第一話 血塗られたコケシ
郊外の森を抜けた先に、灰色の石垣に囲まれた古い屋敷があった。
通称【人形屋敷】
窓は重苦しいカーテンで塞がれ、玄関は黒く煤けている。近隣住民は口をそろえて言う。
「あの屋敷から夜な夜な木槌の音が聞こえる」
「窓辺に、人の顔みたいな影が並ぶんだ」
警察は長年、ただの噂と片付けてきた。だがその夜、通報を受けたパトロール隊が屋敷の内部で 異様な光景 を目撃することになる。
玄関の扉を破り、懐中電灯を掲げた警官たちの目に飛び込んできたのは
リビング中央に倒れ伏す女性の遺体だった。
中村律子(30)
人形屋敷の管理人。奇怪なコケシを集めていた。
その周囲には大小無数のコケシ人形が円陣を描くように並べられていた。
まるで儀式の供物を囲むかのように。
床には赤黒い液体で描かれた奇怪な文字。
読み取れないが、いずれも旧字体めいた曲線が絡まり、不気味な意図を孕んでいた。
「な、なんだこれは……!」
「まるで、儀式だ……」
若い警官が吐き気を堪える。
人形の瞳が光を反射して、どこか生き物のように見えた。
翌朝。
屋敷前には黄色い規制線が張られ、報道陣が押し寄せる。
その場に、二人の異色の捜査官が到着した。
黒のロングコートに身を包んだカズヤ。
彼の隣を歩くのは、逞しい体躯に古風な外套を纏った、魔族の男。アイゼンハワード。
「また厄介な現場だな」
低く呟いたアイゼンの目は、既に屋敷の奥に漂う“気配”を探知していた。
カズヤは冷静に言葉を返す。
「噂話ではなく、現実の殺人だ。だが……これはただの事件じゃない」
二人は規制線を越え、重苦しい空気に包まれた屋敷の中へ入っていった。
待っていたのは
血塗られたコケシと、まだ誰も解き明かせていない“呪い”の始まりだった。
呪いのこけし、 死者の魂を抱えて立つ。 木の心、哀しみの炎。
夜の風にさらわれて、 秘密の歌を歌う。
「こけし、こけし、供養のこけし」と 闇の奥で囁く。
遠い過去の記憶、 涙の滴が枝に落ちる。
「こけし、こけし、闇のこけし」と 月明かりの下で踊る。
死者の名前を呼び、 祈りを捧げる。
呪いのこけし、 永遠に生きる者よ。 闇の中で、歌い続けよう。