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五話B「傭兵団の新入り」

前話と同じ場面の団員側視点となります。

 ぼんやりと開かれた、黒い瞳が印象的だった。


 その少女を見つめる誰も、今までそんな色を持った人間を見たことが無かった。あの、常に訳知り顔の魔術師、イールでさえ見たことがないだろう。黒い髪に、黒い瞳。まるで夜を集めて人の形にしたような少女だった。


 少女は半分ほど目蓋を持ち上げた眠そうな顔でテント内を観察している。まるでまだ夢の中に居るかのような表情だった。


 「おっと、ぼくらの眠り姫様はまだおねむのようだぜ?」


 「おいおい、眠り姫がこんなにちびだとは知らなかったぞ?兄弟。昔話はアテにならないって話かい?」


 少女の様子を見て、双子が軽口を叩き合う。


 「あっはは、寝ぼけてら。おーいー、ちびすけー!起きろー、朝だぞー!あはははは。」


 リィンがサラサの肩を持ってガクンガクン揺らしながら、大声で囃し立てた。


 「り、リ、ィンっ。なっ、んっ、でっ。……はぁ、はぁ、なんで私を揺するの…?」


 「ん〜?サラサ、なんではぁはぁしてるの?思春期?」


 「…うん、ごめんなんでもない。」


 諦めの境地とはこういうことを言うのかも知れない。


 「だ、大丈夫でありますか?」


 「うん、慣れてるから…はは。」


 シーシアスの言葉に、サラサは力の無い笑いで応えた。


 「わわっ、しー!みなさんダメですよう。この子はまだ病み上がりなんですからねっ。あっ、キリくん?」


 至って通常営業の彼らを必死に宥めようとするカムリを後目に、キリが少女に話しかける。


 「おいガキ。お前はこのおれ様が助けたんだぜ。だからお前にはこのキリ様の手下になる義務がある!いいか、まず常におれの後ろを三歩下がって…っあ痛っ!」 


 危なかった。カムリが渾身の『神ちょっぷ』で止めなければ、とんでもない不平等条約が交わされるところであった。神の奇跡の一端である。


「キリくんっ。いったい何処のガキ大将ですかっ!」


「ってーよ、カムリ。あとガキ大将じゃなくて大将だ。間違える、…な?」


 カムリの糾弾にややズレた返答を返そうとするキリが急に動きを止めた。ぼんやりとして、周囲の喧騒にも反応を見せなかった少女が、不意に手を伸ばしてキリの髪の毛に触れた為だ。


 「なっななななななにしやがんだてめぇ!」


 少女の突然の行動に、一気に奥まで引っ込んだキリが遠くの方から声を上げる。


 「おいおいキリくぅーん。どうした?顔が真っ赤だぜぇ?」


 「思うに風邪がぶり返したんじゃないか?兄弟。…ぷっ、ぶふっ。」


 「おっ、お前ら何笑ってやがんだっ!これはただの風邪だかんな!勘違いすんなよ!」


 「だかんな(笑)。」


 「すんなよ(笑)。」


 「っ〜〜〜〜〜!」


 にやにや、と笑いを堪えるマックとラッド相手に、キリが盛大に自爆している。この二人、他人をおちょくる事に関しては天才である。


 「あっ、サラサ!ねぇねぇ思春期?これって思春期だよねっ?」


 「えっ、あ、うん。そうかも知れないね。」


 珍しく正しい答えを導き出したリィンにサラサが曖昧に返事を返した。いっぱいいっぱいになっているキリを思いやってか小声である。


 「そっかー、思春期かー。あはははははっ。やーい、思春期ー!」


 何かがリィンのツボに嵌まってしまったようだ。こうなってしまうと誰にも止めることは出来ない。


 「や、だ、大丈夫でありますよキリくん。思春期は誰もが通る道であります。」


 「シーシアスくん、それはフォローになってないと思うよ…。」


 そして、シーシアスはダメだった。

 

