第8話 八つ裂き村の地主たち
八つ裂き村の深い霧は、まだ村を覆い尽くしていた。カズヤとアイゼンハワードは、村のあちこちを歩き回りながら、血判状の謎と地主たちの不可解な行動の真相を追っていた。
最初に訪れたのは木下絵里の牧場だった。
「木下さん、少しお話を伺えますか?事件について聞きたいことが…」
木下は手を振り、険しい表情で答えた。
「すみません、今は牧場の仕事が山積みで。話す時間はありません。」
「でも、とても重要なことなんです。」
「重要だとしても、今は無理です。ごめんなさい。」
次に佐々木修三の家を訪れたが、門前で使用人に止められた。
「佐々木様は今、お忙しいのです。何の用ですか?」
「事件のことで話があるのですが…」
「申し訳ありませんが、今はお会いできません。後日にしてください。」
最後に松本慎二の家へ向かうが、松本自身に門前払いされた。
「何か用かね?」
「松本さん、事件についてお聞きしたいことがありまして…」
「事件のことは警察に任せている。私には関係ない。」
「でも、村の未来にとって重要なことです。」
「それでも、話すことは何もない。失礼するよ。」
四人の地主たち木下、佐々木、松本、そして高橋からの情報は一切得られず、カズヤとアイゼンハワードは行き場を失った。しかし、その夜、霧の中を歩く二人の前に、高橋幸子がひっそりと現れた。
「……あなたたちが、まだ追ってきてくれると思っていました」
その声には、長年抑え込まれた恐怖と疲労が滲んでいた。
カズヤは一歩前に出た。
「高橋さん、お願いです。血判の秘密を教えてください。これ以上の犠牲を防ぐためにも」
高橋は目に涙をため、震える手で視線を床に落とした。
「……わかりました。話すしかありませんね」
深く息をつき、彼女は重い口を開いた。
「私たち地主は、釜田治から命令されて『地の血判状』を書きました。村の掟には逆らえなかったのです」
アイゼンハワードが促す。
「その掟とは具体的に、どのようなものなのですか?」
高橋は声を震わせながら答えた。
「村を守るため、必要であれば自分たちの命さえ捧げる――それが掟です。釜田治の命令は絶対でした」
カズヤはさらに踏み込む。
「そして、釜田大地さんの事件に、どう関わっているのですか?」
カズヤは一歩前に出た。
「高橋さん、お願いです。血判の秘密を教えてください。これ以上の犠牲を防ぐためにも」
高橋は目に涙をため、震える手で視線を床に落とした。
「……わかりました。話すしかありませんね」
深く息をつき、重い口を開く。
「私たち地主は、釜田治から命令されて『地の血判状』を書きました。村の掟には逆らえなかったのです」
アイゼンハワードが促す。
「その掟とは具体的に、どのようなものなのですか?」
高橋は声を震わせながら答えた。
「村を守るため、必要であれば自分たちの命さえ捧げる、それが掟です。釜田治の命令は絶対でした」
カズヤはさらに踏み込む。
「そして、釜田大地さんの事件に、どう関わっているのですか?」
高橋は涙を拭い、視線を二人に向けた。
「……私たち四人が犯人だと、村の人々は思うでしょう。でも……本当の黒幕は別にいます」
彼女の声は、かすかに震えていた。
「黒幕……?」
アイゼンハワードが問いかける。
高橋は小さく息をつき、視線を夜霧の向こうにある図書館の方に向けた。
「……伊藤悠子。図書館員のあの静かな女です。すべての事件は、彼女の策略によって……」
霧の向こう、図書館の灯りが微かに揺れ、悠子の姿が窓の影に揺れて見えたような気がした。
「地主たちの血判状は、彼女の計画の一部に過ぎなかった……」
高橋の言葉が、冷たい夜気に吸い込まれていく。
カズヤとアイゼンハワードは互いの目を見交わす。
霧に包まれた八つ裂き村で、真犯人の存在、知的で冷酷な図書館員が、次なる恐怖と謎を密かに待ち受けていることを、二人は理解したのだった。




