第2話 お笑い芸人
俺の名前はリスク。今までは、ただの村人……だったはずだが、今はちょっと違う。血の神殿でのあの激戦のあと、新しい特技をみにつけた。「大声を出す」デカイ声を出す、それだけだが、空気のような存在と相性が良いらしい。
特に魚人相手には絶大な効果を発揮する。
空気のような存在のスキルで透明化に近い状態で敵の耳元に忍び寄り
「わあああああっ!!!」
と叫ぶと、敵は
「ぎゃあああああ!!?」
と驚いて腰を抜かして1ターン分が行動不能になる。
俺、実は……ビックリさせる天才なのかもしれない。
海賊船《バルドル号》。
血の神殿で見つけた伝説のアイテム《海のトリトン》によって、今船は海底の深海へと進行していた。
「浮力安定確認ッ! 右舷の水バラスト、注水完了〜!」
「酸素供給ライン問題なし!エアフィルター正常作動!」
魔導技術と機械工学の融合。まるで潜水艦のような動きで、船は海底へと潜っていく。
内装はまさに奇跡。酸素を循環させるルーン装置、魔力で稼働する排水装置、圧力調整まで完備。
「やば……この海賊船、ちょっと未来すぎない?」
と、思わずつぶやく俺。
その横で、巨大な斧を手にした筋肉男バルドルがぼそっと言った。
「……村人。俺、正直、深海とか密閉空間……ムリかも」
「わかる……息が詰まりそうになるよな、ここ」
「お前もか……」
二人で顔を見合わせて、ふっとため息。
そんな中、異音が響いた。
――ズゥゥゥゥゥン……ゴゴゴゴゴゴ……
「敵影接近ッ!モンスター反応、2体!」
「モニターに映せッ!」
水中に現れたのは魚人族であるギャングウツボと、腹ペコサメ。
名前 ギャングウツボ
体力 : 1500
攻撃 : 850
防御 : 210
素早さ:1200
この世界でギャングになったウツボ。異常に強い顎とタトゥーまみれの身体。
名前 腹ペコサメ
体力 : 3000
攻撃 : 820
防御 : 410
素早さ:900
この世界で常に腹をすかせたサメのモンスター。仲間すら食べかける恐怖の存在。
「エリック、いけるか?」
「リスクさん、任せて!」
グレイスオマリー長男エリックが海賊船から砲弾を発射!
ズガァァァァン!!!
サメには命中!
「ヒィイイイイ!?」
腹ペコサメが吹っ飛んでいく。が、ウツボはヒラリと避けた。
「クソッ、ウツボ、すばしっこい……!」
その瞬間――ガシャァァァァン!!
船体の窓を突き破って、ギャングウツボと腹ペコサメが侵入してきた!
「ぬぉぉぉ!?来たぁぁぁあああ!!」
「リスク、今だ!」
「任せろッ!」
空気のようにスッと近づき、耳元で――
「わあああああああああ!!!!!!」
「うわああああああああああ!?!?」
ギャングウツボも、腹ペコサメも、ビックリして動きが止まる。
「すげぇぞリスク!一発で止まった!」
「今のうちだぁぁっ!」
海賊団のリーダー、グレイス・オマリーが叫んだ。
「見つけたぞ……あれはなんだ?ウツボギャング?ただの魚じゃないな……でも関係ない!」
バシュッ――!
グレイスがナイフを投げつけ、ウツボの目をくらませる!
「ウツボちゃん、1本釣りだぁッ!」
巨大なフックが、天井から降りてくる。
「チビッコ海賊団、引けーッ!!」
「「うおおおおおおお!!」」
子供たちがロープを一斉に引っ張り、ギャングウツボが宙に吊り上げられる!
「ウツボは塩焼きが最高だよ!」
「佃煮はちょっとなぁ〜」
「唐揚げが正義だってば!」
ギャングウツボは最後に大きな口を開けて威嚇するも
ガブリッ!!
チビッコの投げた手投げ爆弾が口に入り、爆発。撃沈!
「村人……お前……」
「ふふん。俺、ビックリさせるのだけは得意なんだぜ」
そのとき、俺のステータス画面がピコンと音を立てた。
【称号獲得】
「ビックリさせる天才」
10体以上のモンスターを行動不能にさせた者に贈られるお笑い芸人の証。
その名のとおり、驚きこそ我が力。俺は将来、お笑い芸人になる未来が見えました。
その後、腹ペコサメも、みんなで美味しく頂きました。