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1 異端の悪魔

GW企画3日目

悪魔たちの世界を賭けた学園生活の序章

研ぎ澄ました主人公のスタートの話です。

 六つの世界は、虚空(きょこう)の裂け目によって繋がれた。

 異なる理が交差し、争いは避けられなかった。

 数百年、あるいは数千年ーーー

 終わりなき戦いが続いた。


 その中心にあったのが”人界”

 最も多くの血が流れ、最も多くの祈りが捧げられた場所。


 そして、そこから一人の勇者が現れる。

 彼は戦乱を終わらせ、世界に秩序と平穏をもたらした。

 人々はこの戦いを、こう呼ぶーーー


 ”終焉戦争(しゅうえんせんそう)



 これは、終わった物語の続きの物語・・・。


 ここは、悪魔やそれに準じる者が住む冥界(メナス)

 冥界は5つの国で成り立ち、それぞれの国は、始祖の悪魔の血筋によって成り立ってる。悪魔は実力主義。中でも魔力量に重きをおく。そして、それは平和になった現在でも見られている。



「下級悪魔が、お前が伯爵家次期当主などあり得ない。」

「なんと、低度の悪魔。貴族に在るまじき者よ。」

「平民と同じなど伯爵家も落ちたものよ。」


 これらはある、伯爵家の幼き長男に向けられたもの。この者は、生まれながらに魔力が少なく、とても魔力の高い両親から生まれたとは思えないものだった。

 彼の者の名は、イリアル。ルシファルク・イリアル、サタリスク国の外領の一部を任されたルシファルク伯爵家の長男であり、後に『始祖の星火』と呼ばれた英雄である。



「イリアル様。また、ここに居られたのですか。もうすぐ、入学式が始まります。さぁ、一緒に参りましょう。」

「ルーミニナ。ごめんね、少し見たくない奴を見つけちゃって・・・。」


 階段の裏に座るイリアルに話しかけた女性。ルーミニナ、内領を治めるアスモダクレイン伯爵家の次女であり、イリアルの許嫁でもある。

 その容姿は、悪魔の中でさえ、聖女と呼ばれるほどに清廉であり、金から白へと移り変わるミディアムヘアー、歳不相応の胸、シミのない真っ白な肌をしている。


「また、あの人に何か言われたのですね。何も気にすることはありませんよ。私も、それにイリアル様のご家族も付いてます。異母妹さんも心配なさってましたよ。」

「そうだね・・・。ありがとう、ルーミニナ。行こうか。」

「はい。」


 イリアルたちが学院の体育館に向かうと、入口に赤から銀へと移り変わる髪をした高身長、イケメンが立っている。


「やぁ、二人共、遅かったね。もうすぐで始まってしまう。早く向かおうではないか。」

「第1王子がギリギリに入場なんて、よくないと思うけど・・・。」

「ルージュ王子、私がお連れするので、中で待っていて貰って構いませんでしたのに。」


 この者は、ルージュ。アーキサタリスク・ルージュ、サタリスク国の第1王子にして、イリアルの数少ない友人、いや、親友である。


「イリアルがいない、入学式なんてつまらないだろ。それに、王子なのだから多少のワガママは許して貰えるさ。」

「初等学院の時、それで先生に怒られていただろ・・・。」

「私たちは、今年で成人するのですから、お自愛下さい。」

「君たちは硬すぎるよ。」



 その後、入学式は何もなく始まったのだが、終わり間際になり、ある新入生が、退場する生徒や先生を止め、声高々に話し始める。


「俺は、内領子爵家の子、タンムースナイ・カラカ!ここ、栄誉あるサタリスク学院に『単色悪魔』が居るのは如何なものか!俺は、明日の放課後、外領伯爵家の子、無能のイリアルに決闘を申し込みたい!力無き者はここには必要ない!」

「「「「「「「「「うおぉぉぉ!」」」」」」」」」


 この者は、初等学院の時より、イリアルをいじめていた者で、返事をしたのは同じくイリアルを嫌う多くの内領貴族の者である。『単色悪魔』、魔力量の少ない悪魔に対して使う差別用語である。


「おい、お前は何を言っている。伝統ある式典を汚す様な事をするな!」

「お言葉ですが、王子。『単色悪魔』が居ることこそが汚れであります!悪魔は強さこそが絶対です!そして、強さとは魔力量によって決まる!」

「父上はそのようなことを言ってはいない。それに、イリアルはその叡智と努力で、この学院へと入った。この場だからこそ話すが、筆記試験において、この者は歴代最高点にて入学している。」

