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第三話 天使、登場

「うんいいよ」


 さらりと返事が来た。


「愛のない結婚が嫌だって気持ち分かるし。僕的には愛はあふれてるんだけど君からざっくり拒絶されちゃってるし……距離を埋める時間は必要ってことだよね」

「え、えぇ。そうですね」


 何でそんな無垢な目でこちらを見てくるんだこの人。

 敵視するのがいたたまれなくなり、私は視線をそらす。


「しばらくはこの城に滞在してね。残念ながらずっと君の傍にいることはできないんだけど、君の世話係としてメイドをつけるから、何かあったら彼女達に言って。もちろん、僕に直接言いに来ても良いよ」


 そう言った後、彼が立ち上がる。

 部屋から出て行くのかと思いきやこちらやってきたので、つい身構える。

 セレスさんはすっとこちらに手を出してきた。


(実は怒らせた……っ!?)


 声がのんびりしているから分からなかったけどやはりご立腹なのか、とぎゅっと目をつぶる。


「君がまた笑ってくれるまでにどれ位かかるかなぁ……」


 ぽん、と頭の上に何かが乗って、すぐに離れてしまう。


(…………?)

 目を開いたときには、もうその黒い影は扉の向こうへと消えた後だった。


「もうあいつ疲れんなぁ……」


 ぼそっとそう呟いたのは、ヴィルラントさんだった。

 彼は机にうつぶせになったまま、視線だけをこちらに向ける。

「ヴィルラントさんはセリスさんの部下なのですか?」

「一応は。俺があいつの副官だ。主な仕事はあいつの尻拭い、んで今日からお前の世話。セリスはメイドか自分に言えっつってたけど、あいつらが捕まらん場合は俺に言え。まぁ、できればセリスを頼ってやったほうが喜ぶだろうがな」

「ありがとう、覚えておきます」

 私はぺこりと頭を下げた。少なくとも言葉に悪意は見えないから、親切には礼を言わなければ。


「んじゃ、お前の部屋に案内しよう。メイドもすでにそっちで待ってる」

 歩き出したヴィルラントさんの後に続いて、私も立ち上がった。




 かわいい。


 このかわいい生物達はなんなんだ。


「ヴィーラント様からおせわをまかされました、シルリです!よろしくおねがいします!」

「クロア、です。よろしくお願いします」

 そう言って、二人のメイドはそろって頭を下げた。背中に付いた白と黒の翼がふわりと揺れる。


 ……かわいいじゃないか。

 私はつい、頬の筋肉が緩むのを止められなかった。


 少したどたどしい口調で話すシルリちゃんは、ゆるくウェーブを巻いた銀色の髪の持ち主。瞳は右が青、左が黄色のオッドアイだ。純白の翼も合わせてまるで天使のよう。

 口下手そうなクロアちゃんは、良い意味でシルリちゃんとは反対の女の子。ストレートの黒髪に右が黄色、左が青のオッドアイ。漆黒の羽が彼女の大人びた雰囲気にぴったり。

 ちなみに二人とも、外見年齢は十歳ほど。良い方向に予想を裏切ってくれた私付きのメイドさんたちでした。


「二人とも俺の部下だ。気に入ったか?」

「はぁ、部下……ヴィオラントさん実は幼女趣味?」

「何でそうなるんだ!?」


 だって、部下にしちゃーちっちゃ過ぎるんだよ。そういう趣味でこの子達引き抜いてきたのかなー、とか。


 まぁ、いいけどね。


「私はアリアと言います。これからお世話になりますね」


 軽く礼をするとシルリちゃんからは満面の笑みが、クロアちゃんからははにかんだような笑みが帰ってきた。


「アリア様!おへやあんないするの!」

「シルリ、お客様の前ではしゃいじゃ、ダメ。こちらです」


 とことこ、と歩く二人について私は部屋の扉をくぐる。

 その部屋は、すっきりとした白と金で纏められた部屋だった。

 清潔感のある白を基調とした家具は、派手にならない程度に金の装飾がちりばめられている。大きく取られた窓からは太陽の光がさんさんと差し込んでいた。


(やっぱイメージが違うのよねぇ)


 城は防衛のため、少なからず窓は少なく小さく、比較的暗い。湿気もこもりやすく、どうしてもさわやかとは縁が遠いものだ。魔王城といえばなおさら陰湿なイメージが強い。

 けれど、むしろ我が家よりもさわやかな部屋。


「お、お気に召しませんでしたか?」


シルリちゃんが恐る恐る覗き込んできたので、私は慌てて首を振った。


「とんでもない!とてもいい部屋よ。とても気持ちいいわ」


シルリちゃんの顔がぱぁっと明るくなる。


「ほんとですか!!ここはみんなでそうじしたです!がんばったです!!」

「魔王様のすいせん・・・・で、一番日当たりの良い部屋を、用意しました」


ありがとう、と言いながら感謝の気持ちを込めて二人の頭を撫でると、彼女達は照れくさそうにはにかんだ。



(ここは地獄じゃない。少なくとも好意を向けてくれる人がいるんだから、とても良い場所)


 これだけの好意を向けてもらいながら、ここから逃げ出す算段を考え続けている自分に、少しだけ罪悪感を感じた。

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