フェーズ8 宇宙ステーション攻防 内部潜入
青白い光が脈打つ制御球の前に、アリシア・ヴァルデスが立つ。
黒革の戦闘服は彼女の体に張り付き、無重力下での微妙な体勢を完璧に保っている。
指先が触れるたび、ステーション内の液晶パネルが煌めき、複雑な配線と制御系が次々と起動する。
赤と青の警告ランプが断続的に点滅し、内部の空気を緊張で震わせる。
「さて……そろそろ地球を目覚めさせる時ね」
アリシアの声は冷たく、そして悦楽に満ちていた。
彼女の掌の動き一つで、制御球が青白い光を爆発的に放つ。
ステーション外壁のアンテナ群が連動して振動し、地球全域の重力計に異常が発生。
海流は逆流し、都市の高層ビル群が微妙に浮き上がる。
気象衛星が捉えた映像では、南米からアジアにかけての大陸規模で、空気と水の流れが異常な軌道を描き始めた。
制御室内のスクリーンには、リアルタイムで地球上の被害予測が表示される。
都市の影が浮遊し、橋梁やビルの上層が揺れ、港湾ではコンテナが宙を舞う。
「これが、私の答え……世界の再設計よ」
アリシアは冷ややかに微笑む。
その視線の先で、青白く輝く「無重力の嵐」が地球を覆い始めた。
宇宙ステーションは静かに、しかし確実に、地球全体を揺さぶる。
画面越しに見える都市や大陸の風景は、まるで小さな模型のように脆く浮かび上がり、無重力の魔力に引き寄せられていく。
アリシアの手元から放たれる光線は、地球規模の災厄の序章でしかない。
これに立ち向かうアイゼンたち仲間たちの決意が、次の瞬間、宇宙空間を駆け抜けることになるのだった。
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ジャスパーが携行端末を操作し、ハッチのセキュリティを解読。
「おいおい、こんなの地上のATMより脆ぇな……宇宙規模の悪趣味にしては安っぽいぜ」
電子ロックが解除され、エアロックが開く。
無重力の闇が彼らを迎え入れた。
内部は赤い非常灯と無数の浮遊物――弾丸の薬莢、折れたパイプ、漂う血液の雫。
すでに何かが暴れた跡だった。
「……誰か先に侵入している?」
セリーヌの小声が、真空通信に不気味な緊張を走らせる。
突如、通路の奥からサイキック親衛隊が出現。
無重力専用スーツに身を包み、精神波で金属片を自在に操る。
まるで弾丸の雨のように瓦礫が襲いかかる。
マルコは叫びながら機関銃を撃つ――反動で体が後方へ流されるが、ワイヤーで軌道を制御しながら撃ち返す。
「クソッ! ゼログラで撃ち合うなんざ冗談じゃねえ!」
アレックスは壁面を蹴って三次元的に移動し、稲妻の残像を引きながら敵兵を次々に撃破。
「これが俺の舞台だ!」
セリーヌは冷静に回転しながら照準を合わせ、ヘッドショットを次々と決めていく。
狙撃音はない。ただ、敵兵のヘルメットが静かに砕けていくだけ。
その中でアイゼン・ハワードは一歩も動かない。
ただ闇に溶けるように佇み、掌を広げた。
無重力に漂う影が蠢き、敵兵の背後から絡みつく。
「ゼログラでの戦いは……我が領域だ」
低い声とともに、影の鎖が敵の四肢を捻じ曲げ、無音の悲鳴が真空に消えた。
仲間たちが目を見張る中、老練の魔族スパイはまるで舞台演出のように冷徹な一手を放つ。
だが、そのとき
宇宙ステーションの中枢から、異様な振動が全体に広がった。
巨大な青い光がステーション外壁を走り、地球を覆うように広がっていく。
無重力実験兵器が、起動を始めたのだ。
アイゼンが仲間に告げる。
「遊んでいる暇はない……アリシアは、すでに中枢にいる」
チームは無重力空間を蹴り、奥深くへと突入していった。
背後では、ステーションの外壁を赤い警告灯が照らし、地球の青が不吉な色合いで揺らめいていた。




