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作者: 沙華やや子
掲載日:2025/12/20

れんちゃんは今日も元気いっぱい!

 (れん)ちゃんは10才の好奇心旺盛な女の子。つやつやの短いボブヘアーがトレードマーク。今日はお気に入りの赤いスカートに黒と白の縞々のセーターを着ています。紺色のジャンパーは今、ランドセルの上に置かれています。

 仲良しは空羽(くう)くんです。大きな瞳が美しく、大人しい性格の空羽くんも10才。空羽くんは黒いストレッチパンツに、クリーム色のトレーナーを着ています。上着であるグレーのジャンパーは今、恋ちゃんと同じくランドセルの上に。二人は小学校の4年生。

 放課後には探検ごっこをして、よく一緒に遊びます。


 今二人は公園のブランコに揺られているのです。


「空羽くん、何か面白いことないかなー」


「恋ちゃんたら、いつもそんなこと言ってるね。宿題やってるの?」


 まるで口うるさいママのようなことを言う空羽くん。


「うん、寝る前にちょっとだけやってるよ」


「ちょっとだけ?」


「うん、あたし、お勉強よりも、鉄棒やドッジボールのほうが好きよ。ブランコとね!」


「僕はお勉強が好きだよ」


 その空羽くんの言葉に思わずブランコを止めて、隣でゆーらゆら、ブランコをこいでいる空羽くんの顔を、首を動かしつつまじまじと見る恋ちゃん!


「空羽くんて、変なのー」

 足を地面に着地したまま恋ちゃんは不思議そうに言います。


「なにが変なの?」

 空羽くんもブランコを止めました。大きな目が少しだけ小さくなっている空羽くん。


「うん、なんとなく」


「そう?」


 しばしの沈黙の後……二人は再びブランコを楽しそうに揺らし、振り子運動に身をゆだねキャッキャと声を上げます。



 やがて夕暮れです。冬の夕暮れは急いで夜のカーテンを空に引きます。


「そろそろ帰ろうよ、空羽くん」


「うん、そうだね」


 辺りの空気は藍色がオレンジを包み込んで行っている。


 ストン! 二人は上手にブランコを下りました。ゆっくり歩き公園の出口に来たところです。


(これはなんだ?)


「ねえ、見て! 面白そうなものがある。空羽くん!」

 公園出口……恋ちゃんの足元にひっそりと置かれた木の箱を見つけた恋ちゃん。

 ランドセルをひと回り小さくしたぐらい。こげ茶で木目調の見目麗しい箱です。


「ムムム……。なんだろうね?! 恋ちゃん」


 恋ちゃんは「危険な物だといけないから……」と空羽くんが話し終わらない内に、箱を開けてしまいました。

 なんにも怖いことは起きませんでした。


「恋ちゃん、こういう時は触らずに警察に言わなきゃいけないよ。危ない物が入っている可能性もあるんだから」


「はーい」

 恋ちゃんは、反省をしつつ箱を地面に戻しました。でも、ワクワクし瞳をキラキラ輝かせ箱の中身を見ました。


「空羽くん! みてっ。メモが入っている」


「ん?」


「空羽くん、『恋ちゃんの冷蔵庫の中』って書いてある……」


 ただの真っ白い10CM四方の紙に筆で書いた黒い文字です。

 空羽くんにさっき注意されたばかり。恋ちゃんは箱に触れずにまじまじと見ているのです。


「あたし! 帰るね! バイバーイ、空羽くんっ」


「あ、うん。気を付けてね~! 恋ちゃん」


                    *


「パパ、ママ、ただいまー!」

 手洗い・うがいをすると、ママのいるキッチンに走って行く恋ちゃん。

 もの静かなパパは、仕事部屋でお仕事中みたい。


「あらあら、どうしたの? そんなに慌てて。恋、おかえりなさい!」

 恋ちゃんとおそろい、丸っこいボブカットの可愛いママが微笑んでいます。エプロンをして、魚の煮つけを作っています。


「うん、ママ! 冷蔵庫にきっと宝物があるわ!」


 恋ちゃんはエキサイトしています。


「宝物ぉ?」


「あのね、ママ……」と、公園で見つけた箱と、その中のメモについて話す恋ちゃん。


「え……! なんだか不気味だわ、恋の名前を知っている誰かがいるとかさ。110番しましょう」


「うー、ママ~! その前に冷蔵庫を開けさせて! あたし、とっても気になるわ」


「わかった! ママが開けます」


 ゴクリ……。

 なんだか緊張して来てつばを飲み込むママと恋ちゃん。


「えい!」そう言ってママが冷蔵庫を開けました。


 あれ? 変わった物はなんにもない。ヨーグルト・牛乳・お味噌にソース・マヨネーズ、などなど……。


「野菜室を開けてみるわ」と、なにやらハッスルしだすママ。


「うん、ママ! 開けて、開けて!」


 ママはしゃがみ、野菜室を開けます。

 レタス・ブロッコリーにジャガイモ・玉ねぎ・人参にキャベツ……。特に変わった物はありません。


 残るは冷凍庫!


