第3話 歌姫降臨
俺たちは、ついに海底神殿へとたどり着いた。
羅針盤の針は、トリトンの涙の加護を受け、深き蒼に導かれるまま
勇者アルベルト、シスターマリア、戦士バルドル、海賊戦士グレイスオマリーそして新たな仲間、歌姫ミーナとともに。
巨大な神殿の扉の前には、二体のモンスターが立ちはだかる。
ひとりは、首のない騎士。
鋼鉄の鎧を鳴らし、魂のない剣を構えている。
そしてもうひとりは、水の精霊。
その姿は人間の美女そのものだが、目は蒼く、底なしの湖のように冷たい。
髪は水流のようにたなびき、神秘的で……どこか恐ろしい。
名前 デュラハーン
体力 :1800
攻撃 : 1210
防御 : 800
素早さ:820
固有スキル 死者(状態異常スキル不可)
この世界で首を失った騎士の亡霊。生前は王国最強の聖騎士だったが、ある裏切りによって処刑され、その魂は神殿の門を永遠に守る呪いを受けた。首がないため表情は読み取れないが、その太刀筋には未練と怒りが込められており、今なお「主君への忠誠」の幻影に突き動かされている。
名前 ウィンディーネ
体力 :2400
攻撃 : 450
防御 : 1200
素早さ:780
この世界で古の海に棲まう水の精霊。人間の姿をとって現れるが、その美しさは見る者を惑わせ、やがて深淵へと誘う。
海底神殿を守る側に立ち、訪れる者に容赦のない試練を与える。
「……来るぞ!」
勇者アルベルトが剣を構える。
「この神殿に入るには、彼らを倒さねば、ならないようですね」
シスターマリアが構えを取る。
「わたくしがいきます」
ミーナが一歩前に出た。
「女王として、そして歌姫として……歌で、開かぬ門などありません」
彼女が軽く息を吸い唇が開かれる。
◆《クレイモア・レクイエム》◆
♪ 壊れた世界に 刃を捧ぐ
涙は歌に 怒りは声に
忘れられし者たちよ
いま あなたを貫く歌―― ♪
黒く長い髪が宙に舞い、哀しみと怒りを秘めた歌声が神殿内に響く。
「グオォォォォッ!!」
デュラハーンの胸元に、黒い剣の幻影が突き刺さる。
「防御力が下がった……今だ!」
アルベルトが叫ぶ。
「次、いきますわ!」
◆《ボルト・シャウト》◆
♪ ゴロゴロ、ドーン! テンションぶっ壊せ!
この声 轟け イナヅマより速く!
感じろビート! 魂の一撃!
ボルト・シャウト!! ♪
ミーナが片手を天にかざすと、雷光と共にエレキギターの幻影が出現!
その一撃と同時に稲妻がウネリを上げて落ちる!
(歌詞が変だとリスクは思ったが、余計なことなので口にはしない)
「ビリビリするうぅぅぅっ!!」
ウンディーネの髪が一瞬で焦げる。
「ちょっとォォォ!? なにすんのよ!!!」
彼女の髪は真っ黒になり、両手で顔を覆って泣き叫んだ。
「髪の毛は女の命なのよッ!!」
「ご、ごめんなさい!!!」
ミーナがすぐさま後退する。俺も小さくなりたい。
「おい……怒らせたぞ……あれは本気でヤバいぞ……」
その時
「主の御名において裁きを……」
俺の隣でシスターマリアが、静かに祈り始めた。
掌に宿るのは、まばゆい神の光。
空気が震え、光が闇を裂いていく――!
「神よ、偽りの魂に鉄槌を!」
「《神聖なる審判――セイクリッド・ジャッジメント》!!」
神殿の天井が割れ、聖なる光の十字架が降臨!
デュラハーンの身体が十字架に撃ち抜かれ、上半身が粉砕された!
「おお……女性は、こわいこわい……」
俺はそっと後ろに下がる。
空気のような存在になって、誰にも気づかれず……
そして俺は
イカズチの杖を懐から取り出した。
装備できないからこそ、道具として使うしかないのだ。
「天よ、怒れ! 雷よ、我が剣となりて敵を討て!」
「《サンダーブレイク!!》」
ズガァァァァン!!!
直撃を受けたウンディーネの瞳が見開かれ、バチバチとスパークが走る。
「ひ、ひどい……ひどいわ……!」
髪がチリチリに焦げて、顔面蒼白。
その隙に、俺はそっと近づき
「さようなら、ウェンディーネさん」
俺の手には、小さな毒針。
「……昇天なさい」
スッ。
「ぎゃああああああああ!!!」
ウンディーネは白目をむき、泡を吹いて海に消えた。
パーティー全員のレベルが1上がった。
◆《開門の歌》◆
♪ 水に抱かれし 深きまなび舎
命の記憶 今ぞ目覚める
潮満ち引く この海に
我ら歩まん 古の道
清く 高く 神の御前に
開け、聖なる扉よ――♪
ミーナは厳かに歌い上げる。
その響きはまるで式典。空気が張り詰め、神殿の水門が静かに震える。
ゴオォォン……と鈍い音が鳴り、
海底神殿「アビス・ノクス」の巨大な門が、
まるで校庭に続く扉のように静かに開いていく。
(……なんか、校歌みたいな歌詞だな。)
リスクは小さく呟いた。余計なことは言わない。
ミーナが開門の歌い、神殿の門は開かれた。
歌姫ミーナの歌と共に、俺たちは海底の奥へと進むのだった。