「しかし、そいつは、魔力量を測る実技試験では基準ギリギリ、本来ならば、入学が許されない者です。」

「お前!なぜ個人の試験結果を王族でもない者が知っている!」

「いいよ、ルージュ・・・。」

「しかし、あの者は。」「そうです、イリアル様。」

「いいよ、やるだけの事はやる。それに、そろそろ、僕も自力で立たなきゃ。・・・カラカ、決闘内容と要求は何?」


 イリアルが前に出るとカラカは、伴を携えてイリアルの前に出た。赤から黒江と変わる長髪をなびかせながら歩く姿は、まさに将軍のようである。


「ふん。お前ごときが俺を呼び捨てとは。決闘内容は、薬物などを使った不正を禁止した魔法、武術のみでの決闘だ!俺からの要求は、お前の退学と爵位継承権の辞退だ!」

「「「「「「「「「うおぉぉぉ!」」」」」」」」」

「ちょっと待て、貴族、それも子爵の子供に爵位に関する権に口を出す権利は無いぞ!」

「いいんだ、ルージュ。僕からの要求はだけど。」

「イリアル、ならば要求は俺の方でやる。要求は、タンムースナイ子爵の降格だ。その代わり、先程のお前の要求を私の方で王族として受理してやる。」

「な!ちょっ・・・。」

「わかった。」


 タンムースナイ子爵の現当主であるカラカの父が何か言おうとしていたが、カラカがルージュに答えたことによって、決闘が成立した。成立後の決闘に異議を申し上げるのは、いかなる地位の者でも出来ない。それほどまでに、悪魔の『決闘』は重たい意味を持つ。



「・・・イリアル、本当に良かったのか。」

「あぁ、いつまでも2人に頼っても居られないし、頑張るよ。」

「しかし、あの者はなぜ未だに『単色悪魔』などと差別を考えるのでしょうか。強さは決して魔力量のみでは無いですのに。」

「あいつのような考えのものはやはり、一定数いる。やつが試験結果を知っていたところを見ると、学院にもやつの協力者が居るのだろう。学院長も交えて、父と話さなければ。」


 『単色悪魔』、終焉戦争の終わりより前に使われていた差別用語。悪魔に限らず、すべての世界の者が、魔力量により毛の色が変わる。魔力量が少ないものは一色の髪であり、魔力量が多いものほど、より幅広い色の髪を持つ。これは、体内の魔力が毛を変色させているためと言われている。

 イリアルの髪は吸い込まれてしまうような黒髪。まさに、『単色悪魔』なのだ。



 イリアルが自宅に帰ると入学式を見に来ていた父と母、義母、そして、双子の異母妹のライナがいた。


「兄様、申し訳ありません。ライナも王子たちと共に間に入れればよかったのですが、クズ野郎の手下に通路を防がれていましたので。」

「すまないな、イリアル。私もちょうど陛下と挨拶のため、会場を後にしていて。」

「別に構いません。それにいつかはしようと思っていたことですので、ありがとうございます、父上。ライナも気にしなくていい・・・。」


 異母妹のライナは小柄であり、髪は黒から紫に移り変わる。それをサイドポニーに編み込んでいる。そして、小柄な体格からは考えられない胸をしている。


 父のルシファルク・S・アリスタは、高身長であり、40代ほどのイケオジである。髪は黒から紅に移り変わり、若い頃、終焉戦争では『火炎の一番星』とまで言われた戦士だ。


「しかし、無理はいけませんよ、イリアル。この後にでも、再度リリアナと最終調整を行いなさい。」

「イリアル様、訓練場にて再度話しましょう。決して楽ではありませんから。」

「わかっています、母上。リリアナさんもよろしくお願いします。」


 母のルシファルク・サフィアルは、女性にしては高身長で、黄色から群青に移り変わるロングヘアーをハーフアップにしている。スタイルが良く、父親と共に終焉戦争の戦場を渡ってきた。

 当時は、『月夜の令嬢』と呼ばれ、悪魔には珍しい広範囲回復の魔法を使っていたらしい。


 義母であり、父の専属メイドでもあり、イリアルの師匠でもあるルシファルク・リリアナは、ライナの母である。小柄で、胸が大きく、ライナと姉妹だと言われても信じてしまいそうな容姿をしている。髪は青から紫に移り変わり、ベリーショートになっている。彼女もまた、先の戦争をかけていた猛者である。『水流の悪姫』と呼ばれており、元は元王族の暗殺者であったそうだ。




