interdependence.
放課後のチャイムが鳴り響くと、僕は急いで荷物をまとめて廊下を走る。担任の怒鳴り声を背中で聞いて、一心に走る。きっとこの時のタイムを計れば、いい成績をもらえるのではないだろうか。一番必死に駆けているから。
隣校舎の隅にある暗がりの階段を駆け上がって、少し重たい鉄のドアを小さな掛け声とともに開いて。
俯き荒い息を素早く整えて、視線を上げる。
瞳に写る、柵に凭れかかる君の姿を確認して、
「おはよう」
君がにっこりと笑う。
僕の幸福の瞬間。
「生きるのは大変だ」
彼はぽつりと呟いた。茶色がかった髪が緩やかな風に靡く。
「嫌なことばっかり、あって」
ポケットに手を突っ込んで、彼が出したのはくしゃくしゃの煙草のパッケージ。一本だけ出して、慣れた手つきで火を点けた。
「いいのかよ、生徒会長」
「別に」
僕はクスリと笑って、同じように煙草を出して、彼の煙草にトンとくっつける。彼は訝しげな表情をして、僕は笑った。
「火ィ貰いたかっただけだよ」
煙を吐いた。肺の中に入り込む有害ガス、じんわりと広がる痛みに恍惚とする。
僕らは殆ど毎日この時間に、ここで喫煙する。ここは学校の中とは別世界で、僕らはこの屋上でしか言葉を交わさずすれ違いもしない。彼は成績優秀頭脳明晰な優等生で生徒会長、僕は素行不良で教師に睨めつけられる日々を送る劣等生、立場が正反対だ。
あれは桜が全力を出す春、何気なくここを訪れたときだった。
――アンタ、
コーヒーの缶を灰皿代わりに煙草を吸う彼を見たのは。心底吃驚したようで、彼はすたすたと此方へ歩み寄って、口に手を当ててきた。
――内緒に。
そんな仕草が、酷く華麗だったのを憶えている。
僕はそんなことはどうでもよくて、何となく彼の指が持つ煙草をひったくって煙を吸い上げ、
――オレもここで吸っていいか?
彼はぽかんとしていて、やがて吹き出して頷いていた。
生徒会長の彼と、こうして煙草を気持ちよさそうにふかす彼。
あの日から、始まった秘密の関係。
「難しいよ、生きるのは」
「息するのも面倒くさい。仮面を被って生きるなんて、」
彼は眉を顰めて、めいっぱい煙を吸い込んだ。
「……やめてしまいたくなる」
目を細めて、体中を駆け巡る真っ黒の物質がくれる快楽に踊っているようだ。
「死んでもらっちゃ困るよ」
「何故」
僕は細い彼の髪を梳いた。彼は少し頬を赤らめている。
「そりゃあ、オレはおまえが要るからさ」
いつからだろう、僕らはお互いに自然に惹かれあっていき。
「その言葉、そっくりそのまま返す」
いつからだろう、僕らはお互いになくせない関係になった。
「当然」
ニヤリと笑って、重力に身を任せて口付ける。
好きだなんて曖昧な言葉はない。僕らの想いはそんな言葉じゃ形成できない。
二人の煙草の味。依存しているこの感触。
秘密の口付け。夕焼けに照る。
苦々しく、
愛しきキス。
あぁそうだ、
僕らは煙草なんかより、
互いに依存しているのだ。
読んでいただきありがとうございましたw
またもや名前の出てこないお話笑。