フェーズ10 宇宙ステーション攻防 罠の制御室
宇宙ステーション内のΛ-Nexus最奥、制御球の間。
無数の光パネルが螺旋を描き、中心では青白いエネルギーが脈動していた。
その中心に立つ女――アリシア・ヴァルデス。
無重力に舞う黒外套が、狂気と陶酔を宿した瞳とともに虚空を切り裂いている。
「遅かったわね、アイゼン」
彼女の声は、宇宙そのものに響き渡る冷ややかな鐘のようだった。
その指先が触れるたび、制御球は青白い閃光を爆ぜさせ、Λ-Nexus全体へと回路を走らせる。
次の瞬間。スクリーンに映し出されたのは、揺らぎ始める地球の重力場だった。
都市は崩壊する。
摩天楼は自らの基盤から引き剥がされ、宙へ漂い上がる。
海は逆流し、陸地を飲み込み、大陸そのものがゼログラビティ状態へと引き裂かれる。
「これこそが人類文明の終焉。ラスト・コアの力で、私は地球を再設計するのよ」
アリシアは恍惚と囁き、漆黒の外套を翻した。
青白い電磁の閃光が、時折ステーション全体を縁取り、その姿はまるで人類の終焉を告げる 『天の審判塔』 のようだった。
大気も、海も、都市も、人間の営みすら――すべては無重力の嵐に呑み込まれる。
「世界は私の掌の中で無に帰す。そして、新しい秩序が、私から生まれる」
その瞬間、床に刻まれた陣形が赤黒く発光した。
アリシアの唇が冷笑に歪む。
「ようこそ、《無重力反転結界》へ」
轟、と重低音が響く。
突然、制御室内の重力が暴走し、アイゼンの身体は四方八方から押し潰される。
まるで見えない巨神の掌で握り潰されるかのように。
金属アームが束ねられ、鞭のように襲いかかる。
魔剣ギロティーナが火花を散らし一本を断ち切るが、身体は重圧に悲鳴を上げ、肺から空気が奪われていく。
「影の魔剣も、この場ではただの鉄屑よ」
アリシアの嗤いが制御室に反響する。
アイゼンは血走る視線をアリシアに突き刺した。
重力に押し潰されながらも、その眼光だけは揺らがない。
轟、と耳を裂く重低音。
突然、重力が暴走し、アイゼンの身体は制御不能に引きずり込まれる。
上下の概念は崩壊し、ありとあらゆる方向から重圧が彼を押し潰し始めた。
金属壁に叩きつけられる衝撃が骨を軋ませ、胸は圧縮され、肺から空気が奪われる。まるで見えない巨人の掌に握り潰されるかのようだった。
「フフ……立っているだけで精一杯でしょう?」
アリシアが片手をかざすと、結界の重力はさらに強まり、金属アームが束ねられた鞭となって襲いかかる。
ギロティーナが火花を散らし、一本を斬り落とす。
だが斬撃は鈍い。身体そのものが圧力に軋み、刀を振るうたびに血管が悲鳴を上げる。
「影の魔剣も、この場ではただの鉄屑ね」
結界に捕らわれ、全身を押し潰されそうになるアイゼン。
だがその眼光だけは、決して揺らがなかった。
「……老兵が潰れるか……それとも――」
押し潰される寸前、黒刃がかすかに脈動した。
アイゼンの足首に絡みついた重力反転の圧力が、骨を軋ませる。
無重力のはずの空間に“落下感覚”が錯乱し、視界すら上下左右が崩れていく。
しかし
老練のスパイは口角をわずかに歪め、低く呟いた。
「罠に嵌った獲物が……必ず狩られると思うな」
漆黒の魔剣《断罪ノ刃〈ギロティーナ〉》が、不規則な軌道で振り下ろされる。一閃ごとに空間の影がねじ曲がり、金属アームのいくつかが斬り裂かれて漂う。
だがアリシアは動じない。むしろ愉悦に震えながら、さらなる陣形を発動させた。
「なら、もっと落ちなさい!」
制御室全体が重力の渦に飲まれる。
アイゼンの身体は上下左右に引き裂かれるように引っ張られ、
重力の結界はまるで巨大な拷問器具のように彼を押し潰そうとしていた。




