表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
984/1092

第9話 取調べ ― 狂気の裏側と広がる波紋

夜明け前。


ロサンゼルス市警の取調室は冷え切っていた。蛍光灯の白い光が、無機質な机と椅子を照らす。その中央に座るのは、手錠をかけられたマーク。顔にまだ汗と埃が残り、唇には不気味な笑みが浮かんでいる。


窓越しに観察するのはカズヤとアイゼンハワード。

「演技の仮面をかぶった狂人……だがまだ核心を語っていない」

カズヤが低く呟く。


「精神の歪みか、意図的な犯罪か……ここを見極めねばならん」

アイゼンハワードは腕を組む。


やがて取調官が入る。録音機が作動し、記録が始まる。

「マーク、君はなぜあのような罠を仕掛け、人々を危険に晒した?」

問いかけに対し、マークは小首を傾げ、まるで舞台でセリフを探すように間を取った。


「罠? 違うさ。あれは“舞台”だよ。観客がいれば、俺の演技は永遠になる」

声は震えていない。むしろ陶酔していた。


「お前は役を演じていたつもりか? 人を殺しかけたんだぞ!」取調官の声が鋭くなる。


しかしマークは笑う。

「人はみな、誰かに見られることで存在する。俺はただ、真実の自分を演じただけさ。監督も、共演者も、みんな俺を利用してきた……それなら、最後に俺が主役になるだけだ」


机の下で、カズヤは拳を握りしめた。

「動機は承認欲求……いや、それだけじゃないな」


アイゼンハワードが応じる。

「彼の過去に、火種があるはずだ」


調査班が持ち込んだ資料が並べられる。そこにはマークの少年期の記録があった。

・小劇場で孤立していたこと

・父親から「二流役者」と罵られ続けたこと

・周囲の俳優に冷笑され、舞台を降ろされた経歴


「俺はずっと笑われていた。才能がないって。だから証明したんだ。俺は“モズ”だ。笑う者を串刺しにして、永遠に舞台に留める捕食者だ!」

その声は叫びとなり、取調室の壁に反響する。


カズヤは無線で録音の停止を指示し、部屋に入る。

「マーク、お前は才能を証明したんじゃない。ただ心を壊しただけだ」

マークはカズヤの瞳をまっすぐに見て、不敵に笑った。

「君も役者だろう? 俺を裁くのは観客だ。裁判という大舞台で、俺はもう一度喝采を浴びる」


取調べは終了するが、マークの「舞台」発言は波紋を呼ぶ。


その日のニュースは全米を駆け巡った。

「人気俳優マーク・S、狂気の舞台」

「モズ事件、映画業界に衝撃」


SNSでは「演技と現実の境界線」について議論が噴出し、スタジオのスポンサは契約を打ち切り、映画は公開中止に追い込まれる。


共演者たちにも傷は深かった。

ジェシカは報道陣に囲まれ、涙ながらに「もう二度とカメラの前に立てないかもしれない」と語る。

ロバートは療養に入り、ヘレンはしばらく公の場を避ける決断をした。


一方で、ネット上にはマークを「時代の犠牲者」と擁護する声も現れる。孤独や業界の冷酷さに同情し、事件を美化する動きさえあった。


アイゼンは記者に囲まれ、静かに言葉を残す。

「人の狂気は舞台の外にも存在する。だが、それを容認してはならない。正義は喝采を浴びるためのものではなく、人を守るためにあるのだから」


カズヤは夜の街を歩きながら、携帯を閉じた。

「これは終わりじゃない。裁判という新たな舞台で、奴はまた演じようとするだろう」


月明かりが雲間から差し込み、遠くで報道ヘリの音が響いた。

事件はまだ、収束していなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