第2話 暖炉の談笑と凍てつく朝の発見
吹雪に包まれたペンションの内の夜。
薪のはぜる音と暖炉の火が、ペンション「雪華」のダイニングに柔らかな光を投げかけていた。
夕食を終えた宿泊客たちは、それぞれ椅子に腰を下ろし、赤ワインや熱いココアを手に語り合っていた。
寺田健一( サラリーマン)
「皆さん、こんばんは。ここは本当に静かで、都会の喧騒を忘れさせてくれますね。」
田中美和( オーナー)
「健一さん、恵理子さん、お二人の新婚旅行に私のペンションを選んでいただき、ありがとうございます。ここが皆さんにとって特別な場所になるといいですね。」
伊藤誠一( システムエンジニア)
「……確かに。システムのバグを一つ直したように、心の雑音も消えていく気がします。」
小林花( イラストレーター)
「この静けさ、創作にぴったりです。雪の森を描いたら素敵になりそう!」
鈴木大輔(小説家)
「私も同感です。こうして皆さんのお話を聞いていると……登場人物が勝手に動き出すような感覚になります。」
寺田恵理子( ジャーナリスト)
「……なにか人生の転機が起こりそうな予感がするわ。」
山本拓也
「明日の朝一番、外に出て雪景色を撮りたいですね。」
田中美和( オーナー)
「聡さん、どうかされました?」
中村聡( 元警察官)
「……昔のことを、ふと思い出しただけです。」
寺田健一( サラリーマン)
「過去は過去です。ここでは新しい思い出を作りましょう。」
その時、重い声が割り込んだ。
アイゼンハワード
「……だが、この静けさが永遠に続くとは限らない。」
深い声に、場の空気が一瞬張りつめた。
カズヤ
「祖父の言葉はいつも不吉に聞こえますが、直感は外れたことがないんですよ。」
淡々とした声に、数人がざわめき、理沙は興味深そうに彼を見つめた。
山崎理沙( 民俗学専攻)
「雪山には昔から“不吉を呼ぶ伝承”があります。このペンションも、その伝承の中にあるのかもしれません。」
高橋和也( 登山ガイド)
「……吹雪の音に耳を澄ませてください。これは山が“怒っている音”です。明日は外出しない方がいい。」
不安を打ち消そうとするように、美和は笑顔を取り戻した。
「大丈夫ですよ、皆さん。ここは安全です。元警察官の中村さんもいますし、心配はご無用です。」
だが、その直後
緊急速報
テレビから低い電子音が鳴り、ニュースキャスターの声が響いた。
ニュースキャスター
「緊急ニュースです。本日、無期懲役の判決を受けていた元会社員・馬場紀夫が脱獄しました。警察は周辺住民に警戒を呼びかけています。現在、馬場の行方は不明です。」
ざわめきが広がった。
寺田健一
「まさか……この辺りに?」
寺田恵理子
「私たちの安全は……?」
中村聡
「心配は要りません。私が見張ります。ただ、今夜は部屋から出ないでください。」
アイゼンはグラスを傾け、炎の揺らめきを見つめた。
「……凍える死の気配が近い。嵐は人を閉じ込め、獲物を逃がさない。」
カズヤが低くつぶやいた。
「まるで……これから何かが起きると決まっているようですね。」
その言葉を打ち消すかのように、外から吹雪が窓を叩きつけた。
一晩中荒れ狂った嵐が、ようやく静まった翌朝。
裏庭の雪に足跡を残しながら、健一と恵理子が池の方へ歩み出る。
「見て……あれ……!」
氷の張った池の上に、異様な影が横たわっていた。
近づくと、それは凍りついた人間の死体だった。
囚人服。虚ろに開かれた瞳。
昨日ニュースで聞いたばかりの名前が、二人の脳裏をよぎった。
馬場紀夫。( 囚人 )
寺田恵理子が凍える声でつぶやいた。
「……彼が、ここまで来ていたなんて。」
寺田健一は唾を飲み込んだ。
「だが……どうやって吹雪の中を? それに……これは事故なのか、それとも」
遠くで、アイゼンとカズヤが静かに池を見つめていた。
二人の瞳には、他の宿泊客には見えない「次の惨劇の影」が映っていた。




