第3話 侍の誓いの伝承
八つ裂き村の市長室には重い空気が漂っていた。窓越しに見える八つ裂き村の山並みは、どこか不気味に沈黙しているように見える。
町長・佐藤光は机の上に資料を並べながら、探偵カズヤとアイゼンハワードを前に深いため息をついた。
「地主たちに再開発計画を説明をした。だが、納得してくれた者もいれば、頑なに反対する者もいた」
佐藤は低い声で続ける。
「特に、古老たちが語る“血判状”の伝承が、村人たちの心を縛っている。侍たちが土地を守るため、自らの血で誓いを立て、互いに裏切らぬと契りを交わした……そう伝えられている」
カズヤが身を乗り出す。
「その血判状が実在するんですか?」
市長は首を振った。
「分かりません。ただ一つ確かなのは、村人たちは口を閉ざしてしまったということだ。“血判のことは他所者に話してはならぬ”古来からそう言い伝えられているらしい。昨日も釜田治に問いかけたが、彼はただ視線を逸らし、黙って立ち去った」
アイゼンハワードは腕を組み、窓の外に目を向けた。
「莫大な金が動くとき、必ず何かが起きるのじゃ……。わしの経験上、伝承にしがみつく者と、金に目がくらむ者が交わると、血の匂いがするものじゃ」
市長は言葉を濁しつつも、机の引き出しから一枚の封筒を取り出した。
「……これを渡しておこう。村人と地主たちのリストだ。君たちなら、彼らの心の内を探れるかもしれない」
カズヤは封筒を受け取り、中の紙に目を走らせた。そこには名が並んでいた。
釜田治:大地主。伝統を重んじる頑固な人物。
釜田大地:治の息子。不動産会社経営。父と再開発計画で対立。
高橋幸子:地主兼農業。地域社会に根付いた人物。
松本慎二:地主。老練で地域歴史に詳しい。
木下絵里:地主兼牧場経営。合理的で商才あり。
佐々木修三:地主。伝統を重んじつつ開放的な考えも持つ。
中村光一:カフェオーナー。社交的で地域貢献に熱心。
伊藤悠子:図書館員。知的で静か。
鈴木健:救急隊員。勇敢で人助けを優先する。
山田花子:主婦兼ボランティア。母性的で優しい。
桜井慶子:不動産会社社員。明るく社交的、内に野望あり。
小林信也:フリーランスジャーナリスト。真実を追求する好奇心旺盛な人物。
カズヤは紙を見つめながら、小さく息を呑んだ。
「……このリストの中に、鍵を握る人物がいるはずですね」
アイゼンハワードは不気味な笑みを浮かべた。
「血判状。それがただの伝承か、それとも今も息づく呪縛なのか。どちらにせよ、真実を暴けば、何者かが必ず犯人の名を告げるかもしぬ。」
市長室の時計が鈍く時を告げた。村の奥底に眠る伝承の影が、今まさに目を覚まそうとしていた。




