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四話「そして少女は目覚める」

 「んあ、ここは。…寝ちまってたか?」


 キリは重い頭をぼんやりと振り、テントに設置された簡易寝台から身を起こした。


 「や、おはようキリ君。ここは女性宿舎ですよ。もう体は大丈夫でありますか?」


 近くに座っていた金髪にそばかすのある若い団員、シーシアスがキリが起きたのに気付き声を掛ける。


 「ん、女性宿舎?なんだっておれはそんなとこに…。」


 「覚えてないでありますか?自分が炊事場から戻って来る途中で集会所と宿舎の間に倒れてたから運んできたのです。女性宿舎なのはカムリさんに一緒に診てもらうためであります。」


 シーシアスは誰にでもこうした馬鹿丁寧な口調で話す。とても家名の無い家の人間とは思えないが、本人はそう主張していた。


 「そっか、おれ熱出したんだっけか。ありがとうシーシアス。誰と一緒に、っと、そうだあいつは!」


 キリの寝起きの頭が徐々に覚醒してきて、大切な事を思い起こさせた。


 「や、安心するであります。あの女の子なら君の隣に寝ているでありますよ。まだ目は覚まさないですが、カムリさんの治癒術のお陰で大分落ち着いてきたであります。」


 言われてキリが傍らを見遣ると、そこには確かにキリが助けた少女が静かな寝息を立てて眠っていた。苦しそうな様子は無く、穏やかな顔をしている。キリがしばしその寝顔を見つめていると、入り口の風防を巻き上げ誰かが入ってきた。


 「ただいまシーシアスさん。あ、キリくん起きたんですね。」


 「おかえりなさいカムリさん。それに…。」


 カムリを出迎えたシーシアスが、その後ろに続く二人の人物に気づいた。


 「やほー!見舞いに来たよっ。キリおはよー!って言ってももう夕方だけどねー。」


 「り、リィン。病人が居るんだから大声出しちゃダメだよ。」


 威勢の良い大声の主は斧使いのリィン・クレッセン。その後ろでおどおどしているのが弓兵のサラサ・ハピエだ。


 「や、二人もいらっしゃい。他の方たちはどうしてるでありますか?」


 「団長は副長に捕まって帳簿の確認だってさー。案外二人でしっぽりしてたりしてねー。あはは。」


 「わわ、やめなってリィン。」


 「シリオさんとヨシアさんはマックさんラッドさんと交代で哨戒任務だそうです。マックさんたちは後でこちらに寄るって言ってました。イバラードさんとミームさんはおゆはんの準備。ヘムオンさんはお馬のお世話です。他の皆さんはいつも通りに訓練したり休憩したりですよぉ。」


 シーシアスに報告しつつ、カムリは少女の寝ている寝台の前へ足を運んだ。


 「うんっ、よく寝てるみたいですね。これならもう治癒は要らないかな。もういつ目を覚ましてもおかしくないと思います。」


 少女の様子を見て満足げに頷く。


 「そういや会議はどうなったんだ。こいつをどうするか、決まったのか?」


 寝起きの体を醒ますため軽く体操をしていたキリが尋ねた。会議の前に追い出されたので気になって当然だろう。


 「…ん、私たちも会議に出なかったから又聞きになっちゃうけどね…。」


 「その子はあたし達の仲間になることが決定したのでした!」


 「や、正確には一定期間保護した後本人が望むなら、であります。」


 サラサの言葉を無理矢理引き継いだリィンに、シーシアスが素早く訂正を加える。それを聞いたキリは思わず目を輝かせ、声を上げた。


 「―へへっ、そっか。そうこなくっちゃな。じゃあそいつは、おれの弟分第一号ってわけだ。」


 「女の子だから妹分、が正しいでありますよ、キリ君。」


 「ふふっ、キリくん嬉しそうですねー。可愛い妹が出来てよかったね。」


 年長者四人の微笑ましいものを見るような視線に気づき、キリは緩んでいた顔を慌てて引き締める。


 「バッ、ちっげーよ!今までおれが一番ガキ扱いだったからな。子分としてこき使ってやるってことだよ!」


 言いながら顔が熱くなっていくのがキリには分かった。まだ熱が残っているらしいとキリは思うことにした。


 その時、またテントの入り口で物音がして二人の人物が入ってきた。


 「よーぅ、元気そうだな少年。このマックさんが見舞いに来てやったぜ。」


 「いやいや、来たのはこのラッドさんさ。感謝しろよ少年。」


 「おいおい来たのは、おれとお前だぜ兄弟。」


 「そうか兄弟、ならば感謝は二倍必要になるな。」


 言って互いに顔を見合わせにやりと笑いあったのは、瓜二つの容姿を持つコーマックとコンラッドのエヴィン兄弟だ。一応髪型で区別を付けているがその日の気分でころころ入れ替わるので、慣れた者でも二人の判別は難しい。


 「いらっしゃいお二人とも。今日は右分けがマックさん、左分けがラッドさん…ですよね?」


 声を掛けたカムリが二人の顔を不安げに見比べる。


 「ところがどっこい、今朝起きたときぼく達自身にも分からなくてな。」


 「とりあえずじゃんけんで決めたのさ。ぼくがラッド、こいつがマックってね。」


 「おっとぼくがラッド、お前がマック、だろ?」


 そうやって名前を押し付けあいはじめた二人に、カムリが目を白黒させる。


 「えっ、えええ。じゃあ左がマックさん右がラッドさん。いやその反対で、うーん。」


 「…お、落ち着いてカムリちゃん、自分の名前が分からなくなる人なんていないから。」


 必死でうなるカムリをサラサがなだめる。そこへリィンの間延びした声が掛かった。


 「あっれー、ねぇねぇその子身動きしてるよー。そろそろ起きるんじゃないかなー。」


 見ると確かに、先程まで寝返りも打たずに寝入っていた少女が、微かな声をあげて寝台の中でもぞもぞ動いている。


 最初に動いたのはキリで、テント内の団員達も次々と彼に折り重なるようにして少女の顔を覗き込んだ。


 「あっ、おいコラお前ら。重てーよ!」


 「わぁ、この子はどんな子なんでしょうね。ふふふっ。」


 「ひゃんっ、し、シーシアスくん手が…。」


 「あははー、シーシアスがすけべだー。」


 「ちちちがうであります。これは不可抗力であります!」


 「おい賭けようぜ兄弟。彼女の瞳は青色とみた。」


 「違うね兄弟。きっと緑色さ。」


 そして彼らが見守るなか、少女はゆっくりとその目蓋を上げた。



 ―――これが少女の物語の始まり。もとの世界の誰も知らない、小さな傭兵団にやってきた小さな少女の長い長い物語。



 「わっ、わっ起きましたよ!」


 「…黒い瞳。すごい。」


 「キレイだねー。」


 「とっ、とりあえず何か言わなきゃであります。」


 「そんなの決まってるぜシーシアス。」


 「ああ決まってるな。言ってやろうぜキリ。」


 「へっ、分かってんよ!」



 そして彼らはそれを告げた。新入りが入ったときに決まって言う、芸も飾り気もないその言葉を。


 『グレイグ傭兵団へようこそ!』


これでやっと傭兵団全員が出せました。主人公含め十八名、いずれ全員集合を書かなければならないと思うと正直気が滅入r

力量不足の自分ですが完結まで頑張ろうと思いますのでどうぞよろしくお願いします。


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