「逃げずに来たな『単色悪魔』。田舎に帰る用意は済ませたか?」


 カラカは、笑いながら話しかける。闘技場の中心、腕を組み、仁王立ちをして構えている。


「なんでもいいから始めよう。こんなにお祭り騒ぎなんだ。他に迷惑が掛からないように早めに行いたい。」

「フハハ。いいじゃねぇか。どうせ始まったら瞬殺だ!この『陽焔』の魔力を持つ俺との戦いではなぁ!」


 カラカは赤い魔力を纏いながら話す。

 この世界の魔力には様々な種類がある。種類に応じて、扱う魔法も変わり、その特性も変わる。

 例えば、カラカの『陽焔』は、火を中心とした魔法を扱えて、火力重視の戦法になりがちである。ちなみに火に関する魔法で現最強はイリアルの父のアリスタであり、『火星』の魔力を持っている。


「それでは、試合を始めさせて貰います。決闘ルールは以下のようになります。

 一つ、武術、魔法の使用制限は無いものとする。

 一つ、不正薬物、魔法の武器、武具の使用を禁止とする。

 一つ、勝利条件はどちらかの敗北宣言、もしくは戦闘続行不能にしたらとする。

 一つ、これらはサタリスク王国の王、並びにサタリスク学院学院長によって、執り行う。

 以上となります。審判は私、第3騎士団副団長ルベルトが行う。両者、準備はよろしいか。」

「いつでもいいぜ。」「大丈夫です・・・。」

「それでは・・・開始!」

「「「「「「「「「うおぉぉぉ!」」」」」」」」」


 闘技場を揺らすほどの大歓声で幕を開ける


「我、太陽の子孫!求めるは彼の者を貫く陽光!【サンセット・アロー】!」


 カラカが、上空に飛ばした魔力の塊はある程度昇ると弾け、光の矢となりイリアルを含めた周囲に向けて降り注ぐ。レーザーとも思えるその攻撃は、一瞬で闘技場を埋める。

 イリアルは、ギリギリのところで躱しながら、カラカへの接近を試みる。触れればただでは済まない攻撃を、必死に避ける。


「へ。どうせ、てめぇの考えは近接戦の苦手な俺に近接攻撃を仕掛け続けるとかなんだろ!魔力量が少なくて、俺の魔力壁を突破する魔法は打てないからな!我、太陽の子孫!求めるは彼の者を焼く剣!【サンバスター】!」


 カラカが唱え終わると、その背後に一本の燃える大剣が浮遊する。炎を上げる大剣は、ものすごい熱風を上げ、イリアルを捕らえる。


「焼き切られるのと焼き貫かれるの、好きな方を選べ単色のゴミ悪魔が!」

「どっちもゴメンだよ・・・。」


 イリアルは、大剣の届かない距離まで引くと再度、矢を躱しつつ、カラカの周囲を動き周り隙を伺う。

 そんな試合の流れを、貴賓席から王族、貴族も見ている。国王はそんな試合を来るいい顔で見る。


「これは、辛いな。」

「父上、何故です。イリアルの狙いは読める。上手く行けば勝負を決められます。」

「あぁ、私にもわかっているとも、ルージュよ。しかし、逆なのだ、イリアル君の作戦は先の大剣の魔法によって、それしか、選択できなくなったということ。」

「しかし、あのイリアルです。何か細工をするはずです。」


 イリアルの聡明さを知るルージュは、父である国王に意見する。


「あぁ、何か腹案もあるだろう。しかし、小細工が通用するのは、実力差が一定以上で無いときだ。イリアル君は、お世辞にも魔力があるとは言えない。つまり、どうしても素の実力差ができてしまう・・・。」

「そ、それは・・・。」


 ルージュが国王に言い返せなくなっていると、横に座るサフィアルが言葉を挟む。


「すみません、陛下。お話しても?」

「構わない、ルシファルク婦人。」

「ありがとうございます。陛下は終焉戦争をご経験だと思います。」

「あぁ、父の代での話だ。私も戦場に赴いていたからな。それがどうした。」

「では、目にしたことがあるのでは、戦争を終わらせる要因となった者を、5つの世界に人界の強さを知らしめた者を。」


 段上ではカラカの矢が勢いを失い始めた。イリアルは、躱しつつ、魔力を編み始めている。弱弱しい光がその手に集まる。


「”勇者”・・・。」

「えぇ、彼の者はその武勇を持って、人族の力を知らしめました。しかし、そんな彼の者は、天才ではありましたが、決して、魔力量が高かった訳ではありませんでした。」

「あぁ、確かに人族にしてはかなり高い方ではあったが、それでも残りの5つの世界の者たちに比べれば少なかったな。」

「えぇ、しかし、彼の者はその武勇を示した。それは、卓越した魔力操作によって、魔力をより錬成したからに他なりません。イリアルは魔力が他より少ないとわかった頃より、”勇者”に関する書物を読み漁り、ただひたすらに、魔力操作を鍛え上げ、たった一本の牙を研いできました。」


