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完結【51万8千PV突破 】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:地の血判』

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第4話 壁の血文字

カズヤとアイゼンハワードは、釜田治の死に残された「血判」の謎を追うため、息子・釜田大地の家を訪れた。


門の前に立つと、そこには古風ながらも威圧感を放つ重厚な屋敷が広がっている。


カズヤはインターフォンを押した。


沈黙。


もう一度押す。

それでも応答はない。


ふと見ると、屋敷の扉はわずかに開いていた。

誰かが出入りした形跡なのか、それとも――。


「……おかしいな」

カズヤは眉をひそめる。アイゼンハワードは低く唸った。

「扉が開きっぱなし……良い兆しではないの」


二人は互いに目を交わし、慎重に中へ足を踏み入れた。


屋敷の中は不自然なまでに静まり返っていた。

聞こえるのは、二人の靴音と、どこからか微かに漂う焦げた鉄の匂い。

廊下には生活感を示すものが整然と並んでいるのに、そこには人の気配がまるでなかった。


カズヤの胸に、得体の知れない緊張が走る。

「……まるで、時間が止まったみたいだ」


やがて二人は居間の扉の前に立つ。

取っ手に手をかけると、冷たく湿った感触が掌に残った。


扉を開け放った瞬間―。


そこには惨劇の跡が広がっていた。

家具は無残に倒され、畳には引きずられた痕。壁一面に飛び散る赤黒い染み。

部屋の中央には釜田大地が倒れており、その背には深々と日本刀が突き立っていた。


そして、もっとも不気味だったのは。

壁に血で書かれた、巨大な文字。


『地の血判状を忘れるな』


その赤は、まだ乾ききっていないように艶めいていた。


カズヤは思わず後ずさる。

「……まるで、俺たちが来るのを知っていたみたいだ」


アイゼンハワードは血文字を見据え、低く囁いた。

「警告じゃ……これは、生きている者の手によるものか、あるいは――」


二人の背後で、廊下の奥からカタン、と小さな物音がした。

しかし振り返っても、誰もいない。

ただ屋敷全体が、不気味な沈黙の中で息を潜めていた。


警察へと通報する二人は、じっと霧の奥を見据える。

「この霧……まるで、私たちが解き明かさなければならない秘密を隠しているみたいだな」


アイゼンハワードは頷いた。

「見えないものに覆われている。けれど、その中に必ず答えがあるはず」


暫くたち二人が屋敷に近づくと、

玄関前には警察の規制線が張られていた。制服姿の警察官が立ちはだかる。


「こちらは現場です。関係者以外は立ち入り禁止です」


カズヤは探偵バッジを示し、静かに告げた。

「私たちは町長・佐藤光から依頼を受けています。調査のために中を見せていただきたい」


警察官は眉をひそめる。

「しかし、現場検証は我々の管轄です。あなた方に一体何ができるんですか?」


カズヤが一歩前に出て、鋭い声で言った。

「釜田治の死はただの火事ではありません。そして、この家で見つかった血判状……それは、この村の奥深い因習に結びついている。私たちには、それを追う責任があります」


短い沈黙ののち、警察官は渋々頷いた。

「……分かりました。ただし、証拠を傷つけないように。監視の下でお願いします」


二人が案内された居間は、まるで悪夢の舞台のように荒れ果てていた。家具は転がり、畳には血痕が点々と残る。中央には無惨に倒れた釜田大地の遺体。背中からは古びた日本刀が突き立ち、動かぬ証のように静かに光を放っていた。


そして、壁には大きく血で書かれた文字が。


「地の血判状を忘れるな」


赤黒いその文字は、まるで壁そのものが呻いているように見えた。


カズヤは息を呑み、背筋に冷たいものが走る。

「これは……警告なのか、それとも呪いか……」


アイゼンハワードは目を凝らし、囁くように言った。

「血判状……村人たちが怯えている言葉。やっぱり、この事件はただの土地争いじゃない」


窓の外では、なおも霧が濃く渦を巻いていた。

その白い帳の向こうに、二人は何者かの視線を感じた。


だが、振り返っても誰もいない。


八つ裂き村に眠る「血判」の呪い。

八つ裂き村の闇が、静かに二人を呑み込もうとしていた。


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