顔が怖いのでレンタル怖い人をやろうとしたらレンタルじゃない彼女を勧められた
勧められた成分は極薄です。
レンタル怖い人のネタが最近バズってたので書いてみました。
「はぁ……」
「どうした茶山、珍しく落ち込んでるじゃねーか」
とある高校の教室にて、茶山と呼ばれた男子生徒が後ろの席の男子に話しかけられた。
「それがな。昨日の仕事が最悪でさ」
「仕事って例の『レンタル彼氏』ってやつ?」
「そう。化け物みたいな女でさ、顔も性格も最悪。しかも無理矢理ホテルに連れ込もうとしてくるから参ったよ」
「ざまぁ」
「うっせ」
己の優れた容姿を活かしたバイトで茶山は荒稼ぎしていた。だが儲かる反面、今回のような大外れでメンタルがガリガリと削られてしまうこともある。レンタルされる可能性など皆無な一般男子から見れば、ざまぁと言いたくなるものだろう。
「でもそういうのって事前に分かるようになってるんじゃないのか?」
「替え玉使われた」
「バレねぇの?」
「バレる。リップルに通報した」
リップルとはレンタル彼氏、レンタル彼女を運営している企業のことである。
「今頃リップルから学校に連絡がいって、厳重注意されてるはず」
「どこ高?」
「西高」
「西かぁ、近いし注意されても会いに来たりして」
「マジでありえるんだよなぁ」
ルール違反をしたその女子はもうリップルのシステムを利用不可能だが、茶山がどこの高校なのか知っているため押し掛けてくる可能性は確かにあるだろう。
「何々何の話?」
「茶山がレン彼で特大地雷を踏んだって話」
「マジで? ご愁傷様~」
二人の会話に割って入って来たのは、笑顔が眩しいクラスメイトの女子。茶山はイケメンであるがゆえ、クラスメイトの女子がこうして良く話しかけて来る。
「そういえば白岡さんも、レンタル彼女の相手に付きまとわれてるって言ってたよね」
「呼んだ?」
いきなり名前を呼ばれ、もう一人会話に混ざって来た。
さらさらした髪が特徴的な清楚系美少女。ただしレンタル彼女をやっているということは、見た目に反してそれなりに遊び人なのかもしれない。
「ほら、例の男のこと」
「ああ、毒蝮君のことね。レンタル彼女が終わった後も言い寄って来てしつこいのよ」
「やっぱりそっちも茶山みたいに特大地雷なのか?」
「顔は良いし性格もまぁまぁだけど、下心が露骨すぎるから私はパスって感じ」
「私だったらイケメンと付き合えるならそのくらい平気だけどなぁ」
どうやら茶山の相手ほどは地雷ではないらしい。
どちらも相手に執着していて嫌がられているという意味では同類だが。
「はぁ……もうちょっとリップルが厳しくペナルティ与えてくれればなぁ」
「本当にそうだよね」
「特に西高は緩いらしいから、多少のことじゃ無視されるらしいしな」
「うちの高校だったら謹慎とかになってもおかしくないのにね」
「不公平だ~」
「だよね~」
同じ被害を受けた者同士、意気投合して不満を伝え合う。
そんな二人を見た一般男女は何かを邪推する。
「おやおや、仲がよろしいようで」
「どうせ世の中の美少女はイケメンがかっさらう運命なんだよな」
恋のきっかけになったのではと揶揄っているのだが、それが実現しないことをクラス中が知っていた。
「もう、茶山君はタイプじゃないって言ってるでしょ」
「俺も白岡さんは良い人だと思うけど、付き合うとすると違うかなぁ」
お互いに極上の相手だというのに、欲しがらないなどなんて贅沢な。
イケメンや美少女は選択肢が多いのである。
「それじゃあ二人ともどんな人がタイプ……」
恋愛話が大好きな一般女子が更に話を広げようとしたその時。
「…………」
一人の男子生徒が彼らに近づいてきた。
「うお!」
「ぎゃあ!」
「きゃ!」
「きゃあ!」
その人物の存在に気付いた四人は大声で悲鳴をあげてしまった。
「…………通る」
