第7話 ネゴシエーター
洞窟の奥深くに進むと、ネズミ盗賊団のボス、大ネズミの頭領グリードが待ち構えていた。彼は右目に眼帯をして毛もくじゃらのケモナーの大ネズミの男だ。
名前 : グリード(大ネズミ男)
体力 : 55
攻撃 : 30
防御 : 11
素早さ: 9
この世界で大ネズミと人間が合わさったモンスター、大きな手の爪とキバで冒険者を襲う。
勇者アルベルトは剣を構え、大きな体格のグーリドを目の前にしても余裕の表情を浮かべる。
レベルが5になった勇者と グリードの実力の差はあまりにあり勇者アルベルトが勝つことは鮮明だった。
「お前が盗賊団のボスか。覚悟しろ!」
俺とシスターマリアは少し離れた場所で戦いの様子を見守っていた。
だが、グリードの口から驚くべき言葉が飛び出した。
「おい、勇者。こいつを見ろ!」
グリードが鋭い爪を人間の少女の喉元に押し当てる。
「この人質がどうなってもいいのか?お前たち勇者が、人質を見殺しにしてもいいのか?」
「卑怯だぞ!」
アルベルトが怒りの声を上げる。
「正々堂々と戦え!」
グリードは鼻で笑った。
「バカかお前は。なんで魔物の俺たちが正々堂々戦わなきゃならんのだ?」
(……おっしゃる通りでございます)
俺は思わず納得してしまった。
「くそ……ここは引き返すぞ」
アルベルトは苦渋の決断を下そうとした。
だが、グリードがケタケタと笑う。
「帰る?バカかお前は。ここまで来て逃げられると思ってるのか?」
(……おっしゃる通りでございます)
俺はまたもや納得してしまった。
勇者アルベルトは歯を食いしばる。
「くそっ、どうすればいいんだ……!」
俺はため息をつきながら、一歩前へ出た。
「えーと……とりあえず、ご要望を聞きましょうかね?」
グリードは興味深げに目を細めた。
「ほう? 交渉するつもりか?」
「まぁ、俺には交渉術という商人のスキルがありますんで」
「なんだそれは?」
「ええっと……とりあえず、あなたはすごいですね。人質を取るなんて、悪役の鑑ですよ!」
「フフン、それほどでもない」
「冷静な判断力、確実に勝てる状況を作り出す戦術眼。いやあ、頭領の器ですね!」
「そうだろう、そうだろう!」
「……」
アルベルトが呆れたような目で俺を見ている。
「で、何が望みです?」
グリードはしばし沈黙し、そして静かに語った。
「俺はな、勇者と戦っても勝てないのはわかってる。そもそも、盗賊なんてもうやめたいんだよ」
「え?」
俺もアルベルトも耳を疑った。
「だがな、この片目をつぶされた恨みがあるんだよ……」
グリードは目の傷跡をなぞる。
「毒牙の美魔女セリーネ……あの女への復讐のために、俺は生きてる」
アルベルトは剣を下ろし、険しい表情で睨みつける。
「だからって人質を取るなんて最低だ。そんな卑怯な奴と手を組むつもりはない」
「まあまあ、待ってくださいよ、勇者さま」
俺は慌てて止めた。
「じゃあ、こういうのはどうでしょう? 俺たちと雇用契約を結ぶんです」
「契約?」
グリードが眉をひそめる。
「そうです。正式にパーティーの一員として雇用する。ただし、もし裏切ったら契約違反で即刻パーティーを解散。どうです?」
「ふむ……」
アルベルトは腕を組み、しばし考える。
「確かに、その条件なら裏切られたとしても最小限の被害で済むか……」
グリードはニヤリと笑った。
「面白い。俺を仲間にするなんて、なかなかの度胸だな。いいだろう、その契約、結んでやる!」
俺たちは洞窟を出るとグリードと共に人質の少女を無事に最初の町まで送り届けた。こうして、ネズミ盗賊団のボス、大ネズミの頭領グリードが勇者の最初の仲間になったのだった。