第8話 白猫を探せ
その夜、沖の原島は嵐の前触れのように風が強まり、木々のざわめきが不気味に響いていた。
勝トシエの家は、相変わらず猫たちに囲まれていた。灯りの漏れる窓辺で、彼女は古びた占い道具を前に、ひとり低く呟いていた。
「黒猫が三度鳴いた…次に狙われるのは、このわしじゃろうな…」
カズヤとアイゼンハワードは、その言葉を思い出しながら民宿で事件資料を整理していた。すると突然、外から鋭い猫の鳴き声が三度、夜を切り裂いた。
「まただ…!」
カズヤは椅子を蹴るように立ち上がり、アイゼンハワードと共に勝トシエの家へと駆け出した。
しかし間に合わなかった。
古びた戸を押し開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
勝トシエは床に倒れ、すでに息絶えていた。彼女の首元には赤い線が走り、まるで何者かに絞められたかのようだった。その周囲を数匹の猫が取り囲み、静かに彼女の顔を覗き込んでいた。
「……黒猫の呪いだ」
我聞龍二が駆けつけ、震える声で呟いた。
「いや、これは人の手によるものだ」
アイゼンハワードは鋭い視線を走らせた。
「呪いを偽装した殺人……犯人は伝説を利用している」
カズヤは勝トシエの部屋を見回した。机の上には、血に染まった紙切れが落ちていた。
そこには震える字でこう書かれていた。
「白猫を探せ」
「白猫……?」
カズヤの胸に寒気が走る。
その夜、島の住民たちは再び恐怖に包まれた。黒猫の鳴き声とともに、また人の命が奪われたのだ。
そして、「次に死ぬのは誰か」という不安が、村中を覆っていった。
勝トシエの死は、島全体に不安と恐怖を広げた。
カズヤとアイゼンハワードは、現場に残された血の文字
――「白猫を探せ」――に注目した。
これは単なる恐怖演出ではなく、犯人からの導きのようにも思えた。
「白猫…つまり、伝説にあるあの猫か?」
アイゼンハワードは低く呟き、窓の外で揺れる黒い影を目で追った。
カズヤは民宿の庭に目を向ける。昨夜、勝トシエの家の周囲で何度も黒猫が鳴いていたことを思い出した。黒猫の行動と白猫の存在――二つの伝説は、この島の事件と密接に絡んでいるに違いない。
「まずは、勝トシエさんが何を調べていたかを洗い出そう。」
カズヤは彼女の机の引き出しを調べ始めた。そこには、古い地図やメモ帳、そして小さな写真があった。写真には、白い猫と黒い猫が同じ場所にいる場面が写されている。
「これは…何かの場所を示しているのかもしれません。」
アイゼンハワードは写真に書かれた小さな記号を指さした。どうやら、島の北側にある岩場の一角を示しているようだった。
「なるほど、次の手がかりは北の岩場か。」
カズヤは決意を固め、アイゼンハワードと共に出発した。
外はまだ嵐の名残で風が強く、夜明け前の薄暗い道を二人は慎重に進む。足元には濡れた落ち葉と、黒猫の小さな足跡が点々と残っていた。
「この足跡…黒猫のものか?」
カズヤが指を差すと、アイゼンハワードは頷いた。
岩場に着くと、二人の目の前に小さな白猫が現れた。夜の闇に映える純白の毛並み。その目はまるで二人を試すかのように光っていた。
「やっと…見つけたか。」
カズヤは息を殺して猫に近づく。だが、白猫はすぐに岩陰へと身を隠した。
まるで「ついて来い」とでも言うかのように、岩場を巧みに移動する。
二人は白猫の後を追いながら、次第に事件の核心に近づいていることを感じた。黒猫の呪い、白猫の手がかり、そして島に潜む人間の利害、すべてが交錯し、緊迫した静寂の中で次の瞬間、二人の前に驚くべき光景が現れようとしていた。
三神建設関係者
三神雄二:45歳、部長、自己中心的で野心的(死亡)
橋本史郎:40歳、プロジェクトマネージャー、効率重視、(死亡)
加賀美良子:30歳、広報担当、社交的で説得力あり
島の住民
我聞龍二:50歳、漁師、神秘的、黒猫伝説を信じる
井上真理子:28歳、医者、白猫と黒猫伝説を研究
木村梓:32歳、民宿経営者、温かい性格
勝トシエ:63歳、占い師、黒猫伝説に詳しい(死亡)
神林一郎:55歳、神主、伝統と文化を重んじる
安藤春:31歳、新聞記者、好奇心旺盛
佐々木大輝:36歳、教師、温厚だが時に厳しい
森田健一:29歳、ダイビングショップ経営者、冒険好き
沢田淳:46歳、警備員、真面目で責任感強い
藤原健太:37歳、不動産投資家、開発の利権狙い