自分の席に戻るために道を開けて欲しかっただけなのだが、尋常ではない程に恐れられてしまっていた。
「ご、ごめんなさい!」
「通って通って!」
道を塞いでいた女性陣が慌てて飛びのくようにして道を作った。
「…………」
クラスメイトに対する反応としては失礼ではあるが、その男子は何も言わずに自席へと戻った。
「こ、怖え、殺されるかと思ったわ」
「もうダメかと思ったよ~」
体の震えが止まらないといった様子の一般男女。
「その反応は流石に失礼すぎだろ」
「そうだよ。確かに怖かったけど、剛山君は何もしてないし」
一方で怖がりはしたものの、フォローを忘れないイケメン美少女。
「くっ、心の中までイケメンとか卑怯だろ」
「同感。見た目だけじゃなくて性格まで綺麗とかずるいよね~」
妬ましさ満点の台詞ではあるが、ただの軽口である。
差がありすぎると妬ましく感じることすら馬鹿馬鹿しく思えてくるのだ。
「でもよ、やっぱりあいつ絶対何人か殺ってるぜ」
「そうそう。あの顔は絶対に半グレとかに関わってる感じだもん」
ただ目つきがキツイという話では無い。
顔から体つきから雰囲気まで、全てが悪人にしか感じられない。
何か事件を起こそうものなら『あんなことをするような人には見えませんでした』だなどとは絶対に思ってもらえず『いつか殺ると思ってました。むしろもっと被害者がいるはずです』だなんてインタビューで言われてしまいそうな程の凶悪な面構え。
いつも不機嫌そうな表情をしており、寡黙で、今回のようにたまに口を開いたかと思えば重く低い声が相手を震え上がらせる。
それが剛山という男だった。
「だからそういうことは言ったらダメだって」
「そうそう」
茶山や白岡のようにフォロー出来る人物など稀である。
「そんなことより化け物の対処法を一緒に考えてくれよ」
「私もどうしたら良いんだろう」
剛山について話をすることすら危険だと内心では思っているのか、すぐに元の話題に戻り一般男女もその流れに乗った。
「…………」
そんな彼らの話を聞いているのか聞いていないのか、剛山は自席で不機嫌そうにスマホを弄っていた。
翌土曜日。
白岡は自宅から二つ隣の町の繁華街に一人で遊びに来ていた。
「はぁ……毒蝮君に会いたくないからってここまで遊びに来るのは大変ね」
わざわざ遠くの街まで来たのは、レンタル彼女の元借主である毒蝮という男性と会わないようにするため。
「もうリップルでレン彼やるの止めようかな。でもお給料は良いし、本当なら審査が厳しくて変な人には会わないはずなのに……あ~あ、私って運が悪いな」
リップルのサービスそのものに賛否両論はあれども、トラブルになりやすい恋愛関係サービスの中では最もトラブルが少ないと有名である。では何故茶山といい白岡といい地雷を引き当ててしまうのかと言うと、治安があまり良くない西高が家の近くにあるため、その生徒とのマッチングの可能性がどうしても高くなってしまうから。運というより立地が悪かった。重ねて、トラブルの多さから西高の生徒は直にサービス利用不可になるのだが、そうなる前に被害に遭ってしまったタイミングの悪さもあるだろう。
「ううん。せっかく遊びに来たんだから、今日はそのことを忘れてたっぷり遊ぼうっと!」
まずは何からやろうかと、街をぶらつきながら店を選ぶ。
ウィンドウショッピングをしようか、ゲームセンターに行こうか、カフェでゆっくりしようか、本屋で紙の本を買って読もうか。
毒蝮に付きまとわれている日頃の鬱憤を晴らすために、楽しいことだけを考えようとする。
だがしかし。
「あ」
「やあ白岡さん、偶然だね」
不運にも今もっとも会いたくない人物と遭遇してしまった。
「そ、そうだね……」
「やっぱり僕達は運命の赤い糸でつながれているに違いない」
「それは無いと思うよ」
