フェーズ7 宇宙ステーション接近戦
漆黒の虚空に、巨大な影が浮かんでいた。
そのシルエットは地球低軌道を横切るたび、星々の光を遮り、まるで暗黒の巨獣が宇宙に棲むかのように見えた。
数百メートル規模のリング状モジュールを中心に、放射状に伸びる六本の支柱。その外周には無数のアンテナ群と強化装甲板が絡み合い、青白いプラズマの稲光が時折表面を走る。
まるで「呼吸」するかのように、光が脈動していた。
外壁には「研究施設」とは程遠い戦闘的意匠が施されている。
自動迎撃タレット、ミサイルハッチ、ドローン発射口。
それらはすべて、敵を拒絶する要塞の牙だ。
さらにステーションの下層部には、半透明の球体が据え付けられていた。
その内部では、不気味な青色の光球が回転し、時折空間を歪めるかのように周囲の星々をねじ曲げて映していた。
それこそが「無重力実験兵器」の心臓部。
アリシアが掌握した、地球全土に影響を及ぼし得る究極の兵器だった。
通信傍受によれば、兵器は地球の重力場を歪ませ、大陸規模でゼログラビティ状態を発生させることが可能。
都市は崩壊し、海は逆流し、文明そのものが失われる。
青白い電磁の閃光が、時折ステーション全体を縁取り
その姿は、まるで人類の終焉を告げる「天の審判塔」のようだった。
ロケットのシャトルモジュールが静かに接近する。
船体の外壁を這うように、チームのシルエットが影絵のように浮かぶ。
真空の中、無音。
ただヘルメット越しに聞こえるのは、心拍と短い通信だけ。
セリーヌが赤外線スコープを覗き込み、敵の監視ドローンの巡回ルートを読み取る。
「パターンは60秒サイクル……ここを抜ければ死角に入れる」
アレックスがニヤリと笑い、スラスターを軽く噴射。
「なら、俺が囮になる」
瞬間、金色の残像を引きながら高速移動――ドローンのセンサーを翻弄し、仲間たちを安全に通す。
マルコはグラップルを撃ち、船体に固定。
「行くぞ!」
ワイヤーを引き寄せ、全員を一気にハッチ近くへと移動させる。
金属とガラスの狭い格納室に、チーム全員が集まる。
アイゼンは無重力スーツの胸部に小さな魔族紋章を光らせ、肩越しに仲間たちを見渡す。
マルコ・サンタナは手首に装着した装備を点検しながら、低く笑う。
「これで炎の嵐もかき分けられるな。」
無言の重火器、火炎放射器を背負う彼の背中には、熱と戦場の匂いが漂う。
アレックス・カーターはスーツを装着し、肩のブースターを確認する。
「行くぜ、みんな宇宙空間のダンスパーティだ。」
軽快な口調とは裏腹に、目は戦闘に燃えている。
その動きは無重力戦闘を意識した流れるような構えで、まるで三次元チェスを指すかのようだ。
クロエ・ルノワールは端末を起動し、ステーションの電子系統を解析する。
「無重力実験兵器の制御回路……踊るのは私の番ね。」
青い光が端末から飛び散り、格納室の壁に複雑な回路図が立体投影される。
ジャスパーは浮遊しながらパッドを叩き、口を尖らせて皮肉を飛ばす。
「死にたくないんだけどな……いや、まあ、俺だけは例外だろうな、当然。」
電子戦用の小型デバイスを両手に持ち、無重力空間で器用に操作する。
セリーヌはブーツの磁力装置を確認し、アイゼンの隣で構える。
「行くわよ。息つく暇もないってことね。」
狙撃銃と短剣を手元で操り、無重力環境での即応体勢を整える。
格納室の空気が変わる。
巨大なロケットポッドが静かに開き、青白い光の粒子が浮遊する。
カウントダウン音が響き、振動がチームの体に微細な圧力として伝わる。
マルコとアレックスは互いに目配せをし、格納室の外壁を蹴って無重力への突入準備を完了する。
アイゼンが低く呟く。
「地球を守るには、この舞台しかない……さあ、行くぞ。」
瞬間、格納室の床が消えるかのように開放され、チーム全員が宇宙空間へ飛び出す。無重力下での動きは一瞬の判断が命取り。
マルコは回転しながら浮遊する瓦礫を盾にし、機関銃を連射。
アレックスはブースターで急加速、三次元的な軌道でアリシアのステーションへ接近。
ジャスパーは電子戦用ドローンを展開し、通信網の妨害を開始。
セリーヌは静かに狙撃ポイントを確保し、アイゼンは魔族の力で空間の流れを微妙に変えて仲間を保護する。
振動する宇宙ステーション、点滅する警告灯、青白い光の洪水。
まるで無重力の舞踏会がそれぞれの動きを完璧にシンクロさせ、地球規模の危機に立ち向かう準備が整った。
そして視界の先で、青白く輝く制御球の中枢が見える。
アリシアの冷たい視線とともに、地球を揺るがす無重力実験兵器の力が解き放たれようとしていた。




