第1話 雪上の追跡
吹雪が荒れ狂うロシア北部の街。街灯に照らされた雪面は白銀の迷路のように広がり、寒風が肌を刺す。
赤いマントを翻すアイゼンハワードは、冷徹な瞳で前方を見据えた。473歳の魔族の老練なスパイであり、魔族の力と銃撃戦術を融合させた熟練の戦闘者だ。
「ジャスパー、位置は?」
アイゼンは無線を通して確認する。
「了解、アイゼン。ターゲットはまだ前線施設に潜んでいます。私のドローンが警察隊の動きを追尾中。」
ジャスパー・クロウリーの声は、いつもより少し興奮気味だ。小柄だが観察力と技術力は一流。
「雪上の追跡は厄介だ……暗殺部隊がこちらに迫っている。」
セリーヌ・ハートマンは拳を握りしめ、緑の瞳を鋭く光らせる。「でも、止めさせはしません。」
轟音とともに、雪煙を蹴立てるスノーモービルの影が迫る。アイゼンは魔族の力で体を跳ねさせながら、狙撃手の狙いを交わす。雪に覆われた街路を滑走する暗殺部隊を、スキーで巧みにかわしつつ、森の縁に向かって進む。
森の奥、雪に覆われた小屋の影。そこに、黒の防寒スーツに包まれ、最小限の計測型デバイスだけを身につけた女性が立っていた。
「待たせたかしら?」
吹雪をものともせず現れたのは、ウクライナ対異能特殊作戦局の工作員、カテリーナ・ドブロフスカだった。27歳。冷静沈着な観察眼と、極寒地での潜入・追跡技術に長けたプロフェッショナルだ。
名前:カテリーナ・ドブロフスカ(Kateryna Dobrovska)
所属:ウクライナ対異能特殊作戦局(USSOC・対極秘任務部門)
年齢:27歳
外見:スレンダーで小柄な体型 。戦闘用装備は最小限、計測型デバイス(ポータブルスキャナー、追跡・解析機器)と軽装のみ
黒の防寒スーツに包み、極寒地でも身軽に動ける
性格:冷静沈着、観察眼に優れる。必要な時は大胆かつ迅速に行動する。
他者には警戒心を見せるが、信頼できる仲間には忠誠心が厚い
任務中は感情を表に出さないが、策略や心理戦に長ける。
戦闘特徴:極寒地での潜入・追跡・索敵に特化。高度な暗号解析・電子戦技術を駆使し、情報戦で圧倒的な優位を作る。近接戦闘よりもスナイパー支援・遠距離制圧・罠設置に長ける。スノーモービルやスキーによる高速移動を伴う追跡・脱出作戦に熟練
「君が新しい協力者か……」
アイゼンは短く頷く。
「情報は間違いないわ。極秘兵器はこの街の地下施設に隠されている。」
カテリーナの声は冷たく、しかし確信に満ちていた。
ジャスパーはにやりと笑う。「なるほど、これは心強いですね。僕のドローンと連携すれば、警察隊の動きを完全に掌握できそうです。」
セリーヌは小さく息を吐き、雪煙に紛れながら言った。「油断は禁物よ。ここからが本番。」
吹雪の中、三人は背を合わせ、迫り来る暗殺部隊に備える。スノーモービル、狙撃、スキー、そして魔族の力――すべてを駆使した、死線ギリギリの追跡劇が幕を開ける。
Operation: Red Eclipse極秘任務は、今まさに動き始めたのだった。
吹雪が荒れ狂う雪原を切り裂くように、暗殺部隊のスキー部隊が襲いかかってくる。
だがその度に、白銀の闇を裂く狙撃音が響いた。
「……一、二。」
カテリーナ・ドブロフスカは冷静に数えながら、淡々と敵を撃ち抜いていく。
雪煙に紛れて高速で滑走する暗殺者でさえ、彼女の照準から逃れることはできなかった。
「嘘だろ……動いてる相手を、吹雪の中で正確に?」
セリーヌが思わず呟く。
カテリーナは僅かに唇を上げた。「雪は敵じゃない。……私には隠れる場所を教えてくれる味方よ。」
その言葉と同時に、彼女は雪面へスライディング。スキー部隊の死角に潜り込み、小型デバイスを起動させる。
パチン、と軽快な音とともに投げ出されたのは、超振動地雷。雪の下に潜り込み、瞬時に氷を砕く。次の瞬間、敵スキー部隊の進路が爆裂し、複数の追跡者が白い裂け目へと飲み込まれた。
「ふふ……やるじゃないか、ウクライナの鷹は。」
アイゼンは感心したように赤い瞳を細め、リボルバーを片手に敵を撃退しながら呟いた。
「あなたが悠長に感心してる間に、数は半分に減ったわ。」
カテリーナは無線越しに短く答え、再びライフルを肩にかける。
その瞬間、敵のスノーモービルが背後から突進してきた。
轟音を立てて迫る車体だが彼女は一歩も動かない。
冷静にライフルを伏せ撃ち姿勢に変え、たった一発で運転手のヘルメットを撃ち抜いた。モービルは操縦を失い、雪原へと転倒して炎上した。
「ちょっと! 今の、私でも外す距離よ……!」
セリーヌの叫びに、カテリーナは淡々と答える。
「訓練の賜物。それだけ。」
アイゼンは満足そうに頷いた。「良い腕だ……これなら背中を預けられる。」
ジャスパーがにやけ声で茶々を入れる。「あー、老紳士の好みは分かりやすいな。クールなスナイパー美女に弱い。」
「黙れ、ジャスパー。」
アイゼンとセリーヌが同時に返し、雪原に一瞬だけ緊張が解ける笑いが生まれた。
だがその直後、無線に不穏な通信が走った。
《……MI6、応答せよ。暗号通信を傍受。極秘兵器はこの街の地下施設に存在。暗殺部隊は囮の可能性あり――繰り返す、施設への潜入を急げ。》
「……囮だと?」
アイゼンの目が細く光る。
カテリーナは既に次の行動に移っていた。雪原にスモークグレネードを投げ込み、視界を封じると同時に、三人を手招きする。
「こっちよ。地下施設の入口を知っている。」
「知っている?」セリーヌが驚く。
カテリーナは短く答えた。「私もここに派遣された理由の一つよ。ウクライナ側が掴んだ情報では、この雪原の下に旧ソ連時代の地下実験場が眠っている。……奴らはそこを拠点に使っている。」
アイゼンの赤い瞳が静かに燃える。「……なるほど。では、共産の亡霊どもを叩き潰しに行こうじゃないか。」
雪嵐の中、四人の影は地下施設を目指して消えていった。
本当の戦いは、これからだった。