キザったらしい表情で大げさにアクションをしながら話しかけてくる毒蝮の姿は、イケメンではあるがウザい。
「せっかくの再会だ、デートしよう」
「その件はお断りしますって何度もお伝えしたじゃありませんか」
「そんなこと言わないで、もう一度だけ良いだろ?」
「嫌です」
「今度こそ僕の良いところを知ってもらうからさ」
「はぁ……レンタル彼女は本物の恋愛禁止です。これ以上しつこいとまたリップルに通報します」
レンタル彼女はあくまでも彼女のフリをしてもらうもの。
可愛い彼女がいると見栄を張ったり、女子と付き合う練習台になってもらったり、カップルでないと参加できないイベントに参加したりと、恋愛以外の用途で使うもの。本気の恋愛目当てで利用することは厳禁であり、少しでもその兆候があればレンタル終了となり、利用者にはサービス企業から厳しい罰則が与えられる。学校に連絡が届いて謹慎や停学、更には退学になるなんて話も普通にある。ただ、西高がその届け出に対してまともな対応をしないため、毒蝮はこうして好き放題アプローチしに来ていた。
「まぁまぁ怒らないで」
「近づかないでください!」
「こんなところで大声を出さないでよ」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「それなら静かなところでじっくりとお話ししようよ」
「(その手には絶対に乗らないから。それにしても相変わらず視線がやらしい。口説いている最中に胸や腰ばかり見てくるのはどうなの。静かなところなんて言ってホテルに連れ込まれるのが目に見えてる)」
毅然とした態度で断り、少しも譲歩してはならない。
そのおかげでこれまでどうにか追い返せているのだが、同じことが何度も繰り返されて白岡は辟易していた。
「(いつまで続くのこれ。せっかく離れた街まで来たのにこの人に会うなんて最悪。もしかしてつけられてたりしないよね)」
先日は友達と一緒に遊びに行っても話しかけられて強引に誘って来た。友達に悪いと思って今日は一人で離れた街まで遊びに来たけれどそれでもダメ。もう外出は諦めるしかないのかと思えて来た。
「(あ~あ、私の高校生活どうなっちゃうの)」
このままずっと毒蝮につきまとわれる最悪の展開を想像してしまい心が折れそうになる。
その時。
「白岡じゃねーか」
「きゃあ!」
「うお!?」
突然二人に話しかけて来た人物がいた。
それはあまりにもいかつく、人を殺していると言われても不思議ではない程に悪人のオーラを漂わせている人物だった。
「な、な、ななな!」
恐怖でパニックになる毒蝮。
格好良く追い払おうにも、少しでも機嫌を損ねたら殺されるのではと思いビビって何も出来ない。
一方で白岡は一瞬恐怖したものの、直ぐにその人物が誰なのか気が付いた。
「(いつもより怖いけど、剛山君だよね?)」
普段は雑に揃えた髪型なのだが、今日は両サイドを大きく刈り上げて長めのトップの髪をオールバックにまとめている。刈り上げ部分にラインの剃り込みを入れている所が怖さ倍増である。
「ここで何してる」
「(私恫喝されてるの!? 怖すぎだよ!)」
じっと睨まれてド低音ボイスで言われたら、白岡も恐怖でパニックになりそうだった。
「あ、遊びに来てたの。そうしたら……」
チラっと毒蝮を見ると、その視線につられて剛山の視線も毒蝮に向けられる。
「ひい!」
あまりの恐怖に毒蝮は二歩下がった。
口説こうとしている女性を放置して逃げようとするだなど、男としての格が知れている。
「こいつは?」
「この人は……」
自分にしつこく言い寄ってくる男だと白岡が説明しようと思ったのだが。
「ただの通りすがりですうううう!」
なんと毒蝮は涙を浮かべながら猛ダッシュで逃げてしまったではないか。
これには白岡も唖然とするしかなかった。
「…………」
「…………」
白岡は唖然としたままで、剛山は何も言おうとしない。