「よし! あとは冷凍庫ねっ」まるで、ママったら子どものようになっています。

 なにかを見つけなきゃ気がすまない、といった風。


 でも……冷凍庫の中身は、アイスクリームに氷、冷凍食品に保冷剤。見慣れないものは見当たりません。

 なんだかママはがっくりしていて、それがちょっぴりおかしいなと思う恋ちゃん。


「ネェ、ママ? あたしが冷蔵庫を触っても良い?」


「うん、良いよ。危険な物は何もないことが確認できたから」


 頭に鉢巻を巻きたいぐらいに張り切っている恋ちゃん。


(なんだか気になってしょうがないわ……! なにかはわからないけど、探す!)


 さっきママは冷蔵庫の中身を動かしはしませんでした。

 恋ちゃんは踏み台を持ってきて、奥にある四角いお味噌の入れ物を右に動かしました。


「あっ!」


 なんと……! お味噌の後ろには、小さな木箱が隠れていたのです。そう、公園で見たのと同じく、綺麗な箱。違うのは大きさと色です。

 大きさは……お味噌の入れ物より少し小さい。色は美しく深いワインレッド。


「ママ! 宝物を見つけたわっ」


「え?! 触っちゃいけないわ、ママが出します。おりこうさんにしていてください、恋」


「はい」


 ママが手を伸ばし、冷蔵庫の一番奥から「あら、ほんと! なーにこれ」と言いながら小箱を取り出しました。


「まあ! セロテープでなにか貼ってあるわ」とママ。

 小箱の背面にミニミニ封筒。それはお手紙らしい。

 『恋へ』と書かれている。それを見て、「あたしが読む!」とちょっぴり強引に小箱をママから奪い取った恋ちゃん。


「『恋へ――――お誕生日おめでとう。少し早いけど、プレゼントさせてね! これはパパの作ったオルゴールだよ。なんの曲かな? ゼンマイを巻いてごらん。パパは、恋のパパになれてとっても嬉しい。生まれてきてくれてありがとう、恋。――――パパより』」


 ママに読んで聞かせた恋ちゃん。


 ママは……ご立腹の様子で、すぐに階段を上がり、パパの仕事部屋へ向かいました。トコトコついて行く恋ちゃん。


「パパ!」

 ノックもしないでママはお部屋に入ってしまいました。


「ん? どうしたの、ママ?」

 部屋着用スラックスにカッターシャツと毛糸のベストを着たパパが、向かっていたパソコンからクルリと振り返りました。優しい表情です。


 ママは火を噴く怪獣のようになりました!

「どうしたもこうしたもありません。こんな手の込んだことをして! 外に恋の名前を晒すなんて危険すぎます! メモの入った箱が、子ども達の遊ぶ公園にあるだなんて、怪しさ満点です!」


 パパはママに叱られてしょんぼり。

「ご、ごめんなさい。ロマンチックだと思ったんだよ」


 パパのことが可哀相になり「マーマ……」ママのお洋服を引っぱって激しい叱責を止めようとする恋ちゃん。


「もうこんなことはしないよ。お家の中だけにする」と、少年のようなパパ。


 ママの眉毛が下がり、ホッとしたような表情になりました。


「パパ、ありがとう! オルゴール、素敵だわ。あたしのお部屋に持って行っていい?」


「ああ、いいとも」



♪ターン……ターン……ターン、タ~ン……タンタラタラララ・タラララララララ……。


 オルゴールが奏でたのは、パッヘルベルの『カノン』でした。

 恋ちゃん、音楽の授業でこの曲のレコードを聴き、うっとりしたことがあったからすぐに判りました。


                    *


 翌日――


「おはよう! 空羽くん。秘密が判明したわよっ」


「あ! あの、箱の中のメモ?」


「そう!」


 そして素敵な全容を、パパがママに怒られたことも、恋ちゃんは空羽くんにお話ししました。


 空羽くんは大人びた顔をして「ムー。恋ちゃんのパパ、子どもみたい。でも、なんだか羨ましいな! お誕生日おめでとう、恋ちゃん」と、輝く笑顔を見せました。


 大人にも子どもみたいなところがあって、子どもにも大人みたいなとこがあるのですね。


 人を不安にさせる悪戯はいけません。パパはどうやら羽目を外し過ぎたようです。

 パパは猛省したので、今度は違うサプライズを思い付くことでしょう。


 恋ちゃんは、前より宿題をするようになりました。でもそれはおまけなんです。ウフフ。

 オルゴールの音色を満喫するついでにお勉強をしているんですって! 面白いね。








 

宿題をするようになったれんちゃん……。パパは天才かも知れないね(?)

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