第6話 図書館での発見
八つ裂き村の図書館は、静寂と古い書物の匂いに包まれていた。ランプの柔らかい光が、埃を漂わせながら古い書棚を照らす。カズヤとアイゼンハワードは、地元で働く伊藤悠子に案内され、村の歴史と血判状について話を聞くため、奥の静かな閲覧室へと足を踏み入れた。
「伊藤さん、こんにちは。八つ裂き村の血判状についてお聞きしたいのですが。」
カズヤは控えめに声をかける。
伊藤悠子は一瞬視線を落とし、言葉を濁した。
「ああ、血判状……ですか。……それは、この村に古くから伝わる侍の伝説に関わるものです。」
「侍の伝説ですか?もっと詳しく教えていただけますか?」
アイゼンハワードが静かに促す。
「はい……昔、この村では土地を巡る争いがありました。そのとき、侍たちは自らの血で誓いを立て、血判状を交わしたと言われています。」
伊藤は声を潜め、しばらく口を閉ざした。
「その誓いは、土地を守る決意と、家族や村の未来への責任を示すものでした。しかし、誓いを破った者には……悲惨な代償が待っていたとも言われています。」
カズヤは息を呑んだ。「その伝説が、今回の事件と関係している可能性があると……?」
伊藤はゆっくり頷き、書庫への扉を開けた。
「直接的な証拠はありませんが、この村の歴史書庫には、当時の記録や血判状の写しが残されています。もしかすると、何か手がかりが見つかるかもしれません。」
三人は古い書棚が並ぶ歴史書庫に足を踏み入れた。湿った空気と紙の匂いが、過去の時代の重みを肌に伝えてくる。田中健一と渡辺恵理子も、釜田治の死に関連する情報を求め、一冊一冊丁寧にページをめくっていた。
「ここにあるかもしれない……。」
カズヤが低く囁く。手にした古い歴史書をめくりながら、慎重に文字を追う。
カズヤは隣で、村の伝説をまとめた本に目を通していた。そこには、八つ裂き村の名前の由来となった残忍な事件が記されており、古文書の中に「地の血判状」の記録があることが示されていた。
「これを見て!」
カズヤが声を上げ、指差したページには、血判状の写真と詳細な解説が掲載されていた。赤黒く染み付いた血の痕が、何世代も前の誓いの重みを物語っている。
三つの誓いと、その破りし者が死をもって償うという厳しい掟が記されていた。
・土地を裏切らぬこと
・血を穢さぬこと
・誓いを破りし者は八つ裂きの刑に処す
アイゼンハワードは低い声で読み上げる。
「……まるで処刑の宣告だ。釜田の家で見つかった血判状は黒く焼焦げていたが。似たような内容なのだろう」
伊藤悠子は唇を噛み、目を伏せた。
「その誓いを破った家は、かつて村で酷い目に遭ったと言われています。だから今も、村人はこの話題を避けるのです……。」
三人は互いに顔を見合わせ、書庫の静寂に包まれた。
過去の呪われた誓いが、現代の惨劇へと繋がっているのではないか。
その不穏な予感が、古い書物の間に重く漂った。