奇妙な沈黙が二人の間を流れる。
「(あれ、私これからどうすれば良いの?)」
面倒な男は去ったけれど、剛山にそのことを説明しなければならないのだろうか。
「(というより、剛山君ってどうして話しかけて来たの?)」
クラスメイトではあるが接点は無いに等しい。
そんな相手を街で見かけたとして、普通は話しかけようとは思わないだろう。
「…………これで良かったか?」
「え?」
白岡が考え込んでいたら、剛山の方から話しかけて来た。
だがその言葉は端的過ぎて要領を得ない。
「その、良かったって何が?」
「…………困ってるみたい、だったから」
「え!?」
その瞬間、白岡の心の中で大きな変化が起きた。
目の前にいるのは人を殺してそうな恐怖の象徴ともいえる男子なのに、その怖さが一気に消滅した。
「も、もしかして剛山君。私を助けてくれたの?」
「…………教室で話、聞いてたから」
「ええええええええ!?」
なんと剛山は教室での白岡達の話を聞いていて、困っている白岡を助けに来てくれたのだ。
人殺しとは正反対の人助け。
白岡の中で剛山の株が急上昇する。これまでのギャップ効果もあり、爆増中だ。
「ありがとう剛山君!本当に助かったよ!」
白岡が剛山のような人物と知り合いと分かれば、毒蝮はもう話しかけて来ないだろう。白岡の悩みは解決してしまったのだ。
お礼を言われた剛山は視線を逸らしてボソリと呟く。
「…………どう…………致しまして」
「(もしかして照れてるの!?)」
超こわもて男子がそっぽを向いて照れている。
それはイケメン茶山にも興味を抱かない白岡であっても、クリーンヒットな態度であった。
「ねぇねぇ剛山君。少しお話ししても良い?」
剛山のことが気になって気になって仕方なく、身を乗り出すようにして話しかける。
実はこの時、周囲を歩く人からは少女が悪い男にさらわれそうになっていると見られていた。しかも警察に通報される直前だったのだ。だが少女の方からフレンドリーに剛山に話しかけたことで、ギリギリでそれは回避されることとなった。
「…………歩きながら…………で良いなら」
「もちろん良いよ!」
白岡は剛山と並んで歩き出す。
「(うわ、自然と道路側を歩いてくれてる。偶然なのかな)」
あまりにも自然だったため、意図的なのかどうかは分からない。だが不思議と剛山がそういう気遣いの出来る人物であるかもと思いそうになっていた。それだけ助けてくれたことと不器用な反応が彼の印象を大きく変えたのである。
「ねぇ剛山君。怒らないで聞いて欲しんだけど」
「…………ああ」
「というか、怒ってる?」
「…………いや」
「本当に?」
「…………人と話すの、苦手」
「え?」
「…………緊張で、顔がこわばる」
「(ずっと不機嫌そうに怒ってるのって、ただ緊張してただけなの!?)」
クラス中が剛山のことを怖がっていたのに、剛山もまた人との付き合いを怖がり緊張していた。
このことを知ったらクラスメイトはどう思うだろうか。
「(それじゃあ話し方が怖いのも、緊張で上手く話せないからってことだよね。なにそれめっちゃかわいいんだけど!)」
見た目が怖い人が実は人付き合いが苦手なだけだった。
そのギャップは白岡の性癖にぐっさりと刺さるものであり、好感度の上昇は留まるところを知らない。
だがそれはあくまでも人としての好感度。
クラスメイトが実は面白い人だったという意味で興味津々になっているだけ。
この時までは。
「じゃあさ、その髪型なんだけど、学校じゃ普通だったよね?」
「…………今日のために、やってもらった」
「ええ!? でもそれじゃあ学校で先生に怒られちゃうよ!」
「…………大丈夫、ウィッグある」
そう言って剛山が鞄から取り出したのは、彼のいつも通りの髪型を模したウィッグだった。試しにそれを被ると、確かに学校での彼の姿まんまだった。
