第六話 兄弟の思い出
―――――――――
名前:リンゼル(暗殺者)
レベル:99
体力:9999
攻撃:999
防御:999
素早さ:999
魔力:600
賢さ:999
運:100
この世界で禁術より死体より復活したアンデット族のゾンビであり元勇者。
【固有スキル】
天才剣士 敵の攻撃を先読みし、初撃を20%の確率で自動回避
連撃マスター 通常攻撃の際、20%の確率でもう1回攻撃
風のステップ 戦闘開始時に俊敏性+10%上昇(3ターン)
―――――――――
あの影が、薄暗い荒野の中に立ちはだかった。
双剣の暗殺者――リンゼル。
そしてその隣には、禍々しき魔力を纏った闇の司祭カザールがいた。
「お待ちしておりましたよ、勇者殿。……ふふふ、今度こそ確実に殺して差し上げます」
カザールの口元に、不気味な笑みが浮かぶ。
「今回はねぇ……人間としての意識は完全に消し去ったんですよ。ゾンビとしての彼に、情けなど残っていないはずです」
禁術魔法!
「影よ、腐蝕の淵より這い出でて、愚かなる者を嘲笑え──《シャドウ・グレアム》!」
地面から黒い触手状の影がうねりながら現れ、カンナ姫、シスターマリア、そして村人リスクをまとめて拘束した。
「くっ……身体が……動かない……!」
「シスタマリアーっ!っ!?」
「神よ・・・」
「ふふふ……勇者殿、今こそ終焉の刻です!さあ、リンゼル……奴を斬り裂けッ!」
双剣の暗殺者リンゼルが勇者アルベルトと対峙する。
そのとき
アルベルトの瞳に、幼き日の兄との光景がよみがえった。
======================
「兄さん、勝負だ!」
「いいぞ、その調子だアルベルト」
幼き日、兄リンゼルと剣を交わして遊んだ日々。
柔らかい陽光の中、笑顔で双剣を振る兄の姿が、脳裏に浮かぶ。
「双剣は、防御を捨てた攻撃に特化した剣法さ。攻めこそが最大の防御……まさにそういうスタイルなんだ」
「すごいや兄さん……!俺、兄さんみたいになりたい!」
「弟よ。お前なら俺を超える存在になれるさぁ」
======================
現実に戻ったアルベルトは、静かに大剣ドラゴンバスターと大盾ドラゴンシールドを地面に置いた。
「兄さん……!」
彼は右手に《サンダーソード》、左手に《白銀の剣》を装備する。
「兄さん、もう一度勝負だ!」
闘志が燃え上がる。
かつての訓練のように、兄の戦い方を完全に模倣する。
双剣を構えたその姿は、まるでかつてのリンゼルのようだった。
「ユ・ウ・シ・ャアアアアア……アルベルトォォォ――コロス!!」
リンゼルの双剣が赤い軌跡を描きながら襲いかかる。
【双影斬】!
左右の刃が交差し、肩と脇腹を鋭く狙う!
「……この技、この前もやったよね、兄さん」
【双影斬】
アルベルトもまったく同じタイミング、同じ軌道で技を放つ!
「……!」
リンゼルの動きが一瞬、止まった。
「【スカーレットスピン】!」
炎と風をまとった回転斬りが放たれる!
「この技も覚えてるよね、兄さん!」
アルベルトも同時に同じ技を放つ!
「……オマエ……ナゼ……」
「【風の刃】ッ!」
二振りの剣から放たれた十字の風の刃が空を切り裂く!
「兄さんの技、全部覚えてる!ずっと見てたから!」
「イイゾ……アルベルト……」
リンゼルの双剣が再び構えられる。
【リンゼルラッシュ】!
全力の奥義が放たれる――
一撃、二撃、三撃――
斬撃が赤い閃光となって舞い、地を裂く!
「兄さん、その技……俺にも使えるよ」
「オレノ……ワザ……」
四撃、五撃、六撃、七撃――
地面が削れ、火花が閃き、兄弟の刃が交錯する!
八、九、十――
風圧が舞い、火の粉が舞う!
十一、十二、十三――
赤い炎がうねり、世界を赤く染める――!
「ラストォォォォ!!」
「ラストォォォォ!!」
二人が叫びながら放った十四撃目が、互いの胸元をかすめ――
その瞬間――
リンゼルの目に涙が浮かんだ。
「ソノ チョウシダ アルベルト……」
「兄さん……思い出してくれたんだね……!」
「なにをやっている!リンゼル!勇者アルベルトにトドメを刺せッ!!」
カザールの叫びが響く。
だが、リンゼルはゆっくりと振り返り、カザールを睨んだ。
「……」
「まさか……記憶を……!? 人間の記憶を呼び戻したのか!!?」
リンゼルはカザールに向かって全速力で駆け出す!
【リンゼルラッシュ】!
怒涛の十四撃が、今度は闇の司祭カザールを襲う!
「ぎぁあああああああああああああ!」
「完全に人間の意識は消したはずなのに!貴様は失敗作だ!!」
「オレハ……ソウケンノ リンゼル……ユウシャ アルベルト ノ 兄ダ」
禁術の力が消えかけ、リンゼルの体が崩れ始める。
「兄さん!!」
「アルベルト……オマエナラ……オレノ デキナカッタ シメイ……ハタセル」
「そんな……消えないで兄さん!!」
「ソノ チョウシダ アルベルト‥‥アニ ヲ コエロ」
その隙に、カザールが転移魔法を詠唱する。
「トゥーラ・エルヴァ・ノクス……星の彼方、道を開け。我が意に応えよ、移転の門よ――!」
《エクソダス・ゲイト》!
「この次は……必ず仕留めますよ……!」
カザールは黒き渦に消えていった
静寂が残る。
地に崩れ落ちたリンゼルの双剣そっと拾い上げた。
「兄さんの意志を、弟が……継ぎます」
双剣の勇者アルベルトが、ここに誕生したのだった。