第2話 島に潜む影
沖の原島。通称「ネコノ島、にゃんにゃん島」と呼ばれるこの島に、三神建設の部長・三神雄二と私立探偵のカズヤ、そして魔族のアイゼンハワードが到着した。目的は、リゾートホテル建設に関する住民の反対運動と、そこにまつわる不穏な噂の調査である。
島は静寂に包まれていた。しかし、その静けさは、緊張に満ちていた。三神建設の野心的な計画と、それに抗う島民たちの間で、張り詰めた空気が波間の風に混ざって揺れている。
カズヤは港で最初の聞き込みを始めた。漁師の我聞龍二は、手にしぶきをつけながら話す。
「我聞さん、この開発計画についてどう思われますか?」
我聞はゆっくりと岸壁を見つめ、険しい表情で答える。
「この島は俺たちの家だ。三神建設が来てから、海の匂いも変わった。魚の動きも違う。黒猫の伝説を信じるかどうかは別として、自然を壊すのは許せん」
カズヤはメモを取りながら、さらに問いかける。
「その黒猫の伝説、具体的にはどのようなものですか?」
我聞は声を低くし、周囲を見渡した。
「島で黒猫が同じ場所で三度鳴くと、人に死が訪れる。防ぐには白猫を抱かねばならん…」
アイゼンは赤い瞳を細め、静かに言った。
「伝承が恐怖を植え付けている…しかし、偶然を装った殺意の可能性もあるな」
我聞は眉をひそめ、アイゼンを見返した。
「お前さん、東京から来た人間だろう。伝承を信じぬ者には何も見えんだろうな」
次に、民宿経営者・木村梓の元へ向かう。梓は宿の庭で猫に餌をやりながら語る。
「木村さん、開発についてどうお考えですか?」
梓は顔をしかめる。
「うちに来るお客さんは、島の静けさと自然を楽しみに来るんです。開発が進めば、猫も人も住みにくくなる…伝説はともかく、島の空気そのものが変わってしまう」
カズヤが続ける。
「黒猫の伝承について、島民は今でも信じているのでしょうか?」
梓は小さくうなずく。
「信じる信じないじゃないの。島では黒猫が鳴けば、みんなぞっとするのよ。昨日も港で…三度鳴いたらどうしようって話になったばかり」
アイゼンは軽く口角を上げる。
「恐怖心は行動を縛る。開発に抵抗する島民の心理も、この恐怖心と無関係ではないだろう」
神社で神主の神林一郎に会う。古い木造の社殿には、黒猫がひとしきり鳴きながら足元を横切る。
「神林さん、この島の伝説についてもっと詳しくお聞かせください」
神林は深く息をつき、ゆっくりと語り始める。
「この島には、古くから神々の調和を保つという信仰があります。開発のような人間の都合が、自然とのバランスを崩すとき、神々は警告のサインを送ります。それが黒猫の伝承に結びついたのでしょう」
カズヤは眉をひそめる。
「つまり、橋本史郎の死も、伝承の象徴として解釈されているわけですね」
神林は頷きながらも目を伏せる。
「私には断言はできません。しかし、伝承は島民の心に根ざしています。不調和が生じれば、人は恐怖に支配されるのです」
夜が更け、占い師の勝トシエが島の路地を駆け回り、住民に告げる。
「黒猫の呪いじゃ! 三神建設の関係者は黒猫に呪われている! 島を去るのじゃ!」
カズヤは静かにアイゼンの横でつぶやいた。
「偶然か、人為か…。この島では両者が交錯している」
アイゼンは赤い瞳を光らせ、猫たちの姿を見つめる。
「まずは、人間の計画と恐怖心の両方を解明することだ。猫は象徴だが、真実を映す鏡でもある」
黒猫は島中に鳴き渡り、夜の闇は不穏に包まれる。
カズヤとアイゼンハワードは、猫の影に潜む人間の欲望と殺意を暴く決意を固めた。
果たして二人は、黒猫の伝承の奥に隠された犯人の正体を突き止めることができるのか。
三神建設関係者
三神雄二:45歳、部長、自己中心的で野心的
橋本史郎:40歳、プロジェクトマネージャー、効率重視、(死亡)
加賀美良子:30歳、広報担当、社交的で説得力あり
島の住民
我聞龍二:50歳、漁師、神秘的、黒猫伝説を信じる
井上真理子:28歳、医者、白猫と黒猫伝説を研究
木村梓:32歳、民宿経営者、温かい性格
勝トシエ:63歳、占い師、黒猫伝説に詳しい
神林一郎:55歳、神主、伝統と文化を重んじる
安藤春:31歳、新聞記者、好奇心旺盛
佐々木大輝:36歳、教師、温厚だが時に厳しい
森田健一:29歳、ダイビングショップ経営者、冒険好き
沢田淳:46歳、警備員、真面目で責任感強い
藤原健太:37歳、不動産投資家、開発の利権狙い