 もう放っておこう、とカムリは彼らに背を向けて少女の方に向き直った。


 「ふふっ、おはようございます。うるさくしちゃってごめんね。体の調子はどう?」


 カムリは少女の手を取って体温を確かめる。問題はなさそうだった。


 「もう起き上がれる?あんまり長い間寝たままで居ると腰を痛めちゃうから。」


 そう言ってカムリは少女の手を引き、寝台の脇に立たせた。


 「ん?どうしたの?」


 少女が自らの足をじっと見つめている。何かを考え込んでいる様子だった。しばらくして顔を上げると、カムリの方を向き、異国の言葉で話しかける。子ども特有の甲高い声では無く、頑是無いその容姿とは裏腹にしっかりとした声だった。


 「…――――――?」


 「ええと、ごめんね?わたしたちにはあなたの言葉が分からなくって…。」


 カムリが困惑している様子が伝わったのだろうか。少女は今度は自分の足元を指差して再び異国語で何事かを問いかける。


 「う、う〜ん。ねぇみなさん。この子がなんて言いたいか分かりませんかぁ?」


 弱ったカムリは先程スルーしてしまった団員たちに助けを求めた。


 「…しゅんきー!…ん?どーしたカムリ!」


 まだ思春期がツボに入っていたらしいリィンがカムリに問いを返す。


 「この子が何か言いたいみたいなんですよ。ほら、地面を指差して。」


 リィンを筆頭に、話を聞いていなかったメンバーの為に、カムリはもう一度繰り返した。


 「お、おおお。うーん?あっ、そーだ!きっとジュータンの模様が気になるんじゃないかなっ?ほら、その模様ってちょっと哀愁の漂うオジサンの顔に見えない?……えっ?あれ、見えない?」


 ほら、ここは鼻でー、と解説を始めたリィンにはあえて触れずに、他の面々は意見を出し合うこととする。


 「そうだ、高貴な姫は下々のぼく達にひざまづけと仰せなんじゃないか?」


 「川から流れてきたのは本当に異国の姫君であったとさ、ってオチかい?ちょっと安い脚本じゃないか兄弟。」


 「もおっ、真面目に考えてくださいよぅ。」


 ふざけあう双子に注意するカムリ、そこへサラサの鶴の一声が掛かる。


 「…姫云々は置いておくとして、足が寒いんじゃないかな…。」


 既に日は落ちて外は薄暗い。加えて少女は裸足なので、少々肌寒いのだろう、と皆はサラサの意見に賛同した。


 「自分が倉庫から靴を取ってくるであります!」


 シーシアスが大声で宣言して、すぐさまテントから飛び出して行く。この場には年少のキリや傭兵団に入って最も日の浅いカムリが居るにもかかわらず、彼らに頼まず自ら行動するのは彼らしい行いだった。良く言えば親切、悪く言えば下っ端根性が染み付いている。


 倉庫用のテントは女性宿舎から男性宿舎を挟んでもう一つ隣に在るので、シーシアスが戻るまでにそう時間は掛からなかった。


 「お待たせしたであります。子ども用は用意が無いから少し大きいでありますが…。」


 そう言ってシーシアスは少女に革作りのブーツを差し出す。少女はやや躊躇したように見えたが、おずおずとブーツに足を入れた。そして、シーシアスに向かってちょこんと頭を下げる動作をする。


