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【ランキング12位達成】 累計56万2千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:地の血判』

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【最終話】 真実は闇の中

八つ裂き村の広場に、冷たい霧が渦を巻いていた。

血判状を掲げる伊藤悠子の目は赤く光り、背後には古の侍の亡霊の影が浮かび上がる。

その声は、もはや彼女自身のものではなく、何百年も前の武士の怨念が憑依したかのように低く響いた。


「外の者に、この村を汚させはしない……。

 我は釜田治の血を継ぐ者、そして侍の子孫、天が与えし裁きを下す者なり!」


その言葉に、操られた村人たちが一斉に叫び声をあげ、カズヤとアイゼンハワードを取り囲んだ。

鋤、鍬、鎌……農具はすべて凶器と化し、二人の頭上に振り下ろされようとしていた。


「くそっ、囲まれた!」

カズヤは背を合わせ、アイゼンハワードと共に後ずさった。


伊藤悠子は刀を振りかざし、霧を切り裂くように前へ進み出る。

「不実なるものに死を! 地の血判の誓いを忘れるな!」


霧が生き物のように渦を巻き、村人たちの瞳は完全に意志を失っていた。

カズヤとアイゼンハワードはじりじりと後退し、もはや逃げ場はない――そう思われたその瞬間。


外から轟くエンジン音が霧を切り裂いた。

ブレーキ音と共に1台の車が広場に飛び込む。


「大丈夫ですか? 早く、こちらへ!」


運転席から飛び出してきたのは、フリージャーナリストの小林信也だった。

彼は素早くカズヤとアイゼンハワードの腕を引き、後部座席に押し込む。


「行けぇっ!」

小林は叫び、アクセルを踏み込んだ。


タイヤが砂を巻き上げ、車は唸りを上げながら広場を突き抜ける。

伊藤悠子は鬼のような形相で刀を振り回し、霧の中から車を追おうとしたが、その姿は次第に後方へと遠ざかっていった。


直後、遠くから警察のサイレンが重なり合い、八つ裂き村全体を震わせた。

伊藤悠子と四人の地主高橋幸子、松本慎二、木下絵里、佐々木修三は次々と取り押さえられ、霧の中で叫び声をあげる。


車内で、カズヤは荒い息を整え、隣のアイゼンハワードに視線を送った。

「……これで、一件落着だ。八つ裂き村の長い夜に、ようやく朝が来たな」


アイゼンハワードは静かにうなずいたが、その表情は晴れない。

「だが覚えておけ、カズヤ。あの女の目……まだ終わっていないと告げていた」


事件は解決へと向かう。

伊藤悠子と地主たちは逮捕され、村は長き呪縛から解き放たれた。


「これが、事件の核心に迫る鍵だった。地の血判の誓いが……事件を呼び起こしたんだ」

警察署でカズヤがそう呟いた時、ようやく村に静寂が戻った。


村の会場に警察のサイレンが鳴り響き、地主たちは次々に手錠をかけられていった。暴走した伊藤も取り押さえられ、ついに八つ裂き村を覆っていた「血判の誓い」の闇は終焉を迎えたかに見えた。


「これで、一件落着だな」

カズヤが荒い呼吸を整えながらつぶやくと、アイゼンハワードは静かにうなずいた。


しかし、警官に引き立てられる伊藤の姿に、誰もが息をのんだ。

その表情には憎悪も狂気もなく、ただ戸惑いと怯えが浮かんでいたからだ。


「私……どうしてここにいるの……? なにがあったの?」


伊藤悠子は、自分が何をしてきたのか一切覚えていなかった。

地主たちとの共謀も、刀を振り回したことも、血の誓いも……すべて霧の彼方に消えた記憶となっていた。


「まさか……本当に彼女は操られていたのか?」


カズヤが呟くと、アイゼンハワードは険しい表情を崩さずに答える。


「真実は闇の中だ。だが一つ確かなのは、記憶を失ったままでは彼女自身が自分の無実を証明することはできん」



■■■



地主4人と伊藤悠子はそろって警察署へ連行され、事件はついに表向きの解決を迎えた。村人たちは安堵の声を上げ、長い夜にようやく朝が訪れたと涙を流す者もいた。


だが、伊藤悠子が残した謎は、逆に村人たちの胸に新たな恐怖を芽生えさせた。

「彼女は黒幕なのか、それともただの犠牲者なのか」

答えは誰にも分からない。



事件から数日後、拘留所の面会室へ


重い鉄扉が開き、カズヤとアイゼンハワードは静かな面会室に通された。

厚いガラス越しに現れたのは、伊藤悠子。


彼女は疲れ切った表情をしていたが、その瞳だけはどこか澄んでいて、狂気や憎悪の影は微塵も感じられなかった。


「……悠子さん」

カズヤが声をかけると、彼女は小さく首を傾げた。


「私、なにも覚えていないんです」

ガラス越しの声は震えていた。

「地主たちと会っていたことも……あの夜、刀を手にしたことも……全部、霧の中みたいに……」


カズヤは返す言葉を失い、ただ視線を落とした。

しかし次の瞬間、悠子はふっと口元に微笑を浮かべた。


「でも……ひとつだけ、夢のように頭に残っている言葉があるの」


彼女はガラスに顔を近づけ、囁くように続けた。


「“血判はまだ終わっていない。次の継承者が現れる”」


カズヤとアイゼンハワードの背筋に冷たいものが走る。

それはただの夢の残滓なのか、あるいは彼女の中に刻まれた呪いの記憶なのか。


面会室の時計が、重く時を刻む。

伊藤悠子は視線を宙に彷徨わせながら、再び囁いた。


「……地の血判の誓いを……忘れるな……」


沈黙が場を支配し、カズヤとアイゼンハワードはただ互いに目を合わせるしかなかった。

霧は晴れたはずだった。

だが、新たな影はすでに忍び寄っていた。



『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:地の血判』






ー完ー

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