「あはは、ウィッグまで用意してるなんて……あれ、待って、今日のためにやってもらった、って言ったよね。もしかして私を助けるために準備してくれたの? どうして私が今日ここに来るって知ってたの?」
白岡が今日一人でこの街に来ることは誰にも伝えていない。
だとすると剛山はどうやってそのことを知り、助けに来てくれたのだろうか。
「…………白岡さんと、会ったのは、偶然」
「え? そうなの?」
自分のために行動してくれたのかと思い込んでいたが、それが勘違いだったと分かり少し照れる白岡。
「じゃあどうしてその髪型にしたの?」
「…………それは…………居た」
「え?」
「ちょっと、待ってて」
話の途中で剛山は何かに気付き、白岡を置き去りにしてある方向へと向かった。
その先では一組の男女が言い争っていた。
「だから何でここに君がいるんだよ!」
「あら~ん、愛しのダーリンがいるところならどんなとこにでも行くわ」
「うおおおお、近寄らないでくれ。君との仕事はもう終わっている!」
「そんなに照れなくても良いのに。それに仕事なんかじゃなくて、ホ・ン・キ・よ」
爽やか超絶イケメンが、苦悶の表情で後退っている。
それをジリジリと追うのは、あまりにも醜い見た目の少女だった。単に不細工だけならまだしも、己の手入れを一切せずに不衛生にしか見えない肌に、汚らしく肥えた体。そのくせ似合わないピンク色のフリル多めのドレスや安っぽい宝飾品で全身を飾りつけしていて品が悪すぎる。
女性の見た目に対して苦言を呈するだけで炎上する世の中において、彼女だけは誰に何を言われても炎上しないに違いない。
そんな彼女が鼻息を荒くイケメンに迫っている。
剛山はそんな二人に声をかける。白岡の時と同じように。
「よう茶山」
「きゃああああ!」
「え!?」
茶山も悲鳴をあげそうになってギリギリで堪えた。どうやら相手が剛山であることに気が付いたらしい。
「だ、だだ、だーりん、この怖い人知り合い!?」
「親友だ」
「!?」
驚きで声を出さなかった茶山を褒めるべきだろう。ただのクラスメイトであり、口ではフォローしているが内心では明らかに怖がっていて距離をとっていた相手。そんな相手から『親友』という言葉が出たら驚くのも当然だからだ。だが茶山はその聡明な頭脳で、剛山の行為の意味を即座に理解したのだった。
「そ、そう。僕の親友。今日はどうしてここに?」
「不要な奴を、処分しにきた」
「ひいいい!」
茶山にご執心の女子は、顔を真っ青にして後退った。剛山はわざと誤解を招くような表現をしたのである。たとえこの会話を近くの誰かに咎められて通報されても、ゴミを捨てに来たと説明すれば良い。
「それで、こいつは?」
これでトドメだと言わんばかりに、剛山は女性を睨んだ。
「人違いでしたああああ!」
するとその女性は怯えに怯え、全力でその場から逃走した。
「助かったよ剛山君」
「…………どう…………致しまして」
剛山が白岡の時と同じく照れるような仕草をすると、茶山は目を大きく見開き驚くと共に、表情が柔らかくなった。剛山の真の姿を察したのだろう。
「本当に助かったよ。感謝してもしきれないくらいだ」
「…………気にするな」
「でも、どうして助けてくれたんだい?」
「…………困ってるって、話を、聞いたから」
「え?」
「教室で、今日は、ここに来るって、言ってたから、困ってたら、助けようと、思った」
茶山は例の女子から逃げて遊ぶために、遠くのこの街で遊ぶと教室で話をしていた。結局それでも見つかってしまったが。
「待って待って。僕が聞きたいのは、話をしたことも無いのにどうしてって意味なんだよ」
「…………クラスメイト、困ってたら、助けるのは、当然じゃないのか?」
「え!?」
