第1話 沖の原島に到着、調査開始
沖の原島の港に到着したとき、空は曇りがちで、風が磯の香りを運んでいた。港には港町の人々と、あちこちに座った猫たちがちらほら見える。黒、白、斑、灰色……猫たちはまるで島の住人を見守るかのように、静かに港を歩き回っていた。
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三神建設関係者
三神雄二:45歳、部長、自己中心的で野心的
橋本史郎:40歳、プロジェクトマネージャー、効率重視、(死亡)
加賀美良子:30歳、広報担当、社交的で説得力あり
島の住民
我聞龍二:50歳、漁師、神秘的、黒猫伝説を信じる
井上真理子:28歳、医者、白猫と黒猫伝説を研究
木村梓:32歳、民宿経営者、温かい性格
勝トシエ:63歳、占い師、黒猫伝説に詳しい
神林一郎:55歳、神主、伝統と文化を重んじる
安藤春:31歳、新聞記者、好奇心旺盛
佐々木大輝:36歳、教師、温厚だが時に厳しい
森田健一:29歳、ダイビングショップ経営者、冒険好き
沢田淳:46歳、警備員、真面目で責任感強い
藤原健太:37歳、不動産投資家、開発の利権狙い
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「ネコノ島……にゃんにゃん島、か。文字通りだな」
アイゼンハワードは赤い瞳を細め、ワインレッドのマントを翻しながらつぶやいた。
孫のカズヤは船の揺れに少しふらつきながら、目をこすった。
「猫、多すぎませんか……普通に歩いてても踏みそうです」
港の桟橋には、三神建設の広報担当・加賀美良子からの連絡を受けた島民たちが集まっていた。だが、彼らの視線は冷たく、警戒心に満ちている。開発への反発と恐怖が混ざった空気が、港全体を覆っていた。
「……見ろ、カズヤ。猫だらけの島だ。しかも、人間よりも数が多い」
アイゼンハワードは歩きながら、通りをうろつく猫たちを指で追った。
猫たちは彼に興味を示すかのように、低く唸ったり、ゆっくり目を細めたりしている。中には、毛並みが漆黒の猫がじっとアイゼンを見つめる。
「……あの黒猫、ちょっと怖いです」
カズヤが息をひそめる。
「怖がることはない。だが気をつけろ。この島には古い言い伝えがある」
アイゼンは低くつぶやいた。
「黒猫が三度同じ場所で鳴くと、人に死が訪れる。白猫を抱けば死を免れる……」
カズヤは背筋がぞくっとするのを感じた。前日、ニュースで聞いたばかりの橋本史郎の死が脳裏をよぎる。
「……魔族の目で見ても、あの死は……偶然じゃないんでしょうか」
アイゼンは肩をすくめる。
「偶然……いや、人為的な何かの可能性が高い。黒猫は、事件の象徴に過ぎない」
二人は港を抜け、島の中心部に向かう。路地にも猫はあふれ、木の枝や屋根の上からじっと二人を見つめている。カズヤは猫たちに道を遮られながらも、アイゼンハワードの背後にぴったりとついて歩いた。
民宿の経営者木村梓は二人を出迎え、島の状況を簡潔に説明した。
「黒猫の目撃情報は増えていて、橋本さんの死で島はパニック状態です。住民の間でも、伝承が現実になったと……皆、恐れています」
「なるほど……」
アイゼンは梓の言葉を聞きながら、細かく観察した。
猫の視線、住民の視線、海風の匂い、岩場の湿り具合。全てが事件の手掛かりになる。
「まずは現場の岩場を見に行こう」
アイゼンの一声で、二人は港を出て橋本の死亡現場へ向かった。道すがらも、猫たちはあちこちに現れ、二人をつぶやくように見守る。黒猫が何匹も交差し、白猫は一匹も見当たらなかった。
岩場に到着すると、血の跡は既に乾きかけていたが、事件の凄惨さは残っていた。アイゼンは冷静に地面を調べ、岩や砂に残る痕跡を指先で確かめる。
「誰かが背後から鈍器で殴った……しかも、岩場で倒れている。黒猫はいたとのことだ……」
カズヤは少し震えながらも、アイゼンの言葉に耳を傾ける。
「……じゃあ、伝承通りのことが」
「……物理的証拠を無視して、伝承に結びつける者がいる。それが、この島では恐怖を増幅させているだけだ」
アイゼンの赤い瞳が、夕暮れに光った。
そのとき、遠くで黒猫が「ニャアアア」と鳴いた。
カズヤが振り返ると、黒猫は砂浜に座り、二人をじっと見つめる。
「……いや、気にするな」
アイゼンはつぶやく。だがカズヤはわずかに背筋を伸ばした。
こうして、魔族のアイゼンハワードと少年カズヤは、猫だらけの島で、黒猫にまつわる伝承と現実の殺人事件の狭間で調査を始める。
次々と見えてくる住民たちの思惑、島の伝承の謎、そして三神建設の利権争い。真実は、猫の影に隠れていた。




