表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
701/1114

第10話 猫のたたりと最期

夜の森は、不気味な静けさに包まれていた。

藤原健太は懐中電灯を握りしめ、荒々しい息をつきながら山道を進む。背後からは、無数の瞳が彼を追い詰めるように光っていた。


黒猫、白猫、斑猫。島中の猫たちが、異様な統率を見せて藤原の周囲を取り囲む。低い唸り声が響き、足音が森に反響した。


そのとき、木陰からカズヤとアイゼンハワードが姿を現した。


「藤原さん……もう逃げられません」

カズヤの声は落ち着いていた。


「お前たち……!俺を捕まえに来たのか!」

藤原は懐中電灯を振り回し、怯えたように後ずさる。


アイゼンが静かに口を開く。

「三神雄二を殺したのはあなただ。理由は一つ土地に眠るレアメタルだ」


「……!」


「あなたは土地を売った。しかし埋蔵が判明してから買い戻そうとしたが断られた。利権を独占するため、三神を排除した。それが動機だろう?」


藤原の顔が歪む。

「違う!俺の土地だ!俺の富だ!全部……俺のものなんだ!」


「さらに、黒猫の伝承を利用し、住民の恐怖を煽った。そして、占い師の勝トシエを買収し、口封じのために殺した」

カズヤが低く告げる。


藤原は顔を覆い、大声で泣き叫んだ。

「あのババアが……!勝手に俺を脅してきたんだ!だから殺した!全部……俺のせいじゃない!」


アイゼンは一歩踏み出し、鋭い目を藤原に向ける。

「藤原さん、まだ間に合う。自首しろ。正直に罪を認めれば、せめて人間らしい最期を迎えられる」


しかし藤原は首を横に振った。

「嫌だ……俺は捕まらない!富も自由も奪われてたまるか!」


その瞬間、周囲の猫たちが一斉に鳴き声を上げた。

闇に響くその声は、呪詛のようでもあり、裁きの声のようでもあった。


藤原の背後に広がるのは、月光に照らされた断崖絶壁だった。荒れ狂う波が黒い岩肌に砕け散り、轟音が大地を震わせている。


その瞬間、あたり一帯に異様な気配が走った。

森の暗がりから、岩陰から、数え切れないほどの猫たちが現れ、藤原を取り囲む。


「ミャアアアアッ!」「ギャオオオッ!」


怒りと憎悪が混じったような鳴き声が、島中を揺るがすほどの大合唱となって響き渡った。毛を逆立て、目をぎらつかせ、まるで一斉に藤原の罪を断罪しているかのようだった。


「ぎゃあああっ!やめろ!来るな!俺は悪くない!俺は――!」


藤原は最後の力を振り絞って走り出した。暗闇の中、猫たちの鳴き声が尾を引くように追いすがる。カズヤとアイゼンハワードは息を切らしながらもその背を追い、ついに島の端の切り立った崖へと辿り着いた。


眼下には荒れ狂う波が白く砕け、轟音を立てて打ち寄せている。藤原の背中が月明かりに浮かび上がり、その影は不気味に揺れていた。


「もう逃げ場はない」

アイゼンハワードの声が低く響く。

カズヤも一歩前に進み出て言った。

「自首してください、藤原さん。これ以上、罪を重ねる必要はない」


しかし藤原の瞳には狂気の光が宿っていた。

「黙れ! 俺は負けない……誰にも、俺の人生を奪わせはしない!」


叫ぶや否や、藤原は刃物を振りかざし、二人に飛びかかった。


だが藤原は狂気の叫びとともに二人に襲いかかる。その足元で、無数の猫たちが一斉に飛び退いた瞬間、崖際の土が崩れ、藤原の身体は支えを失った。


「うわあああっ!」


月光を反射する刃が宙を舞い、藤原の身体はバランスを失い、そのまま崖下へと転げ落ちていった。暗い波間に飲み込まれる直前、彼の絶叫が夜空に響き渡った。


残されたのは、荒れ狂う海と、崖の上で静かに鳴き止んだ猫たちの姿だけだった。猫たちの鳴き声は、まるで勝利の咆哮のようにいつまでも夜に響き渡っていた。


アイゼンは目を閉じ、低く呟いた。

「伝承はただの迷信じゃなかった。人々の恐怖が、現実を動かしたのだ」


猫たちの群れに押し潰され、藤原の叫びは次第に途絶えていった。


やがて夜明け。

森には静寂が戻り、藤原の姿は力尽きた骸となって残されていた。周囲には数十匹の猫が静かに座り込み、じっと島を見守っていた。


カズヤがぽつりと漏らす。

「結局、黒猫の伝承は人を呪ったんじゃない。藤原自身の欲望が彼を滅ぼした」


アイゼンは頷き、猫たちの群れを見やった。

「だが、その欲望を暴き出したのは、確かに伝承と恐怖の力だった」


島には再び、夜明けの光が差し込む。

猫たちは静かに森へと消えていき、まるで何事もなかったかのように、沖の原島を見守り続けるのだった。



三神建設関係者


三神雄二:45歳、部長、自己中心的で野心的(死亡)

橋本史郎:40歳、プロジェクトマネージャー、効率重視、(死亡)

加賀美良子:30歳、広報担当、社交的で説得力あり



島の住民


我聞龍二:50歳、漁師、神秘的、黒猫伝説を信じる

井上真理子:28歳、医者、白猫と黒猫伝説を研究

木村梓:32歳、民宿経営者、温かい性格

勝トシエ:63歳、占い師、黒猫伝説に詳しい(死亡)

神林一郎:55歳、神主、伝統と文化を重んじる

安藤春:31歳、新聞記者、好奇心旺盛

佐々木大輝:36歳、教師、温厚だが時に厳しい

森田健一:29歳、ダイビングショップ経営者、冒険好き

沢田淳:46歳、警備員、真面目で責任感強い

藤原健太:37歳、不動産投資家、開発の利権狙い(死亡)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