃんきゃん鳴いてたっけ。
おっかながりでちょっとした事でも大騒ぎするくせに、好奇心旺盛だったよな。
着いたばっかのうちの庭駆け回って、挙句池にはまって大騒ぎして。あれ以来随分水を怖がるようになっちまって、男のクセに情けないったらありゃしない。
多分もうそれくらいからだろうな。俺がお前の面倒を見ていくんだって決めたのは。
だって俺は、お前の兄貴になったんだから。
なあ。
親父は「足が太いのは大きくなる証拠」って言ってたけど、その通りだったな。
中学へ上がる前にはもう、俺が抱え上げてもお前の後足が地面に届くくらいになっててさ。散歩に連れてくのもひと苦労だった。いつからかお前の方が駆け足が早くなって、力も強くなって、俺はふて腐れたりしたもんだよ。
お前がいつだって、俺より早く行っちまうから。
でもお前の方にだって、俺には文句が山ほどあったろうな。
俺は面倒がってよく散歩をサボったし、寒けりゃ早めに切り上げようとしたし、気持ちよく走りたいお前を無理矢理引き止めもしたから。
なあ。
夕方になって庭の雨戸を閉める時、俺の姿がちらっとでも見えると、お前は構って欲しがって大騒ぎだったよな。
お袋には「あいつが無駄に騒いで困る」なんて言ったりしてたけどさ。内心それが得意だったんだぜ、俺。
騒ぐといえば、さ。
昔一度、首輪が外れたお前が行方不明になっちまった事があったよな。
俺達はあちこち必死で駆け回って探したのに、肝心のお前ときたらいつの間にか家に帰ってて、涼しい顔で小屋ん中で丸まっててさ。全く仕方のないヤツだって呆れたもんだよ。
なあ。
今日は随分冷えるよ。予報じゃ雪になるかもしれないって言ってた。
お前、雪が大嫌いだったよな。ちょっとでも積もると、家の中に入れてもらうまで大鳴きしてたっけ。ホント、手のかかる弟でさ。
だけどやっぱりお前はいつだって、俺より早く行っちまうんだよな。
俺より早く大人になって。俺より早く年を取って。俺より、早く。
なあ。
最初に見つけたのも俺だったよな。散歩に行くはずだったのに、お前が小屋から出てこなくて。
覗いてみたら、眠るみたいに体丸めたままで。
まだあったかくて、なのにいくらゆすっても、お前動かないままでさ。いつもだったらうるさいくらいに尻尾振り回すのに、少しも動かないままでさ。
なあ。
誰も片付けられなくて、お前の小屋、まだ庭にあるよ。
庭を見るたびに思うんだ。あそこからお前が、ひょっこり顔をのぞかせてるんじゃないか、って。
いつもの時間になると、まだ思うんだ。そろそろ散歩に連れてってやらなきゃな、って。
なあ。
お前は俺の事、好きでいてくれたかい?
──俺は、大好きだったよ。
こえ部へもお題として投稿、朗読していただいています。
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