 カラカの攻撃が緩むと、イリアルは一瞬でその距離を詰める。手にした光は短剣となり、光を増す。


「我、太陽の子孫!求めるは彼の者を・・・」

「我、星の子!求めるは彼の者を屠る刃なり!【スターブレード】!」

「・・・ふっ、読んでいないとでも思ったのか!彼の者を止める強固な壁!【フレアウォール】!」


 イリアルの動きを読み、カラカは炎の壁を間に作った。突然現れる炎の壁はイリアルの目の前に現れる。


「やはり、魔法のかけ直しに見せたブラフ!イリアル君の魔力では魔力壁を超えるあの壁は壊せない。」

「ふふ、無駄ですね。」


 焦る陛下の横で尚も笑みを浮かべるサフィアル。

 カラカの壁は、イリアルの光る剣に当たるとーーー

 霧散する。それは、誰もが考えもしなかった結果である。



「この世に生まれ変わりがあるのでしたら、イリアルはまさしく、”勇者”、”弱くとも磨き抜かれた一本の牙で強者を喰らう者”の転生者です。」


 力の誇示を誇りとする悪魔は、より多くの力を欲する。新たな力を求め、多くの経験を得ようとする。長い生を使って・・・。しかし、イリアルは違う。多くなど求められなかった、伯爵家の次期当主としての責務か、それとも悪魔としてのプライドかは、わからない。だが、彼の者には、求める余裕などなかった。

 だから、ただひたすらに研いだ、その知を、時間を、経験を、心を。誰もが他に目を向ける中、ただひたすら己が唯一の力を得るために・・・。




 しかし、現実はあまりにも無情であった。イリアルは壁を突き破ると体勢を崩し、転倒してしまう。あと一歩、これまでの耐え抜いたみじめな時間を肯定する一突きを失った。


「フハハ、運は俺に味方したな!これで終わりだ!我、太陽の子孫!求めるは彼の者を貫く陽光!【サンセットアロー】!フ、ハァハァハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


「!イリアル様!」


 カラカの生み出す魔法の矢が、イリアルを直撃、その後も連撃を加え、段上は土煙で見えない。ただ、カラカの高笑いだけが聞こえる。


「イリアルの魔力は僅かしか感じない。さっきの魔法に使えきったんだ。」


「フハハァ、死ねゴミ悪魔が!大体可笑しいんだ!俺より弱いお前ごときが、俺より爵位が上?学力が上?伯爵令嬢の許嫁がいるなんてな!安心してくたばれてめぇの許嫁も、絶望の後にそっちに送ってやるからよ!」

「ッ!」



「あらあら、触れてはいけない逆鱗に触れたわね。」

「どういう事です、サフィアル様。」

「ルーミニナ、貴方の愛した者は、決して立ち上がれぬ弱者ではないという事です。彼は、圧倒的な絶望の敗戦になるわ。」


 突然、土煙がイリアルを中心に吹き飛んぶ。真ん中に立つ、イリアルは天高くまで伸びる深藍色の魔力を纏っていた。黒かった瞳は青色をおび、単色と馬鹿にされた黒髪は魔力に煌めき、多くの色を反射してまるで夜空、いや吸い込まれてしまいそうな星々輝く宇宙のようである。