単に疑問に感じただけなのだが、不機嫌そうな顔の眉間に皴がよることで、更に怒っているように感じられる。周囲の人々は恐れ戦いたが、肝心の茶山は剛山の言葉をすぐに咀嚼できず固まってしまった。
そんな二人の元へと白岡がやってくる。
「そっか、剛山君は茶山君を助けるために来たんだね」
彼女の顔はほんのりと赤みがかっていたのだが、話をすることに慣れて無くて緊張でいっぱいいっぱいの剛山と、状況を理解するのに必死な茶山は気付かなかった。
「どうして白岡さんが?」
「私も茶山君と全く同じで、さっき助けられたの」
「ああ、それで」
剛山の本来の性格に気付きフレンドリーに話しかけているのか、と茶山は彼女の行動が腑に落ちた。
「それにしても困ったな。助けて貰って、どうやってお礼を返せば良いのか」
「そうそれなんだよ。私も困っちゃって」
お互い付きまとって来た人は剛山と関わりたくないから諦めるだろう。
この先の高校生活や人生に大きく影響するほどの重大な問題があっという間に解消され、その恩は簡単なことでは返せない。
「…………気にするな」
「そういうわけには行かないよ」
「剛山君はそれだけのことをしてくれたんだもん」
「…………俺にも、メリットが、ある」
「メリット?」
「メリット?」
どうやらただ助けたかっただけではなく、剛山にも狙いがあったらしい。
「…………テレビで、レンタル怖い人、の特集を見て、それなら、俺でも、出来るかなって、思った。今日のは、良い、練習に、なった」
「レンタル怖い人!?」
「なにそれ!?」
聞いたことの無い単語に驚く二人だが、その効果はたった今実感したばかりだ。
面倒な人に付きまとわれていても、怖い人と知り合いであると思わせれば諦めて離れて行く。
「…………この顔でも、役立てるなら、嬉しい」
「(反応に困る)」
「(剛山君に相応しいなんて言ったら失礼だよね)」
でも相応しくないとフォローするのも、わざとらしすぎる気がする。
「剛山君はそれで良いの? その……怖いって思われたままになっちゃうけど」
「…………良い。自分の顔、怖いけど、嫌いじゃないから」
「そ、そうなんだ」
顔のせいで友人が出来ず多くの人から怖がられて誤解されてしまったのに、それでも剛山は自分の顔が嫌いではないと言う。
「(確かに改めて見ると、整っててイケメンのタイプかも)」
恐怖のバイアスを取り除けば、実に男らしい力強い格好良さがある顔だった。白岡の顔がまた一段と赤くなる。
「(うう、私って爽やかなタイプより、男っぽくて荒々しい感じの顔の方が好きなのよね)」
しかも相手はクラスメイトが困っているからと助けようとしてくれる優しさの持ち主で、緊張で上手く話せないというかわいい点もある。白岡の好みの男性像に近く、異性として意識し始める。
「でも剛山君。レンタル怖い人をやるにしても、どうやってレンタルしてもらうつもりなんだい?」
「え?」
「そんな業者無いだろうし、自分でお客さんを見つけるのは大変だよ」
「…………そうだった」
がっくしと肩を落とす剛山。
そんな彼の肩を茶山は横から思いっきり抱いた。それこそ『親友』がやるかのように。
「よし、なら僕に任せておいて。学校でレンタル怖い人のお客さんを探してあげるよ」
「本当か!?」
「助けられたからこのくらいはさせてよ」
「あり、がとう」
あまりの嬉しさで泣きそうにプルプル震える剛山。しかし残念ながら傍から見ていると怒りに打ち震えているようにしか見えなかった。
「もちろん私もお手伝いするよ」
「じゃあ三人でカフェにでも入って作戦会議しようか」
「いいね」
茶山と白岡に連れられて、剛山は歩き出す。
怖い顔のせいでこれまでずっと一人だった剛山にとって、初めてのクラスメイトとの街歩き。
あまりにも幸せでまた何かがこみあげて来そうになったその時。
「オイ何やってんだよ!」
「早く来いよ!」
「お前が来ないで誰が金だすんだよ!」
