エピローグ 崩れゆく宇宙ステーション、揺らぐ世界
宇宙ステーションΛ-Nexus制御球の間。
断罪ノ刃の斬撃で砕けた制御コアが、青白い光を漏らしながら崩壊を始める。
空間は歪み、赤い警告灯が狂ったように点滅。
アリシア・ヴァルデスは膝をつき、それでも笑っていた。
「クク……さすがね、アイゼン……。でも、私は、あなたになど殺されない」
彼女は血に濡れた手で、コアの残骸を抱きかかえる。
青白い輝きは、まるで彼女を呑み込むように脈動していた。
「ラスト・コアは私と共に虚空へ消える! この世に未練はない……!
覚えておきなさい。いつか必ず……、新世界にわたしは再臨する!」
そう叫ぶと、アリシアは制御室の砕けた外壁から、虚空へと身を投げた。
黒い外套が広がり、無重力の嵐に吸い込まれていく。
「アリシア――!!」
アイゼンが手を伸ばすが、その影は届かない。
次の瞬間、ラスト・コアが閃光と共に崩壊。
Λ-Nexus全体を震わせる轟音が走り、宇宙空間に巨大な青い裂け目が広がった。
吸い込まれる圧力が仲間たちを襲う。
セリーヌがコンソールにしがみつき、マルコが叫ぶ。
「チッ、ここまで来て宇宙に投げ出されるとか冗談じゃねえ!」
アレックスがワイヤーを射出し、仲間を次々と固定していく。
ジャスパーは顔を歪めながら端末を叩き、緊急隔壁を作動させた。
「ガタついてるが……これで持つ! サーバーも止まった……今は……静かだ」
やがて、Λ-Nexusの外壁が巨大な音を立てて崩れ落ちる。
青白い閃光はやがて消え、そこに残るのは暗黒の虚空だけだった。
制御球の崩壊と共に、宇宙ステーションΛ-Nexusは青白い閃光を伴い、骨組みごと軋みをあげ始めた。
壁や天井のパネルが剥がれ、無重力下で回転しながら漂う瓦礫――弾丸の薬莢や折れた金属パイプが、まるで弧を描く雨のように仲間たちを襲う。
セリーヌはワイヤーを握り、宙に浮かぶ破片を蹴って軌道を変えながら脱出の経路を確保する。
「クソ……ここ、マジで砕け散るぞ!」
マルコは機関銃を撃ちながら宙を飛び、瓦礫を撃ち抜きつつ仲間を護る。
「ぶち当たるな、俺たちは生きて出る!」
アレックスは壁面や天井を蹴って、稲妻の残像を引きながら高速移動。
「俺のステージはまだ終わってねえ!」
無重力空間の中、まるで空中の稲妻となり、仲間を安全圏へと誘導する。
ジャスパーは端末を操作し、爆発で暴走する外壁の防護フィールドを遠隔操作。
「ちょっと待て……おっと、あぶねぇ!」
警告音が鳴り響き、彼の背後で金属パネルが炸裂。ジャスパーは端末を抱え込みながら、回転する瓦礫の隙間を縫うように進む。
アイゼン・ハワードは黒い魔剣を構え、瓦礫や金属アームを斬撃で粉砕し、仲間の脱出口を切り開く。
《断罪ノ刃〈ギロティーナ〉》が光を弾き、回転する鋼鉄の破片を粉砕するたび、無重力空間に火花が舞った。
彼の動きは冷徹にして正確――まるで舞台演出のように、仲間を守りつつ自身も脱出の道を切り拓く。
背後からは巨大な衝撃波が押し寄せる。
無重力砲の残滓が宇宙ステーションの外壁を吹き飛ばし、破片が宇宙空間へと吸い込まれていく。
「あと数秒で……全てが消える!」
アリシアの残した残光が視界の端で青白く点滅。
チームは緊急脱出ポッドへ飛び込む。
マルコが最後に背後の瓦礫を蹴り、ポッドの扉を閉じる。
アレックスが足場を蹴って着地すると同時に、脱出ポッドは加速。
一瞬の間、宇宙ステーションΛ-Nexus全体が光の柱となり、宇宙空間に向かって爆炎を撒き散らす。爆発の衝撃でポッドは大きく揺れ、仲間たちは無重力の中で互いに体を押し合いながら、脱出経路を維持する。
炎と瓦礫が吹き飛ぶ中、遠くに小さくなる宇宙ステーションΛ-Nexus。
青白い閃光が宇宙空間を裂き、破片が旋回する。
ポッド内で息を整えるセリーヌ。
「……やっと、脱出できた」
マルコは笑いながら拳を握る。
「次はもっと派手にぶちかますぜ」
アレックスは窓越しに残骸と爆発の光を見つめる。
「俺たちが守ったんだ、地上も宇宙も」
アイゼン・ハワードは剣を横に置き、冷静に呟く。
「復讐の女が再び世界を焼かぬようl我らは立ち続ける」
外を見ると、破壊された宇宙ステーションが光の塵となって散り、遠くに地球が穏やかな青で揺れていた。
瓦礫に立つ六人の影は、宇宙の闇に浮かび、英雄のシルエットとして静かに輝いた。
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ15 ― ジャングル・レイド』
ー完ー




