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【35万PV突破 ! 全話 完結】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:裸の王様 テレビスター殺人事件』
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第7話 ビジネスホテルへ呼び出しの夜

深夜に届いた短いメッセージ。

「話がある。今夜、ビジネスホテルの307号室で。」

差出人は高橋信二、だと表示されていた。画面が震えるような気配に、二人は互いに目を合わせた。


階下のタクシー乗り場のネオンが流れる中、ビジネスホテルの廊下は人の気配が少なく冷えていた。扉前のランプが淡く揺れている。カードキーを差し込み、静かに入ると、空気が重く、アルコールと薬の匂いが鼻を突いた。


部屋の中は散らかり、テーブルの上には空のワインボトル、薬のシート。そしてベッドの縁に、男の体が半ば崩れるように横たわっていた。顔は青白く、口元には薄く泡。手にはまだスマートフォンが握られている。


ゆっくりと近づき、伸ばした指先で頬を触れる。冷たい。胸に手を当てるが鼓動はない。枕元には、プリントアウトされた用紙が一枚——先刻見たのと同じ文面が、無機質にそこに置かれていた。


〔—全て私の責任です。死んでお詫びします。-〕


床の上に視線を落とすと、一本の長い女性の髪が、不自然に横たわっていた。指で軽くつまむと、その髪はまだ柔らかさを残している。ベッドシーツには薄く唾液の痕、そして枕の下にこすれたような爪の跡。あちこちに残る濡れたリング、ワイングラスの跡だろうか。


廊下を走る足音が遠くで止まり、ドアを激しく叩く音。外からフラッシュの光が部屋の窓に踊り、警察特有の無線の断片が聞こえてきた。ホテルのフロントからの通報だ。駆けつけた管理人の顔が青ざめ、携帯で何かを告げる。


廊下に立ったまま、片手でメッセージの送信履歴を確認する。送信時刻は遅く、送信元の番号は偽装されている可能性が高い。スマートフォンの画面には、消えかけの通話履歴と短いやり取り「会いたい」「今夜だけ」「頼む」などの断片が残るだけだった。


ロビーからサイレンの音が近づく。黒い制服が廊下を埋め、あっという間に部屋は封鎖される。制服警官がテープを張り、刑事たちが名刺を差し出しながら入ってくる。指紋採取、写真撮影、床の採取。現場は即座に「検証の場」へと切り替わった。


警部の到着。書かれた言葉を素っ気なく視線だけで追い、次に床の髪を示す。表情は硬く、声は短い。

「現場保存。外部立入禁止。検視班を呼べ。」


カズヤは腕組みしながら部屋を見渡す。紙の脇に痕跡として残る小さな唾の斑点に目を留め、指先で空気をなぞる。アイゼンは歯を軽く噛み、唇を白くしている。冷たい目がベッド横のゴミ箱を指差した——中には、台所用ビニール手袋の切れ端が詰められている。使い捨ての手袋が、ふいに「計画的な何か」を語る。


ホテル管理者が申し訳なさそうに口を開く。

「監視カメラの映像が、午後九時以降、録画が飛んでいると……。たぶん機器の故障ということで……」


言葉を放った瞬間、アイゼンの頬が僅かに引き締まる。機器の故障が偶然だと誰が信じるか、視線の先には既に、現場に残された矛盾が幾重にも積み重なっていた。


警察が遺体を搬送しようとする喧騒の中、マスコミのヘッドライトがホテルの外を埋める。ロープが張られ、記者たちが群れ、誰かが携帯で叫ぶ。だが廊下の扉は重く閉ざされ、そこで起きたことだけが、静かに、しかし確実に問いを立てていた。


カズヤが紙をもう一度眺め、指の腹で文字をなぞる。タイプされた文字列の配列にわずかなクセが見える。まとまりのない謝罪の一文は、感情の破片ではなく、誰かに書かされた報告書に近い。


アイゼンは低く言った。

「ただの自殺に見せかけるための“仕込み”だ。髪、手袋、カメラの飛び——全部、誰かが用意した。消された現場だ。」


外のサイレンが遠ざかり、現場の喧騒が次第に収束していく。だが部屋の中に残された沈黙は、もっと深い声で続いていた。事件は一つの死で終わらない。消された記録、差し出された遺書、そして床に落ちた一本の髪。


それらが示すのは、「誰かが見せかけを作り、真実を隠そうとしている」という冷たい確信だった。


二人は視線を交わし、互いに頷いた。夜はまだ終わらない。警察の到着で目撃者は増えたが、真相を覆い隠す力もまた動き始めたのだ。



関係人物リスト


高橋 奈央子たかはしなおこ

37歳、パートタイム事務員

羽根田王と不倫関係にあったと噂される。日常に刺激を求める一方で、夫との関係に不満を抱えている。

最近、王と会う際に誰にも知られないよう動いていた記録あり。


高橋 信二たかはししんじ

42歳、会社員

奈央子の夫。妻の不倫を知り、精神的に追い詰められていた。

王に対する復讐心を持っており、動機としては十分に疑われる人物。


小林 真理子こばやしまりこ

34歳、不動産エージェント

羽根田王の豪邸の取引を担当。王の財務状況やプライベートに精通している。

最近の物件売買で王とトラブルになった可能性あり。


小川 美咲おがわみさき

27歳、美容師

王の美容師であり、プライベートな会話から秘密を知っている。

王の死に関する重要な情報を持っている可能性。


安達 梨花あだちりか

24歳、大学生

王の異父妹。表向きは兄を尊敬しているが、過去の女性関係を批判しており、関係に複雑な感情を抱く。


王の生活や行動に関する知識を持つ。


羽根田 王の旧知のビジネスパートナーたち

名前は一部非公開、羽根田王と過去に金銭や契約上のトラブルを抱えていた人物。


王の成功と嫉妬から、事件に関与している可能性あり。

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