「な、なんだその魔力は、お前は『単色悪魔』で、反撃の力なんてほとんど無かったはず、なのになんだその魔力は・・・。」

「あぁ、僕はどこまでも愚かで下等な悪魔さ。」


 カラカだけではない、その場にいる者全てが目を疑った。

 それは、どこまでも大きな魔力、どこまでも濃い魔力の密度に、否。突然膨れ上がった魔力に、否。真に、驚かせたのは、その種類、(いろ)に。



「イリアルは、『星』の魔力を操る悪魔です。」



 魔力には種類があるが、それとは別にも質がある。一般的には、『純粋』と『混合』である。

 『純粋』は、悪魔の祖先と全く同じ魔力だと言われ、魔力消費が激しく、制約をつけられるが、この世の理を扱う原初の魔力。

 『混合』は、『純粋』から派生していった魔力だと言われ、ほとんどの者が持つ魔力。魔力消費が調整でき、魔力の扱いに幅ができる。しかし、理を曲げることは叶わない。


 カラカの『陽焔』は、『混合』であり、『純粋』の『炎』から派生したものだ。太陽を媒介に火に関する魔法が扱える。

 対して、イリアルの『星』は、『純粋』であり、その力は星への干渉。夜空の星になぞらえた魔法を扱う。


「しかし、イリアル君は確か魔力が少なかったはずだ。だが、今の彼はどう考えても魔王クラスの魔力を纏っているぞ。」

「ふふ、陛下、お忘れですか?先程、私は”勇者”の転生者だと言いましたよ。あったでは無いですか。未だに誰一人と無し得ていない、勇者が扱った最上級の力が。」

「ッ!まさか、イリアル君はその域に居るというのか!」

「父上、何なんですか?」


 ”勇者”を知る国王は、イリアルの姿から目が離せないでいた。


「先の戦争、5つの世界の内、3つの世界が勇者討伐のため、物量による勇者の魔力欠乏を狙った・・・。しかし、それは失敗に終わった。曰く、”勇者”は、決して屈せず、決して折れず、決して止まらなかったそうだ・・・。それはどうしてか。未だにあの場に居た者たちは、理解が追いついていないと聞く。」

「ふふ、えぇ。しかし、仮説は出来ていました。しかし、誰もが机上の空論だと一脚しましたが。イリアルは、それに賭けて、これまで生きてきた。」

「己の魔力を操作、変質させ世界に働きかける。そうして、世界の魔力を己の魔力のように操る。」

「ッ!!」


 終焉戦争にて、勇者は人界の思いを紡ぎ、世界に干渉した。それは一人の人間が扱うには無理のあるものだったが、その才覚をもって勇者は操った。まさに、世界そのものを背負い戦った。

 イリアルは、魔力が少ない己を強くするために、勇者の文献を読み漁り、全てを賭けてできるかもわからないその技術を模索し、編み出した。

 血を吐く努力なんて生易しいものじゃない。それは、無いと言われたダイヤの粒を砂漠の中からあるとひたすらに信じて探すようなもの。成果が約束されない努力である。



「・・・カラカ、世界を相手にする覚悟はあるか!」

「巫山戯るなよ!我、太陽の子孫!求めるは彼の者を焼き尽くす光!【フレアレーザー】!」

「我、星の子!求めるは彼の者を炎上させる星!【アンタイル】!」


 カラカが、出した炎のレーザーに対して、イリアルが魔法を詠唱する。すると、纏う魔力の一点が赤く輝き、イリアルの右手に現れた。イリアルが、その手を突き出すと、カラカの魔法を吸い込み、燃え上がる。カラカの出す炎の何倍も熱くギラギラと。


「なっ!まだだ!我、太陽の子孫!求めるは彼の者を焼く剣!【サンバスター】!」


 カラカは、魔法で大剣を出すとイリアルに突っ込んで行く。その姿は、イリアルの強さを認められない、認めてしまえばすべてを失うと、鬼気迫るものである。


「我、星の子!求めるは彼の者を霧散する星!【ベガ】!」


 イリアルが唱えると、纏う魔力の一点が青白く輝き、イリアルの左手に現れた。イリアルがそれを両手で握りつぶすと、途端に青白い光が周りを包み、カラカの大剣を霧散させる。高まった空間をプライドごと静寂へと強制的に送り出す。


「な!どうして!」



「魔法の遠隔強制解除!それは、魔王クラスでも簡単には出来ない高等技術だ。」

「陛下、イリアルはまさにその魔力自体が星なのです。万物を生み出し、壊した『星』。星から生み出された魔力をただ扱う者の魔法が効く訳ありませんわ。」



「カラカ、決めさせて貰う・・・。我、星の子!求めるは我が魔法を紡ぐ星!【デネブ】!」


 イリアルが唱えると、纏う魔力の一点が白く輝き、イリアルの前に浮遊する。それに追従するように、先程の赤い輝きと青白い輝きがイリアルの前で三角の形に浮遊する。


「我、星の子!求めるは最上の星で紡がれた魔法(きせき)!万物に干渉する魔法(ことわり)!我を照らす魔法(ほし)!【アステリズム・デネブ】!」


 3つの輝きは光を増し、一筋の光となってカラカの横を右腕を抉るようにかすめた。そして、その後ろにある。ステージの魔力障壁を半壊させる。高位の悪魔たちで展開した魔力障壁を。


