第二話 崩れた祝宴
セレモニーが華やかに終わり、招待客たちは次々と新しいリニア新幹線へと乗り込んでいった。最先端の内装と静音設計が施された車内は、祝福の声と笑顔で満ちていた。グラスが鳴り、未来を讃える乾杯が重なり合う。
福田恒夫は、最前列の特別席に座り、誇らしげに窓外を眺めていた。彼の胸には「自らの遺産」と呼ぶほどの夢が形になったという充実感が広がっていた。
しかし、その笑みは長くは続かなかった。
発車から数分後、恒夫の顔色がみるみる蒼白になり、額から大粒の汗が噴き出した。
「うっ……! ぐっ……!」
胸を押さえ、息を荒げる福田。突然の苦悶に、隣に座っていた妻・優子が驚愕の声を上げる。
「あなた!? どうしたの!?」
車内は一瞬で騒然となった。秘書の織田哲夫が慌てて福田の体を支えるが、彼自身も冷や汗をかき、何もできない。
秘書の織田哲夫は慌てて恒夫の体を支えたが、その顔は蒼白に染まり、額から汗が滴っていた。
「社長、しっかりしてください! 誰か医者を!」
ざわめきは次第に混乱へと変わる。
近くの乗客が立ち上がり、口々に叫んだ。
「誰か救急車を!」
「止めろ! 列車を止めろ!」
「ペースメーカーが……!」
車内の通路は押し寄せる人々で騒然となり、祝杯のグラスが床に落ちて砕け散った。
運転室への連絡が入り、リニア新幹線は非常ブレーキを作動させて緊急停止した。
騒然とする乗客たち。その中で、カズヤとアイゼンハワードの目はただ一人、倒れた福田ではなく、その状況を冷ややかに見つめている者たちへと向けられていた。
その喧騒の中で
三神浩太郎社長と専務の鈴木一郎である。
二人はざわめきの中でも動揺を見せず、むしろ冷静に成り行きを観察していた。まるでこの事態を予期していたかのように。
その近くで、福田家の家政顧問・小野寺理沙は、両手を口に当てて動揺を装いながらも、どこか観察するような瞳をしていた。優子に駆け寄り、肩を抱きながら囁く。
「奥様、落ち着いて……落ち着いてください」
だがその声には、どこか他人事の響きがあった。
カズヤは小声で呟いた。
「アルおじ……これは、ただの発作じゃない……」
アイゼンハワードの鋭い視線が福田の胸元をかすめる。
「そうだな。ペースメーカーに細工がされている可能性が高い。これは計画的な暗殺だ。」
車内に響くざわめき。優子の泣き叫ぶ声。織田の狼狽。
だが、その裏で冷酷に笑みを浮かべる者たちの存在が、この事件の深い闇を物語っていた。
開通セレモニーの祝宴は、一瞬にして悪夢へと転じた。
これは磁力の結界事件の序章に過ぎなかった。
福田 恒夫(死亡)
年齢: 67歳/大富豪、HR東日本の重役。心臓病を患いペースメーカー装着。リニア新幹線成功を遺産とする理想主義者。
福田 優子
年齢: 29歳/恒夫の若妻。社交的だが内面に不満を抱える。
織田 哲夫
年齢: 35歳/恒夫の秘書。忠実だが野心的。優子との関係に葛藤を抱える。
三神 浩太郎
年齢: 56歳/三神建設社長。権力志向が強く冷酷。政財界に太いパイプを持つ。
鈴木 一郎
年齢: 48歳/三神建設専務。冷静沈着。組織維持のためには法を曲げることも辞さない。
伊藤 ハルカ(いとう はるか)
年齢: 27歳/セキュリティシステムエンジニア。リニアのセキュリティを設計。事件の技術的鍵を握る。
高橋 遥人
年齢: 34歳/三神建設顧問エンジニア。冷徹で計算高い。利益独占を企む黒幕の可能性あり。
小野寺 理沙
年齢: 31歳/福田家の家政顧問。知的で社交的だが秘密主義。夫婦の秘密や金銭問題を握る。




