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【ランキング12位達成】 累計52万2千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:死刑執行人』

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第6話 瓦礫に埋もれた車両

雪原に突き刺さった列車の残骸は、なおもギシギシ……と不気味な音を立てていた。


炎と煙が渦巻き、積もった雪は瞬く間に黒焦げに溶かされていく。


アイゼンは、瓦礫に埋もれた車両の隙間から、かろうじて身を引きずり出した。

「……フッ、相変わらず骨が軋む音が心地よいな」

冗談めかして呟くが、その額には血が滲んでいた。


後方から「ゴホッ……っ、こ、こんな死に方は論外だ……!」と咳き込みながら出てきたのはジャスパー。


工具バッグはボロボロだが、まだ離さずに抱えている。


「ジャスパー!」

セリーヌが崩れかけた残骸を押しのけ、必死に彼を引き上げる。


彼女のスーツは煤で真っ黒になり、肩口には切り傷が走っていたが、その瞳は決して折れてはいなかった。


最後に、雪煙を切り裂くように声がした。

「下がって!」

カテリーナが重機関銃の残骸を蹴飛ばし、瓦礫の下に挟まれていたアイゼンを引き抜いた。

彼女の頬にも血の跡があったが、その表情は冷静で毅然としている。


彼らが全員そろったとき、轟々と燃える列車が背後で崩れ落ちた。

ズゥゥゥゥン……!と地響きを残し、最後の車両が雪に沈む。


「核は……もう移送されている」

アイゼンは握りしめていた黒焦げの書類ケースを掲げた。中にはゼフィルが残した暗号化ファイルがある。

その文字は、まるで挑発するかのように浮かび上がっていた。


アイゼンは崩れ落ちる廃ビルを背に、黒焦げの書類ケースを掲げた。

「……間一髪だったな」

ケースの留め具は爆炎で焼け、金属が歪んでいる。それでも中には一枚の耐火メモリカードが収められていた。


モスクワの隠れ家へ戻ると、ジャスパーが待ち構えていた。

彼は小柄な体を丸め、眼鏡の奥の隈だらけの目を輝かせる。

「ほう、ゼフィル先生からのラブレターか。これは解析し甲斐があるね」


ラップトップを開き、専用の復号プログラムを走らせる。

だが画面に現れたのは、意味不明の文字列

いや、それはただの暗号ではなかった。


「……ふっ、やるじゃないかゼフィル。量子乱数鍵と、旧ソ連式の使い捨てパッドを組み合わせてやがる。普通なら百年かかるが」

指先がキーボードを軽快に叩き、無数の解析アルゴリズムが走る。

モニターに流れる数式とシンボルはまるで呪文のよう。


セリーヌが苛立ちを隠せずに声を荒げる。

「時間がないのよ! 解けるの?」


「落ち着け。俺を誰だと思ってる? MI6の技術部で残業代トップを誇るジャスパー様だぞ」


数分後、モニターに赤い文字が浮かび上がった。


“BERLIN. THE HEART OF THE RED WOLF.”


同時にファイルの背景に、ゼフィルのシルエットが浮かび上がる。

赤い瞳がこちらを嘲笑い、声が残響のように響いた。


「師よ……追えるものなら、追ってこい」


画面がノイズに包まれ、消えた。


アイゼンはワインレッドのマントを翻し、低く呟いた。

「ベルリン……奴は次の舞台を示している」


チームの視線が交錯する。

モスクワの雪嵐の夜が終わり、新たなベルリンで待ち受けていた。


アイゼンは深く息を吐き、仲間を見渡した。

「生き延びただけで十分だ……だが戦いは、これからだ」


雪原の夜は、炎と煙で赤黒く染まっていた。

しかしその中で立ち上がる四人の影は、決して揺らぐことはなかった。



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