「・・・・・そこまで、勝者ルシファルク・イリアル!」


 誰もが歓声を忘れ、半壊した魔力障壁を見ていた。『単色悪魔』とバカにした悪魔の決闘の結末を・・・。


「50人で作る魔力障壁を・・・。」




 その後、決闘はつつがなく終わりを迎えた。カラカの実家のタンムースナイ家は降格で騎士爵となり、その領地、財産の多くを王家に返還した。また、他生徒に生徒の個人情報を意図的にリークしたということで、学院の職員が検挙され、その中には、副教頭も混じっており、その多くが内領貴族の親族であったらしい。

 そして、イリアルは今、国王の応接室に呼ばれている。


「お久しぶりです、ドレオール陛下。」

「あぁ、久しいな、イリアル君。今回呼んだのは、先の決闘でみせた君の力についてだ。なぜ、あれほどの力を持っていながら、ボロボロになるまで使わなかった。下手をすれば、ケガでは済まなかったのだぞ。」

「発動にかなり繊細な準備が必要であるのが一つ、条件をわざと複雑にしていることが一つです。」

「ほう。準備とは?」

「その場の魔力を解析し、使用する上限を決め、その場の魔力に適応した魔力に自己魔力を変異させる事です。」

「なるほど、確かに解析には時間を要するのは当たり前だろう。何分割で解析しているのだ?」

「魔力なしで一分間に600分割ですね。」


 ちなみに、人間は一分間に約60回、身体的に優れる悪魔でも通常一分間に約300回思考する。つまり、魔力を用いずにイリアルは常人の10倍、悪魔の2倍、脳を動かしていることになる。

 魔力を用いれば、人間でも悪魔でも思考を加速できるが、魔力を用いずには行えない。


「凄いな、私も魔力を用いれば可能ではあるが魔力を用いずにそれを行うとは・・・。大体何分ほどで準備が完了するのだ?」

「解析が、大体10分程ですね。そこから、自分の魔力を変異させるので、完了するのは20分くらいです。」

「我々、悪魔の戦闘の中では、決して短くは無いな。それで、条件の方は何なのだ?」

「それはその都度設定してます。しかし、確実に言えるのは、複雑にするほど、魔法が扱いやすくなると言うことです。例えば、今回の場合ですと条件は7つ、1つ目は魔力の枯渇、2つ目は魔力上限の設定、3つ目は時間の制限、4つ目が魔法の使用順序の制約、5つ目が敵対者の人数の制限、6つ目は勝利を信じる者の一定数以上の確保、7つ目は特定の者に対する強い思い、です。」

「そこまで、制限したからあそこまでのまでの魔法を撃つに至ったというわけか。」

「はい、自分の戦い方は、持久戦にも短期決戦にも向かないただの一回、戦闘における一瞬のためだけの力です。」


 その後もイリアルは、ドレオールと話を続けた後に帰路につく。





 イリアルたちが王城で話していた時、王都近郊にて。


「『純粋』の魔力を持つものが更に判明した。」

「あぁ、これで数は揃った。作戦をもう1段階進めるとしよう。」

「しかし、まさか『単色悪魔』の中にいたとは。」

「あぁ、これからはそちらにも気を向けなければな。」

「差し当たっては、当初の予定通り。」

「あぁ、狙うべきは彼女だ。次の作戦の準備に取り掛かるとしよう。頼むぞ、『宝』の。」


 暗い部屋にて、話す者たちが見据える先で、黒いフルプレートの者が手に持つ金と銀の短剣を、机にある写真に突き刺す。


「了解した。『底沼』を借り受ける。」


 写真には今日のイリアルの決闘の勝利を祝福する満面の笑みを見せたルーミニナが写っていた。




明日も続くGW企画

この作品を連載作品にしたいと思った方は

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この作品の運命は、君が決めよう!


いつもはYouTubeで活動してます。

別投稿作品の「神々の観る世界 神々に魅せる世界」の裏話や挿絵、紹介動画なんかもしていくつもりなので、そちらも見に来てください。

https://www.youtube.com/channel/UC3wzuZXPJ0Izmji-vlTWgdg


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