遠く離れた所で、ガラの悪い男子達が誰かに怒っている声が三人の耳に届いた。
「あれは……」
「剛山君。彼らのことを知ってるのかい?」
「…………後ろの男子、中学の時の、クラスメイト」
剛山の視線の先にいるのは、西高の制服を着ているみるからにひ弱そうな男子生徒。
「オラ急げ!」
「ぐっ……」
その男子は首根っこを掴まれたが、その瞬間に周囲から見えないように腹に一撃を貰っていた。
「行ってくる」
「え?」
「え?」
剛山は迷うことなくその男子の元へと向かい声をかけた。
「久しぶりだな。小山」
「ああ? だれ……!?」
「うお!?」
「!?」
ひ弱男子小山をいじめていた男子達は、剛山を目にすると途端にビビって距離を取ろうとした。
解放された小山は地面に膝をつき、お腹を押さえてしゃがんだ。
「けほ、けほ……か、剛山君!?」
いじめっ子三人に怯えていた小山が、今度は別の意味で怯え出す。
そんな小山を無視して剛山はいじめっ子たちに視線を向ける。
「こいつの知り合いか?」
「ひい!」
「いや、あの、その!」
「お、俺達は、ただ!」
今にも逃げ出しそうな男達から剛山は視線を外し、再び小山を見る。
「小山、連絡先を教えろ」
「え?」
「お前には世話になったからな。何かあったら俺を呼べ」
これで小山と剛山に繋がりが出来たといじめっ子達は理解させられた。もしもこの先、小山をいじめ続け、そのことが剛山にバレたら殺されるかもしれない。あるいは今すぐにでも殺されるかもしれないと思ったのだろうか。
「ひいいいい!」
「た、たた、助けて!」
「お許しを!」
男共は情けなく命乞いをしながら逃げ出したのだった。
しばらく呆然としていた小山は、やがて自分が助かったこと、そして剛山が助けてくれたことを理解した。
「…………剛山君どうして助けてくれたの?」
「同級生だから、当然だろ」
「だって僕達は話なんか全然したことないじゃないか」
「それが、何か、関係あるか?」
「え!?」
ただ優しいだけ。
優しいから助けただけ。
小山は中学の時には分からなかった、剛山の本当の性格を理解した。
「うう……ありがとう……ありがどう!」
そして剛山の胸に顔を押し付け、子供のように泣きじゃくる。
辛いいじめから解放された喜びと、剛山への感謝と、剛山の本当の姿が予想外だったのと、そんな剛山を誤解して接し続けてしまった申し訳なさと、その他多くの感情がごちゃ混ぜになってしまったのだ。
小山の背を剛山は優しく撫でる。
その顔には笑顔が浮かんでいる。
慈愛に満ちた、彼の優しさを美しく表現する心からの笑顔。
今の彼の姿を見たら、人を殺しそうだなど誰も思わないだろう。
そんな剛山と小山の様子を、茶山と白岡は離れた所で見守っていた。
「剛山君、あんなに良い人だったんだね。これまで誤解してたことを謝らなくちゃ」
「…………」
白岡に話しかけたつもりなのだが、彼女からは返事が無い。
不思議に思い茶山が彼女の様子を確認すると、茶山はこれまた驚きで目を見開いた。
「白岡さん、もしかして惚れちゃった?」
「…………」
「あ~これは本格的なやつかも」
「…………」
白岡は微動だにせずに笑顔の剛山を真っすぐに見つめていて、その顔は茹蛸のように真っ赤だった。
「剛山く~ん、次の土曜にレンタル怖い人お願いできる?」
「ああ」
「しまった先取られた。それじゃあその次の日曜は私にレンタルさせて!」
「ちょっと待てよ。俺もレンタルしたいんだけど」
「何よ。女子の方が優先でしょ」
「あ~俺がお願いしようと思ってたのに!」
レンタル怖い人。
茶山と白岡が率先してサービスを宣伝しまくったおかげで、学校中の大人気サービスとなっていた。
毎週土日は必ず仕事があり、平日でも放課後に仕事をする日があるくらいだ。
「いやぁまさか剛山君があんなに良い人だなんて思わなかったよ」
