第8話 山登り
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名前 海竜王リヴァイアサン
レベル:99
体力:9999(※絶えず回復している)
攻撃:4800
防御:7700
素早さ: 999
魔力:6000
賢さ:999
運:60
この世界でかつて世界を三度沈めたとされる、伝説級モンスター。海底神殿の最奥に封印されていたが、魔力の乱れと人類の欲によって復活。知性と本能が融合した戦闘スタイルを持ち、力任せの攻撃ではなく“構造として勝つ”戦いを展開する。戦いの途中で周囲の地形・水流・光量なども支配下に置く環境制御型の支配者。
固有スキル 海の王( 水属性無効)絶対圧領域(範囲内の物理攻撃を減衰させる/即死耐性を貫通する圧力ダメージを付与) 神域の鱗(一定ダメージ以下の攻撃を完全無効化)竜鱗反射(巨大な鱗が硬質化し、あらゆる魔法を反射。通常攻撃もほとんど効かない自動防御)
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シスターマリアが両手を天に掲げ、震える声で祈りを捧げた。
「聖域は……我らの希望――我らは再び、闘う…!」
「《グレイス・サンクチュアリ》!」
眩い黄金の光が天より降り注ぎ、瀕死だったパーティーの身体を優しく包み込む。
しかし、次の瞬間
「グオオオオオオオオオアアアア―――ッ!!!!」
海底が、唸った。渦れ、《深淵》の胎動!!
リヴァイアサンが咆哮とともにその瞳をぎらつかせた瞬間、海底が蠢いた。
標的の足元がひゅっと引き込まれ、次の瞬間―
ドゴォンッ!
大地が裂けたような轟音とともに、そこに“海の口”が開いた。
無数の水流が暴風のように逆巻き、標的を一瞬で“水の監獄”へと閉じ込める。
巨大な渦の中、魔力はかき消され、筋肉は弛緩する。
そこは、動けず、唱えられず、ただ削られ続ける静かな地獄。
「……体が……動かない……っ!」
シスターマリアの身体が硬直した。
リヴァイアサンがふたたび咆哮した。
「グオオオオオオオオオアアアア―――ッ!!!!」
それは、深海に響く裁きの鐘。
「――見よ、《奈落の眼》を……」
その双眼が黒く染まった瞬間、あたりの水圧が――“増えた”。
ゴリ……ミシ……ッ……!
骨が軋む。内臓が悲鳴をあげる。何もされていないはずの標的が、ただ“視られた”だけで――
「……っぐ、がはっ!!」
バルドルが血を吐いて膝を折る。呼吸ができない。
そこにあったのは、絶対的な支配力。
意思の弱い者は視線を受けた瞬間に意識を断ち、強靭な冒険者ですら体内から潰れていく。
「嘘だろ……目を合わせただけ、で……」
その一瞬で、勇者アルベルトの戦意も希望も崩壊する。
パーティーは回復してもなお圧倒的不利だった。リヴァイアサンは「倒す対象」である以前に、「絶対的な災害」だった。
だがそのとき、俺は海底湖の周囲にある岩陰を、女海賊グレイス・オマリーと一緒に這うように移動していた。
水の抵抗、地鳴りのような唸り、そして恐怖。全てが俺を押し返そうとする。
「……ここだ。リヴァイアサンの真後ろ、死角になってる」
「えっ……ちょっと待って。あんたまさかリヴァイアサンの背中に乗る気!?」
「俺の考えが正しければ……“気をそらす”ことはできるはずだ。奴の注意をほんの少しでも逸らせれば、パーティーに勝機が生まれる」
「はあ!? 冗談でしょ!? も鱗が神域の装甲よ!?」
「……だから、やる価値がある。誰も想定してない動きって、意外と効くんだ」
「……あんた、ほんっと命知らずね」
グレイスは舌打ちしながらも、俺の腰にロープを巻きつけた。
「どうなっても知らないわよ……よし、行くわよ!《アンカーロープ》!!」
碇付きの縄が、音速で唸りながらリヴァイアサンの首元へ飛ぶ!
だがその瞬間、
バチィッ!
リヴァイアサンの“固有スキル《神域の鱗》”が発動!
巻き付けた縄が断ち切られ、グレイスが身体ごと空中へと吹き飛んだ!
「うわあああああ!?!? ちょっ――ぐはッ!!」
まるで、黒ひげ危機一髪だ。
だが、俺はリヴァイアサンの中に“張り付く”ことに成功していた。
まるで虫のように。いや、ただの虫だ。気づかれれば、潰されて終わる。
俺は道具袋から一本の「毒針」を取り出した。
「くそでけぇ鱗だな……でも、これが隙間だ。やるしかない」
チクッ、チクッ……と鱗の隙間に毒針を刺していく。
当然、ダメージは0(ゼロ)。いや、そもそも“効く”とかじゃない。
「効かなくていいんだ……これは“登山道具”だからな」
鱗を“岩肌”のように見立て、毒針で“ピトン”のように固定しながら、俺は一歩ずつ登っていく。
「ははっ……なんだよこれ……」
「俺は今、海の神リヴァイア山を登ってるのか……」
背後ではパーティーの悲鳴が響き、海が裂け、光が砕ける。
でも俺は、ただひたすらに“登って”いた。
狙うは、リヴァイアサンの頭部 その中枢。脳みそだ。
「行こうか……山頂へ」
俺は毒針と縄を手に、さらにリヴァイア山の頂上へと目指す。さならなる高みへと挑み始めた。