愛10話 欲望の果てに
カズヤとアイゼンハワードは、事件の手掛かりを追い続ける中で、ついに松本三智子の裏アカウントを発見した。
そこには、信じられない内容のメールが残されていた。送り主は小野寺真一。
添付ファイルには、櫛田聖羅が襲われる動画が記録されていたのだ。
動画を再生すると、暗い倉庫の中で、聖羅が必死に抵抗する姿が映し出された。
背後から聞こえる女の笑い声。松本三智子のものだった。
そして周囲には数人の男たちが取り囲み、刃物を振るう姿が記録されていた。
カズヤは顔をしかめ、低くつぶやいた。
「……これは証拠だ。松本三智子、あなたは現場にいた」
アイゼンハワードは冷静に頷き、鋭く言い放つ。
「偶然ではない。計画的な犯行だ。複数の男を動かせるほどの理由が、あんたにはあったはずだ」
松本三智子はしばらく沈黙した後、かすかな笑みを浮かべた。
しかしその笑みは、どこか壊れかけた感情を覆い隠すものだった。
「そうよ……あの子は、みんなの聖羅だった。私の太客まで、平気で奪っていった。高橋さんも、他の人も……全部、聖羅に吸い取られたの」
カズヤが眉を寄せた。
「それで殺したのか? 金と嫉妬……ただそれだけで」
三智子はカズヤを睨み返し、声を荒げた。
「“それだけ”? あなたに何がわかるの!? 私は必死だった! 生きるために借金をした。小野寺から、返せもしない額を背負って……でも、それでも私には支えてくれる人がいた。太客がいた。なのに……聖羅は笑いながら全部を奪ったのよ!」
アイゼンハワードは机に身を乗り出し、低く鋭い声で切り込む。
「つまり、お前は嫉妬に狂って仲間を集め、聖羅を罠にかけた。だが、どうしてあの映像を残した? 証拠を自分の部屋に置いておくなど愚かすぎる」
三智子の表情が一瞬歪み、苦しげに吐き出すように答えた。
「……あの夜の記録は、残したかったのよ。彼女が血まみれになっていく姿を、忘れないために。『やっと奪い返せた』って実感したかったの」
カズヤは息を呑んだ。
その告白には、憎悪と同時に歪んだ愛情すらにじんでいた。
「お前は……彼女を憎んでいたと同時に、認めてもいたんだな」
「そうよ! 私だって聖羅みたいに輝きたかった! でも無理だった……だから壊すしかなかったの!」
叫んだ三智子の目は涙に濡れ、激情と絶望が入り混じっていた。
アイゼンハワードは冷ややかに結論を告げた。
「動機は二つ。借金の圧力と、聖羅への嫉妬。お前はそれを抱えきれず、最悪の選択をした。そして仲間を使い、殺害を実行した……証拠も十分だ」
カズヤがスマートフォンを取り出し、通報のボタンを押した。
「松本三智子さん、言葉も映像も、すべてが証拠だ。もう逃げられない」
三智子は力なく笑い、肩を落とした。
「……いいわ。捕まるのも運命ね。だけど忘れないで……聖羅は、誰にでも恨まれる女だったのよ」
その冷酷な言葉を最後に、松本三智子は逮捕された。
警察が到着するまでの間、カズヤとアイゼンハワードは沈黙を守り続けた。
彼らは、この事件が単なる嫉妬や借金だけでなく、人間の欲望が積み重なった果てに生まれたものだと痛感していた。
世間を震撼させた「ライブ配信者殺害事件」。
その真相は、松本三智子の歪んだ欲望と、金と嫉妬に囚われた人間関係が絡み合った末の悲劇だった。
登場人物
櫛田聖羅
人気ライブ配信者。華やかな笑顔の裏で、投げ銭をしない視聴者への不満を抱く。事件の中心人物。
松本 美智子
ガールズバー「ヴィーナス」の従業員。明るく社交的で聖羅の親友。大学時代からの友人で、聖羅の死に衝撃を受ける。彼女もまた過去に秘密を抱えており、事件の真相を追求するためにカズヤとアイゼンハワードに協力する。
中村 美穂
22歳。ガールズバー「ヴィーナス」の新人ホステス。純粋で明るく、聖羅に強い憧れを抱いていた。聖羅の死にショックを受け、真相を知るためにカズヤとアイゼンハワードに協力する。
投げ銭常連客・配信視聴者たち
田村翔太
普通の会社員。残業帰りに聖羅の配信を見て数千円を投げ銭する。小さな満足を得ている。
佐藤和也
学生。生活費を切り詰めながらも無理をして投げ銭をする。聖羅に認知されることが唯一の喜び。
小林雅人
一見は物静かな常連だが、裏社会との人脈を隠し持つ。金の流れを通じて事件に深く関わる。
伊藤隆太
礼儀正しい青年。聖羅との距離が「友人以上恋人未満」と噂される。だが過去に心の闇を抱えている。
高田純一
聖羅に対して特別な感情を抱いている。彼女の死に衝撃を受け、真相を追求する決意をする。
小野寺真一
元ヤクザで現在は不動産業者。表向きは更生しているが、裏では暴力的な気質を隠せない。
友人・知人たち
森下美咲
聖羅の親友。表では支える存在だが、心の奥では嫉妬と羨望を抱えている。事件の証言者にもなる。
遠藤菜々子
聖羅の学生時代の同級生。配信業界には関わらないが、時折相談相手となる。素朴な目線で事件を語る役割。