そう口にするのは明るいだけが取り柄の一般女子。
「だな。人殺ししてそうなんて言ってた以前の俺をぶん殴ってやりたいわ」
そう同意するのは茶山の後ろの席の一般男子。
剛山の印象は以前とは全く異なり、クラスの人気者となっていた。
「剛山君のことが分かったのは、茶山君と白岡さんが付きまとわれたおかげだね」
「そのことはもう忘れたいから言わないで欲しいな」
「その割にはレン彼続けてるんだろ」
「儲かるからね。それに西高の人とマッチングしなくなったから良い仕事ばかりで楽しいよ」
どうやら茶山は懲りずにレンタル彼氏を続けて稼いでいるようだ。
実はそのお金を使って剛山にお礼のプレゼントを買おうと思っているのだが、それは彼のトップシークレットである。
「白岡さんはもうレン彼やってないんだよね」
「う、うん」
「やっぱりつきまとわれるのが怖いから?」
「そ、そんな感じかな?」
「(レンタルとはいえ他の男と付き合う気になれないんだろうな)」
白岡の内心を茶山は的確に把握していたが、ここで茶化すようなタイプではない。一般男女なら堂々と揶揄うだろうが、そこに人間性の違いがある。
剛山を囲んだクラスメイト達は次は誰だとまだ騒がしい。剛山も最初の頃は戸惑っていたが、今では自然に話が出来る程には馴染んでいた。
そんな一団の中から、白岡にとって聞き捨てならない言葉が聞こえて来た。
「ねぇ剛山君。このあいだのレン怖のお礼なんだけど、一日デート権で良い?」
「え!?」
「たっぷり楽しませてあげるからさ」
「え、えと、その」
会話に慣れたと言っても、女子から攻められたらキョドってしまう。それが面白くて揶揄われているだけなのだが。
「な~んて冗だ……」
「ダメーーーー!」
冗談だと気付かなかった白岡が思いっきり叫んでしまった。
突然の大声にクラス中が彼女に注目し、やがて一人、また一人とその叫びの意味を理解し始める。
にやにや。
にやにや。
にやにや。
嫌らしい笑みに囲まれて、自分がやらかしてしまったことを理解して真っ赤になる白岡。
「そっかぁ。剛山君には先約ありだったか」
「え?」
状況を唯一分かっていないのは剛山だけ。
これまで人付き合いが出来ていなかったが故、察する力は皆無だった。
「白岡さん、レン彼頑張ってね」
「うううう」
「まさか白岡さんがね~」
「この展開は予想外だったよ」
「マジかよ。白岡さんってあ~いうのがタイプだったのか」
「くそ、分かってれば筋トレしたのに!」
「うううううううう!」
クラス中に自分の気持ちがバレてしまったとなれば、白岡は真っ赤になって唸る以外に何も出来ない。
「あの」
そんな彼女に向けて剛山が声をかける。
そうなれば途端に教室中が静かになり動向を見守ることになるのは当然の話。
「俺、レンタル彼女を使う予定ないですよ?」
途端にはぁ~と深い溜息が教室中から漏れ、剛山の鈍さを理解する。
そして彼の傍にいた冗談を放った女子が問いかける。
「じゃあ剛山君。レンタルじゃない彼女なら欲しくない?」
そしてその相手として白岡が立候補しているのだと暗に告げているのだが、もちろん理解出来る訳が無い
「こんな顔のやつの彼女になるなんてレンタルだとしても可哀想だ」
自分が想われる可能性を考えるどころか、そもそも仮だとしても恋人が出来ることなどありえず相手に迷惑でしか無いと思い込んでいる。長年怖がられたことによるこの思い込みを打ち崩すのは簡単ではない。
「白岡さん、苦労しそうね」
「頑張って。私応援してるから」
「流石にこれは白岡さん可哀想。でも剛山だから仕方ない」
「うううううううううううううううう!」
クラスメイトから好き放題同情され、やはり呻くことしか出来ない白岡。
果たして彼女の恋が実る日は来るのだろうか。
普段とは違う視点や結末でしたが、たまにはこういうのも良いかな。