 「わっ、わっ、なんでしょうね?かわいい!」


 「…お礼、じゃないかな。多分。」


 「なるほど、この子の国では頭を下げることが感謝を表しているのでありますね。」


 見慣れない少女の行動をそう解釈する団員たち、そんな彼らの耳に不意に不思議な音が届く。きゅう、という可愛らしいその音は少女の折り曲げられたお腹から。


 「大変だ!姫が(かつ)えていらっしゃるぞ!」


 「給仕!至急姫にお食事を持てい!」


 マックがおどけたように言い、ラッドが手を打って存在しない従者を呼んだ。


 「あ〜、そういやおれも今日なんも食ってねぇな。結局朝メシ食いそびれたし。」


 キリもそう言って自分の腹をさする。


 「あ、…そういえばもう晩御飯できてる頃かも。」


 「んんん?ごはん?ゴハン!食べたい!」


 サラサの言葉に、絨毯を熱心に眺めていたリィンが素早く反応する。


 「じゃあみんなでごはんにしましょうか。もちろんこの子も連れて。キリくん!」


 「あ?なんだよカムリ。」


 「ほら、この子の手を引いて連れて行ってあげてください。」


 カムリの提案にキリは再び顔を赤くした。


 「っ!んでこのおれ様が!」


 「だってキリくんはこの子のお兄ちゃんでしょ。ね?」


 そう言って少女をキリの前に押しやるカムリ。不思議そうに少女がじっと見つめるので、キリは思わず赤い顔を隠すように背ける。そして。


 「…おら、手ぇ出せよ。」


 折れたキリが、少女に手を差し出した。しかし何故か少女はなかなか手を伸ばそうとしない。


 「ん!手ぇ!」


 焦れたキリが半ば押し付けるように少女へ更に手を伸ばす。やがて少女はちょっと頷いて、小さな手でそれを握った。


 「ははっ、良かったじゃないかキリ。」


 「まるで姫をエスコートする騎士様のようだぜ?」


 「お前らは少し黙ってろ!…おら、行くぞ。メシだ。」


 茶化す双子に吼えて、キリは少女の手を引いて入り口を示した。少女は素直にキリの後ろをとことこ付いてくる。その様子が微笑ましかったのか、シーシアスの口から思わず笑い声が漏れた。


