第4話 組織の残響
夜の帳が東京を覆い尽くす頃、カズヤとアイゼンハワードは静かな喫茶店の奥に座っていた。カウンターから漏れる琥珀色の光に照らされながらも、二人の顔には重い影が落ちている。
そのテーブルに、ひとりの女性が姿を現した。記者・佐々木明美。数年前の事件で唯一生き残った証人でもある彼女は、冷たい秋風を背に受けながら、ゆっくりと席に着いた。
「……お二人に、お伝えしなければならないことがあります。」
明美の声は低く、しかし決意を含んでいた。
アイゼンハワードが目を細め、低い声で促す。
「話してみろ。石井が残したものか?」
彼女は小さな封筒を取り出し、テーブルに置いた。その仕草には一瞬の躊躇があり、封筒の重みが空気に緊張を走らせる。
「石井さんから託されたんです。……公表するべきか、ずっと迷っていました。」
カズヤが手を伸ばし、慎重に封を切る。中から現れたのは、一枚の古びた紙片だった。そこには、いくつもの名前が記されている。
「これは……」
カズヤは息を呑んだ。
明美は静かに頷いた。
「“幻影会”に繋がる人物のリストです。石井さんは最後まで、この組織が完全には潰えていないと疑っていました。」
【幻影会】
かつて石井が追い詰め、壊滅させたはずの犯罪組織。その名は、闇の世界に囁かれるだけで人々の心を凍らせるものだった。だが、そこに記された名前の数々は、その残響がまだ現実に息づいていることを告げていた。
アイゼンハワードがリストを凝視し、低く唸る。
「……見覚えのある名があるな。数年前、確かに消えたはずの男だ。」
カズヤは背筋に冷たいものを感じながら、問いを投げる。
「明美さん、どうして今まで黙っていたんです?」
彼女は震える指先を組み合わせ、しばらく口を閉ざした後に答えた。
「恐かったんです。このリストを持っていることが知られたら、私も……石井さんのように。」
喫茶店の窓越しに、冷たい風がカーテンを揺らす。
その一瞬、外の暗がりに人影がよぎった。
アイゼンハワードの鋭い視線が外へ向けられる。
……カズヤ、尾けられている。リストの存在を、すでに知られたかもしれん。」
明美の瞳が怯えに揺れる。
カズヤは彼女を守るように身を乗り出し、低く呟いた。
「幻影会の亡霊……やはりまだ生きている。」
リストに記された名は、ただの文字列ではなかった。
それは、再び蠢き始めた闇の輪郭を示す地図に他ならない。




