第3話 白猫の手掛かり
朝霧に包まれた沖の原島。島の路地や崖の間からは、黒猫の鳴き声が断続的に響いていた。
カズヤとアイゼンハワードは、橋本史郎の死に関する手がかりを求め、医者・井上真理子の元を訪れていた。井上は、島の生態系に詳しいだけでなく、伝承や風習にも造詣が深い人物である。
「井上先生、黒猫伝承のことですが…白猫が現れれば死を免れるという話は本当でしょうか?」
カズヤは眉をひそめて尋ねる。
井上は机に肘をつき、遠くを見つめるように言った。
「島の伝承には、科学的な根拠はありません。でも…この島では、白猫の存在が不思議と人々の安心感に結びついているのは事実です」
アイゼンは赤い瞳でじっと井上を見つめる。
「象徴的な“安全装置”ということか。死の予兆を人々が視覚的に抑え込む手段…心理学的には納得できる」
井上は小さくうなずく。
「ええ。ただ、最近白猫の目撃情報は少なくなっているんです。黒猫は増え、島の雰囲気は不穏になっています」
カズヤは手帳を取り出し、メモを走らせる。
「それでは、白猫の行方を探すことが、橋本氏の死の真相にもつながる可能性があるわけですね」
「その通り」と井上。微かな不安が瞳に浮かぶ。
「ただし、この島の猫たちは警戒心が強く、人間を避けます。白猫を見つけるのは簡単ではありません」
カズヤとアイゼンは島中を歩き回った。港、路地、崖道、民宿の庭。どこもかしこも黒猫が目を光らせ、白い影を見つける前に邪魔をする。
「こいつら…まるで俺たちの行動を監視しているみたいだ」
カズヤは黒猫をかわしながらつぶやく。
アイゼンは赤いマントを翻し、鋭い目で猫たちを観察する。
「ここで注意深く痕跡を探す。白猫が現れた時、すぐに識別できるようにする」
一方、島民たちの間で不穏な噂が流れていた。勝トシエ――占い師として島の人々から信頼される存在だが、最近の行動には不可解な点が目立っていた。
「勝さん、昨日どこにいらっしゃったのですか?」
カズヤが問いかけると、勝はにこやかに笑いながら答える。
「まあ、島の神々と猫たちの声を聞きに行っていただけよ。あなたたちには関係ない話さ」
しかし、カズヤはその目の奥に、何かを隠している影を感じ取った。
「声を聞く…?もしかして、黒猫の行動を操作しているのか?」
アイゼンは低くつぶやく。
「島の伝承は誰にでも利用可能だ。勝トシエが黒猫の象徴性を使って何かを企んでいる可能性は十分にある」
午後の光が路地に差し込む頃、カズヤはついに白猫の痕跡を見つけた。小さな足跡が砂の上に続き、路地の奥へと消えている。
「来た…白猫が確かにいる」
カズヤは息をひそめ、アイゼンに合図を送った。
アイゼンは瞳を細め、赤いマントを翻す。
「追うのは慎重に…島では偶然も計算のうちだ。特に、勝トシエの動きには注意する」
白猫の存在は、伝承の真実と島の不吉な事件を結ぶ鍵となる。しかし、背後には島民に信頼される占い師――勝トシエの怪しい影がちらつく。
黒猫の影、白猫の希望、そして人間の欲望と隠された意図――沖の原島に張り巡らされた罠は、次第にカズヤとアイゼンを追い詰めていく。
果たして、白猫は現れるのか。そして、橋本史郎の死の真相は、島の伝承と占い師の策略の中で解き明かされるのか――。
三神建設関係者
三神雄二:45歳、部長、自己中心的で野心的
橋本史郎:40歳、プロジェクトマネージャー、効率重視、(死亡)
加賀美良子:30歳、広報担当、社交的で説得力あり
島の住民
我聞龍二:50歳、漁師、神秘的、黒猫伝説を信じる
井上真理子:28歳、医者、白猫と黒猫伝説を研究
木村梓:32歳、民宿経営者、温かい性格
勝トシエ:63歳、占い師、黒猫伝説に詳しい
神林一郎:55歳、神主、伝統と文化を重んじる
安藤春:31歳、新聞記者、好奇心旺盛
佐々木大輝:36歳、教師、温厚だが時に厳しい
森田健一:29歳、ダイビングショップ経営者、冒険好き
沢田淳:46歳、警備員、真面目で責任感強い
藤原健太:37歳、不動産投資家、開発の利権狙い