 「―〜っ!シ、シーシアス、お前まで!」


 「ご、ごめんであります。悪気があった訳では…。自分はそういうのが無かったでありますから…つい。」


 睨むキリに、シーシアスは慌てて弁解した。


 「シーシアスは一人っ子なんだねっ!あたしもだけど、サラサが妹みたいなものだからねー!いーだろー。」


 「あの…私リィンより年上…。それにリィンが姉って…。」


 そう抗議するサラサのかぼそい声はリィンに届かず、完全に黙殺される。


 「あーもー!とっととメシ行くぞ!ほら、お前も通れよ。」


 キリはそう言ってさっさとテントの入り口を潜り、後から来る少女の為にそのままテントの風防を持ち上げてやる。


 そのまま集会所に向かおうとしたキリだったが、その手前、宿舎と集会所の間の少し開けた場所が騒がしい。どうやら他の団員全員がそこに集まっている。


 「よっ。どうしたんだよ。外で集まってるなんて珍しいな。」


 キリが彼らにそう声を掛ける。


 「オッス、キリ。お前もう体は大丈夫なのかよ。それに…。」


 「きゃー!きゃー!ちょっと、その子起きたのね!可愛いわぁ!起きてると更に可愛いじゃなぁい!」


 キリに応えたイバラードの言葉を、シリオが野太い嬌声でかき消した。


 「おや、おやおやおや。うっふっふ、黒い瞳とは珍しい。好いですねぇ。幼子の眼はだぁい好きなのですよ私は。宝石の様では有りませんか!」


 「にゃはーん、ダメさイールくん。幼女ちゃんとイイことするのはア・タ・シ。」


 その声で少女に気づいた魔術師と呪術師。眼の色を変えて不気味に悶える。


 「おい!そこのオカマと変態と変態!お前らはこいつに近づくんじゃねぇ!」


 途轍もない危機を感じたキリが彼らを牽制する。そんなキリに近づいて話しかけたのはブランだった。


 「よぉキリ!今日は月が綺麗だからな、眺めながらメシを食うことにしたのさ。それに。」


 ブランはここまで言って、キリの隣の少女に目を向ける。


 「ちょうど良く新入りの歓迎会になったみてぇだな!よろしくな、ガキ!」


 ブランと目があった少女は逃げるようにキリの後ろへ引っ込んだ。


 「あらぁん。ダメよ団長!怖がっちゃってるじゃないのぉ。顔が怖いのよぉ、きっと。」


 「…シリオ、お前さんに言われたか無いんだが。それにゾッドとヘムオンよかマシだ。あいつらなんざ俺だって怖ぇぞ。あいつらはどうした?」


 「そう判断したので、彼ら二名は後方に待機させました。」


 そう応えたのは、いつの間にかブランの傍らに控えていたアウレリアだ。


 「お、おうご苦労…なんだが。なんと言うかそれは、殺生だな…。」


 ブランがちら、と後ろを確認すると、月明かりに照らされた二つの巨体が蹲っているのが見えた。ガライ老が彼らの肩を叩き、酒を勧めて慰めている。


 「ま、まぁ何はともあれ、新入り。今日はお前さんの歓迎会だ。楽しめよこの野郎!がっはっは!」


 巨漢二人はガライにまかせることにして、ブランは少女の前にしゃがみこみ彼女の頭をぐりぐり撫でて笑った。撫でらた少女はひっ、と小さく声をあげたきり、しばらく硬直する。


