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第二話 本当に魔王なのでしょうか

 すたっ、と私は地面に着地した。

 もちろん私だけではなく、私の後ろの人物も同時に着地する。


 そこは、見慣れた私達の城ではなかった。


 一見すれば、(城を知らない平民は)同じだと思うだろう。石造りの壁にタペストリーがかけられ、部屋の奥には玉座が置いてある。

けれど、配置や物、部屋の形が違う。


 私は意を決して、私を抱きこんでいる手を振り払って仁王立ちで向き合った。


「なかなか強引ですね、魔王様」

「やっぱり美人だねー。僕の見立ては間違いなかったな。久しぶりー」

「ぎゃっ!!??」


 いきなり満面の笑みを浮かべて抱きついてこようとしたので、思わず体を半身に開いて肘鉄食らわせてしまった。勢い良く肘を鳩尾に食い込ませ、そのまま崩れ落ちる。


 ……案外弱いかもしれない、この人。これなら脱出できるかな。


 そう思って慌ててこの部屋の扉に向かって駆け出そうとしたのだが。


「悪いけど、逃げるのはナシだ」


 扉の前に、男性が立っていた。


 鼻筋の通ったパーツ乱れのない顔、うつむいたその顔を覆う髪は燃えるように紅く、その隙間からのぞく金の瞳は鋭い。


「そこの馬鹿に付き合ってもらおう。悪いな嬢ちゃん」


 じり、と私は一歩下がった。


 前に強そうな男、後ろに魔王。

 逃げるのは、無理。


「何で私をさらうの」

「そりゃ花嫁は掻っ攫うものじゃん?」


 魔王がまた抱きついてきたので今度は後ろ回し蹴り。さすがにスカートが絡み付いて速度が遅かったので避けられた。ちっ。


「私が、いつ、花嫁になりました?」

「え……ずっと前」

「あいまいですね。私は記憶にありません。どうせ口約束程度なのでしょう?この婚約は無効です」


 さすがの私も書類サインとかしてたら覚えてる。というかしない。

 私の言葉に、魔王が肩を落とした。ズーンと。そのままよろよろ、崩れ落ちてどさっ。


「冷たい……奥さんが冷たいよ……」

「だから誰が奥さんだっ!!」


 再び殴ってやろうかと拳を固めたところで、赤毛の男が割り込んできた。


「どうどう。あー、とりあえず落ち着いて自己紹介からはじめようか。それでいいな?セリス」

「うん、それで良い」


 金の瞳がこちらに向けられたので、とりあえずうなずいた。



 柔らかなソファに腰掛け、出された紅茶をすする。毒殺?そんな心配必要ない。姑息な手を使わなくても今の私は殺し放題なのだから。


 柔らかな茶葉の香りにほぅ、とため息をついた。


「とりあえず自己紹介をさせてもらうね。僕はセリス・フリンガー。一応魔王やってます」

「一応ってなんだ一応って。自信を持って言え」


 私をさらった男の自己紹介に、赤毛の男が突っ込む。


 それにしても、あまりに胡散臭すぎるもんで実は魔王じゃなくて手下その一だよ☆みたいな感じかと思ってたのだが、これで本物の魔王とか。


 私はまじまじと彼を見た。


 癖のない短い黒髪に、くりくりっというほどではないものの丸めの金の瞳。少し少年らしさの残る顔立ちは、背伸びしていないのびのびとした子供らしさも反映している気がする。

 結果。魔王らしくない。


 私の中のイメージとしては、もっとしかめっ面した強面の長身で青年もしくは壮年の渋めなキャラをイメージしてたわけですよ。


 完全イメージから外れているアレが魔王て。


「……今、絶対魔王らしくないとか思われてる」

「え、読心術!?卑怯ですよ!!」


 私の言葉にさらに魔王――セリスさんの肩が落ちた。あぁ、もともと小柄なのにさらに小さく頼りなく見えますよ。


「……あー、俺はヴィルラント・テディーグロー。好きなように呼べ」

「私はアリア・フェル・ディーレインです。よろしくお願いします」


 深々とお辞儀。


 そうしながらも、私の頭の中はめまぐるしく回転していた。

 セリスさんは一見ただのへタレに見えるが、ごまかしの効かない魔族界のトップであるため、油断はできない。

 ヴィルラントさんは、間違いなく強い。かなり抑えているが一瞬で殺されるんじゃないかという程度に怖い。


 この二人に囲まれている限り、私が一人で逃げるのは不可能だ。

 ならば、今はおとなしく機会を待つしかない。逃げ出せるチャンスを。

きっと、あのシスコンな兄や父は動いてくれる。いずれ何らかの方法で助けに来てくれるはず。

 ならば私はその時まで、時間を稼ぎ続けなければいけない。


「先に言っておきます。私はこの婚約を認めていません。私は、恋愛結婚にあこがれる女なんです」

「それは、僕と結婚はできないってことかな?」


 すぅっと感情が抜け落ちた金の瞳に一瞬たじろくものの、再び気を持ち直すと口を開く。


「けれど、私が逆らったからといって王国に魔族をけしかけられてはたまりません。ですから、これは妥協策です」


 これは捨て身の時間稼ぎだ。加えて、相手が飽き性でないことを望む。


「私を惚れさせて、私からYESの言葉を引き出すことができたら、私はあなたと結婚しましょう」


ちなみに、キャラクターの名前と苗字は適当です。

実際にこんな名前存在しないよ!!というつっこみはなしでお願いします。

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