エピローグ 白猫の声
沖の原島に朝日が昇った。
警察が到着し、藤原健太の死と事件の真相が明らかになると、島民たちは胸をなで下ろし、互いに言葉を交わし合った。
「黒猫のたたりじゃなかった……だが、やはり猫は何かを知っていたんだ」
漁師・我聞龍二が低くつぶやいた。その瞳は朝日に照らされながらも、どこか神秘を帯びていた。
「伝説はただの迷信じゃなく、人を導く力になるのね」
医師の井上真理子は白猫を抱き上げ、やさしく頬を寄せた。彼女の手の中で、白猫は静かに瞬きをした。
「これで、うちの民宿にも安心してお客さんを迎えられるわ」
民宿経営者の木村梓は涙ぐみながら笑い、他の島民と肩を抱き合った。
「トシエさんも……きっと空の上で、この結末を見ているはずです」
神主の神林一郎は祈るように手を合わせた。その声には、伝統と文化を守る者としての深い響きがあった。
新聞記者の安藤春は、ノートにペンを走らせながら呟いた。
「伝承と現実が交錯した事件……記事にするには難しい。でも、この島の真実を伝えたい」
教師の佐々木大輝は、生徒たちに語りかけるように言った。
「恐怖に惑わされず、真実を見極める大切さを忘れるな。きっとこれが、この島の教訓だ」
「でも、猫たちはやっぱりただの猫じゃないな」
冒険好きの森田健一は笑いながらも、目の奥には畏怖が宿っていた。
警備員の沢田淳は、警察と共に最後の確認を終えると、真剣な表情で島民たちに告げた。
「皆さんの協力があったから、この事件は解決できたんです。どうか、今日からは平和を大切にしてください」
静けさが戻り始めたそのときだった。
白猫が、カズヤとアイゼンハワードの足元に歩み寄った。
その瞳は、まるで人間のように澄みきっており、朝日の中で小さな声が響いた。
――ありがとう――
確かに聞こえたはずなのに、次の瞬間、白猫は何事もなかったかのように鳴き、島の小道を駆け抜けていった。
「今の……聞こえたか?」
カズヤが息を呑むと、アイゼンは微笑を浮かべて肩をすくめた。
「猫は言葉を話さないさ。だが……心は伝わるものだ」
島の人々もまた、不思議そうに白猫を見送りながら、それぞれの胸に温かなものを感じていた。
こうして沖の原島は、新たな朝を迎えた。
事件の記憶は消えないが、それを超えて生きる力を、人々と猫が共に得たのだった。
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:なき猫』
ー完ー