 「おいおい、そんなに緊張しなくても良いんだぜ。まぁこれでも食えや!」


 そう言ってブランは少女に肉の刺さった串を差し出した。長期保存用の塩漬け肉なので味は悪いが、歓迎の証である。


 そろそろと目を開けた少女は、困ったように受け取った肉とブランの顔を交互に見比べている。


 「ん?食っていいぞ。お前さんの肉だ。」


 頷いてブランは少女に笑いかけてやる。すると少女はブランにぺこんと頭を下げ、串肉に噛り付いた。


 「お、なんだ?」


 「団長、感謝しているのでありますよ!」


 シーシアスが何故か得意げに説明する。


 「異国の作法か…。なかなか礼儀を弁えた子供だな。」


 静かに麦酒の杯を傾けていたヨシアが反応した。そして更に続けて言う。


 「…そう言えば、そいつの呼び名はどうするんだ。いつまでも『ガキ』や『子供』では収まりが悪い。」


 「確かにそーですねぇ。ねっキリくん。聞いてみたらどう?」


 そう言ってカムリがキリを向く。キリは渋々といった感じでそれに応えた。


 「しゃーねぇな、おいガキ!お前なんて名前だ?」


 そう言ってのけたキリに団員たちの突っ込みが入る。


 「キリくん…それじゃ分からないと思うよ。」


 「にゃっはは、それにお肉に首ったけでキリくん気づかれてないねーぇ。」


 「一心不乱に肉をむしゃぶる幼子。そして稚い(いとけな)その顔を汚す肉汁。んっふふふ、好い、実に好いですよ!」


 「キルヒシュタン、暫くの発言を禁じます。」


 「まずオレたちの名前を教えてみるってのはどうスか。キリやってみろって。」


 最後のイバラードの提案を呑んで、キリは食事に夢中な少女の肩を叩いてこちらを向かせる。


 「キリ!おれの名前はキリだ!そんでそっちのデカくて働かないおっさんはブラン!一応団長だ!それから…」


 「キリ、温厚な俺でも怒るぞ、なっ?」


 一応と言われた団長の声を無視してキリの団員紹介は続く。


 「そこのおっかないねーちゃんはアウレリア、言いにくいからアウラだ!そろそろ三十路だから怒ると怖いぜ。それと…」


 「グレイグ、許可します。」


 そうしてキリによる失礼なメンバー紹介が終わると、大人しく聞いていた少女がキリを指差した。


 「きり。―――キリ―――――?」


 少女の言葉にキリは満足して頷き、今度は少女を指差して言う。


 「そうだ。んで、お前の名前は何てえんだ?」


 合点したように少女は少し頷いて答える。


 「――。――――――…。」


 「あん?なんだって?」


 少女の聞き取れなかったキリが思わず聞き返した。


 「ふむ、さっぱり分からんの。何処が名前じゃ?」


 先程の紹介から輪に参加していたガライが疑問を投げかける。その後ろからは巨体が二人、おずおずと顔を覗かせていた。


 「…トゥキコーじゃないか?」


 「あっははは!トゥキコーだって!ヘンな名前―!あははは!」


 ブランが挙げた名前にずっと食事にありついていたリィンが笑い出した。


 「妾はトゥキコー姫じゃ。気安く近づくでないぞ。」


 「ははー!我が麗しのトゥキコー姫!」


 「ひ、ひめっ、ぶははは!トゥキ…なのに…ひー、姫、ふひっ。」


 すかさずリィンの前で小芝居を始める双子。


 「首を、振ってる。違うんじゃ、ないか。」


 後ろのほうからゾッドが意見を出した。


 「発音の問題だろうな。団長。」


 ヨシアの助言を受け、ブランがもう一度言ってみる。


 「トークゥイーコー?」


 「とっ、あはっ、トークゥイー。あはははっぶはっ、げほっ、ごほ。あは…」


 「団長!もう止めるっス!そろそろリィンが死ぬっスから!」


 笑いすぎて過呼吸に陥るリィンを見てイバラードが止めに入った。


 「ぬぅ!それはいかん!リィン、しっかり意識を持て!」


 「落ち着きなさいグレイニー。死にませんから。」


 その時、少女の小さな手がブランの指を握った。そして少女は夜空を煌々と照らす月をブランに示す。


 「――、―――…。―――――――。」


 「ん?月がどうした?月、そうか(ソーマ)か!」


 「ど、どうしたんですかぁ、団長?」


 突然、月という単語を連呼しだしたブランにカムリが怪訝そうに訊ねる。


 「ほら、(ソーマ)だよ。カムリ、分からねぇか?」


 「んっふふ、解りましたよ。トゥキコーとは彼女の故郷の言葉で(ソーマ)という意味なのですねぇ。」


 「あ、なるほどぉ。じゃあトゥキコーちゃんはソーマちゃんですね!」


 イールの解説にカムリは、ぽんと手を打って言った。


 「ふん、陳腐なほどに風雅な名だ…。だが、いいんじゃないか?」


 杯に映った月を眺めながらヨシアが言うと、他の団員達も賛成する。


 「あらま、いいじゃないソーマちゃん。綺麗な名前じゃないのぉ。」


 「…良い、名だ。」


 「へっ、悪かねーんじゃねえの?」


 「悪かねー。」


 「だかんな(笑)。」


 「おっまえらは、もう黙りやがれ!」


 笑う双子に元気よく飛び掛って行くキリ。


 「にゃは、それに幼女ちゃんは夜色の髪と瞳を持ってるしねぇ。」


 「名は体をあらわす、と言ったところかのう。」


 「や、ぴったりであります!」


 「そうだね。…それに、それならリィンの発作も起きないだろうし。」


 そのリィンは傍らでイバラードとヘムオンに介護されている。


 「良いでしょう。ところでキルヒシュタン。」


 「んふん?何でしょう閣下。」


 「先程発言が有りましたが、沈黙を命じた筈です。期限は明朝です。」


 「なん…ですって。」


 氷の副長は伊達では無かった。


 「よっし決まり、だな!お前は今日からソーマだ。よろしくなソーマ。」


 ブランの言葉を知ってか知らずか、少女はたどたどしい発音で何度かその名を繰り返すと、最後に団員たちの方へ向かってふかぶかと頭を下げながら何かを言った。


 「おっ、名前に感謝してんのか?遠慮はいらねぇぞ。なんたって、これからは俺たち全員がお前の家族だからな。」


 そう言ってブランは下げられた頭を撫でてやった。


 こうして、グレイグ傭兵騎士団に新団員“ソーマ”が加わった初日は、団員達の談笑と共に穏やかに過ぎて行った。


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